DRAG☆ON☆FALL
もし――――それが失われし種族なら

もし――――追いかける彼が追われている身だとしたら

もし――――それに彼女が気付いていれば

そのもしが本当になってしまう時が来てしまったら、彼はどうなるのだろうか?



 夜は彼女を追い続け、昼は町で情報を得る。そんな生活の中、彼は限界が来ていた。
 左頬に龍の痣を持ち、緑のバンダナをした青年――リュイ・ブリーズ。それが彼の名だ。
 彼女とは吸血鬼(ヴァンパイア)の少女 メアのこと。
 このご時世、深夜に町をはびこる異端の生き物は数多い。
 その中の一つが吸血鬼。人の生き血を糧として生きる生き物だ。
 それを退治する吸血鬼退治屋(ヴァンパイアハンター)が彼の仕事である。
 しかし、他の吸血鬼は退治しても、メアだけは退治することはなかった。
 まぁ、いわゆる一目惚れであり、片思いではあるのだが。

 本日は大した情報も得られず、ぐったりと疲れた様子で宿にたどり着いた。
 出迎えてくれたのは宿屋の主人。中年で少々太めの朗らかな男性である。
「やぁ。どうだったかい?」
「全然ダメでした。でも、いいですね……この町は平和で」
「まぁ、比較的に今はね。他は大変なんだろう? 異端の者達が多く徘徊する所とか」
 町をでずに店を構える者にとって、外からの情報は重要な物。
 なので、耳は早いというこの宿に泊まることを決め込んだ。
 そうですねと、苦笑いを浮かべ軽くあしらうと、早々に部屋に引き込んだ。
 この町にはどうやら来てなさそうだし、明日には立とうと思ったからである。
 それと、夜に下の酒場で少しはましな情報を得ようと思ったこともあった。




 + + +




 夜――酒場では毎晩のごとく繰り返される騒ぎが起きていた。
 些細な情報を逃さないよう、慎重にかつあまり周囲に分からないよう聞き耳を立てていた。
 そんな中で、彼女の情報とは別な重要な単語が聞こえてきた。
 竜人狩りをする者達の噂――それもこの町に近づいてきているとのこと。
 多数いる、人とその他の種族との合間の種族……亜人。
 その中でも珍しいのが竜人。竜の姿も人の姿もとる種族で、その昔亡びたとされている。
 いや、正確に言えば亡びかけた種族だ。
 それを狩る理由は、力の元である宝玉。
 竜人は生まれる時に宝玉を持って生まれる。それは、つがいとなった者に託し一生を終える。
 しかし、時として宝玉は知恵を、力を授けるといわれている。
 人はなんとしてもそれを得たいと思った。
 厄介なことに巻き込まれるのはゴメンと、その噂の真相を聞くため、その客にリュイは近づいた。
 旅途中の二人組は、北から来たそうで、そこで竜人狩りの一味と出会ったそうだ。
 さほど大きな組織ではなく、単なる遊びと思ってのことらしい。
 ホッと息をつくと、リュイはいい加減床につこうかと思った。
 良い噂はなさそうだ。


 だが、そう思った時のことである。
 酒場の扉を乱暴に開け、集団が入り込んできた。
 武器を持った集団。信じたくはなかった……
「オイ親父。この辺で竜人を見かけたって話を知らないかい?」
 頭と思われる黒髪をなびかせた女性が、カウンターに腕をおくまでは。
 あくまでも冷静を装い、二階への階段を上ろうと意識を向ける。
「はっはっは……お嬢さんは、失われた種族をお捜しで?」
「ああ。この近くにいるらしいと噂で聞いたからね」
「それは、それは。しっかし、ここ数ヶ月そんな噂など聞いたことがないねぇ」
「ふ〜ん。てことは、町にはいないということかな? まぁ、いい。邪魔したな」
「いや。どうせならば一杯くらいどうだい?」
「遠慮しておくよ」
 ヒラヒラと手を振り、また来ると言い残すと女性は一団と共に去っていった。



 早く、この町をでなければ。
 そういう思いがリュイにはあった。





 + + +





『む〜またあいつの匂いがする。何処行っても……まぁ今日はあっちが先か』
 闇夜に広がった蝙蝠型の黒く鈍く光る翼。白く光る牙に人より長く細い耳。
 それが何より彼女が吸血鬼である証。
 月明かりにてらされてなびく蒼の髪。その合間から見える双眸は紅。
 一番近い高い塔の上に着くと、一休みもかけて腰を下ろした。
『狙うは幼い少年。ふふふ……』
 血の好みも色々あるようで、彼女は幼い少年ばかりを狙う。
 リュイ曰く、"ショタコン野郎"らしいが。

"―――――!!"

『……?』
 一瞬誰かの叫びが聞こえた気もしたが、声は聞こえていない。
 人の耳に聞こえない物を聞き取る彼女の耳でさえ、あやふやな音でしかない。
『なんだろ。どうしてこんなに気になるかなぁ?』
 小首を傾げると、食事の気も失せてしまった事に今更ながら気がついた。





 + + +





 リュイは荷物をまとめ上げると、胸に下げる小袋を取り出した。
 そこからでてきたのは、透明で小さな黄緑結晶のカケラ。
 砕けてしまった宝石の残骸である。
「どうして……そっとしておいてくれないんだろうな。母さん」
 カケラをしまい小袋をギュッと握ると、窓を大きく開けた。
 宿の主人には悪いが、置き手紙は書いた。
 理由を分かってくれるだろう。おそらくは。
 幸いにもこの夜は風が吹いていた。風のない日に風が吹くのは不自然すぎる。
 月明かりが雲に隠れる頃合いを待ってから、リュイは窓の外へ飛び出した。

 風は南向き。早さは適度。これくらいならば飛べるだろう。
 リュイは両足に風を巻き付けると、屋根を思いっきり蹴った。
 先程の一団がまだ別の酒場にいるよう願いながら。





 + + +





 地上にいた先程の女性は、風が変わったことに気がついた。
 クツクツと、笑いがこみあげてくる。
「お頭、どうかしたんすか?」
「いたよ。目的のがね。ふ〜ん風か……」
 急いで髪を束ねると、その辺にいた集団に声をかけた。
「武器を持て、どういうやつかはわからん。逃すなよ?」
「「「「おお〜っ!!!」」」」
 一団はそれぞれの武器を手に、女性の後を追って動き出したのだった。





 + + +





『騒がしいなぁ。いったい何?』
 火が町のあちこちに灯りだし、人の声が聞こえ出す。
 一瞬自分を追いかける軍勢かと思ったが、そうではないらしい。
 吸血鬼相手に火を使う馬鹿はいない。
 明かりを嫌う者相手に明かりなど逆効果だ。
『人狩り? でもなさそうだよねぇ……厄介ごとは嫌だし、南の方の森にでもいるか』
 闇に紛れながらメアは、南の森に移動していった。



 木の上で一休みと目を閉じかけると、下の茂みで何かが動くのを見つけた。
 夜目の利くメアでさえ初めは何か見当がつかなかった。
 興味を持って、それを見るために地面に降りると、いきなり爪を向けられた。
 所々血がにじみ、片目を瞑っている、生き物。
 二本のツノが頭にあり体は鱗に被われて、メアの翼によく似た蝙蝠型の翼。
 月が影から顔を出すと、鱗は若草色に光っていた。
『竜? でも、こんな所にいるわけが』
 メアの発した声でその竜はビクリと体を震わせた。
「その……声……メア……か?」
『リュイ?!』
 意外な人物に意外な所で会った……と二人は同時に思った。
『どうし』
 言葉を続けようとも思ったが、追いかけてくる人の声が聞こえたためメアは止めた。
 ここでリュイを置いたまま自分だけ逃げることもできたが、そうできなかった。
 両手を目の前で組むと、何度か組み替える。
 そして、1度目を瞑ってからカッと見開いた。
『暗黒の姫の口づけ……闇の影―ダーククローク―』
 メアの両手から黒い煙が立ちこめ二人の周りをすっかり被ってしまった。
 煙の向こうに人が走っていく足音が聞こえたので、見つからなかったのだろう。
 ホッと息をつくと、竜――リュイは首をようやく上げた。
「サンキュ。助かった」
『どうでもいいけど、説明してよ。あと、今日は追いかけっこなし』
 苦笑を浮かべるとリュイは背負ったままの荷物から小袋を取り出した。
 そしてそれに向かい言葉を発すると、体は小さくなり、竜から人へ戻った。
 戻っても、傷だけはそのままでまだ片目は瞑ったままである。
「竜人……って、知ってるか?」
『あの消えた種族? それくらい知ってるよ。何年生きてると思うのさ。昔のことでも』
「少なくとも、俺よりは短いだろ」
 意外そうにメアは驚いた表情を作った。
「俺はその失われた種族の生き残りだ。正確に言えば、失われた種族の一つ、風竜族の竜人。
 歳は大体竜人で言う18〜9。人から見れば500年は生きてるぞ」
『……詐欺だ。私はまだ300にも満たないってのに』
「知るかよ。で、あいつらはおそらく俺が持っているはずの宝玉を狙ってる。そんなモン随分前に」
 リュイが小袋を開くとでてきたのは小さなカケラだけ。メアはそれを珍しそうに眺めた。
「これは、母さんの宝玉の名残だ。これがあるおかげでまだ魔法も少し使えるし、竜型にも変化できる。
 けど、それもいつかできなくなるんだよ」
『どうして、そんな話をするのさ?』
 その問いにリュイは答えることをためらった。
 今まで自分の身の上話など他人にした覚えはない。
 これも惚れた弱みかなと、自嘲の笑みを浮かべると、メアの手を取った。
「一つ頼みがある」
『頼み?』
「ああ。もし、俺がもう捕まえようとするのを止めたら、ずっと一緒にいてくれるか?」
『?!』
 戸惑うメアにリュイは言葉を続ける。
「当分俺は身を隠さなきゃならないし、宝玉も探し出したい。でな、そうなるとお前と会えなくなるのが嫌なんだ。だから……」
『う……こんなとこで言うのも詐欺だ』
 顔を真っ赤に染め、メアはそっぽを向いた。
 しかし、その行動は肯定を意味しているようにしか見えない。
 鼻で笑うと、リュイはメアの頭を撫でた。
「詐欺でも良いんだよ。先手必勝あるのみだろ? で、お前はどうしてくれるんだ?」
 しばしの沈黙が訪れた。
 リュイとしては即答で返された方が嬉しかったが、突然のことだ…少しくらい時間をあげても良いだろう。
『……てもいい』
「ん?」
『別に、一緒にいても……いい』
 メアが絞り出した必死の言葉はそれだけだった。
 だが、その言葉はどの言葉よりも一番欲しかった物。
 リュイは今までにないくらいの笑顔を作った。

 この先長く続く時を

「そうときまりゃ、行こうぜ」

 思い人と共に歩んでいこう

『うん』

 何が待つかは分からないけれども



 竜人の青年がどうなったか。吸血鬼(ヴァンパイア)の少女がどうなったか。
 それは人が知る所ではない


〜END〜

おまけ的あとがき。

吸血鬼の少女と吸血鬼退治屋のお話第2弾。
調子に乗って? 続編を書いてみた、そんなお話。
最初のお話とは反対に、対峙屋の方へ視点をあててみたものをつくりたくなり、こうなりました♪
で、どうせならと付加設定が発生。
一番最初の三行がぱっとでてきたため、実は彼も追われる身なら、という風に展開していきました。
とりあえず、何があれラブラブってお話。(笑)
一応キリがついたので、おしまいなのですが……。
あるといえば、書きかけのさらに次の話はあります。
ただ、公開するかは未定。(苦笑)

そだ、タイトルの話。
今回も単語が隠されております……。
DRAGON(竜)、DRAG(引きずる)、ONFALL(襲う)、FALL(陥落する)という具合に。
前回よりも、重たい感じの単語だらけ…だったり。(笑)
(2005/10/15)
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送