MID☆NIGHT☆MARE
夜――――それは闇の支配する世界

夜――――闇の住民が動き出す時間

夜――――生ける者が静かに眠る頃

夜の住民である彼らも、勿論動き出す

『ん〜…っと、よく寝たぁ』
 ここは町のはずれにある、古びた館。
 彼女は寝床である棺から起きあがった。
 外見はいたって普通の人間と変わらない。
 だが、彼女には白く光る牙、人より長く細い耳、そして、背には黒く鈍く光る翼があった。
『お腹すいたな……』
 彼女は翼を広げつつ、窓辺に立った。
 後ろに連なる影は皆無に等しい。ということは、今夜は新月。
 月の出ていない今晩は、彼女にとって好都合の日だ。
『行ってこよう!』
 翼をはためかせ、彼女は夜空に飛び立った。

――――血を糧にし、生きる彼女たちのことを
『いい天気〜』
――――人は皆、吸血鬼(ヴァンパイア)と呼ぶ
『今日は、どの辺に行こうかな』

 闇夜の町に彼女の影が落ちても、気づく者はいない。
 魔物や人殺し、物取りなどのでる夜は、誰もが恐れ外にでないからだ。
 勿論、暗闇が怖いからでもある。
 だが、夜目のきく彼女には町の全てが手に取るようにわかった。
『ん〜と……お、発見』
 彼女は明かりの消された窓の中から、子供の眠る部屋を見つけた。
 それがどうやら、今日の獲物らしい。
 彼女は決まって子供だけを狙う、しかも少年ばかりを。
 多少……いや、かなり血の好みが偏っていると言えるだろう。
『さて、どうやって入ろうか』
 彼女は翼をはためかせ、窓の横に近づいた。
 月夜の場合は屋根の影に潜み、じっくりと思案するのだが、今晩はその必要がないため幾分大胆になっている。
 窓を割るのは簡単だ。
 だが、安易にその方法ばかりとるわけにもいかないだろう。
『ここは、やっぱり……』
 彼女は手を伸ばそうとして、すぐに引っ込めた。
 嫌な予感だ。
 人と違って第六感はかなり優れているので、無視するわけにはいかない。
 振り向きざまに、彼女の横を白銀の線が駆け抜けた。
『あぶっ……矢?! しかも、この矢尻は……銀?!』
 彼女は全身の血の気が引くのを感じた。
 横の壁に突き刺さった一本の矢。
 刺さった所を覗けば、微かに光る銀色が見える。
 吸血鬼といえば、にんにくや十字架などが苦手とされる。
 それらは割と平気な彼女なのだが、何故か銀だけは苦手だった。
『このことを知っているのは……あいつだけっ!』
 後ろ――すなわち向かいの屋根のほうを見ると、人影があった。
 人には見えないくらいの、とけ込んでしまいそうな影だが、彼女にははっきりと見える。
 その手には……ボウガンが握られていた。
『またお前かっ! リュイっ』
 リュイと呼ばれるこの少年だけは、彼女の弱点を知っているのである。
 吸血鬼にとって、弱点を知られるということはそうとうな事態なのだが、実は前に一度彼女がうっかりばらしてしまったことがあった。
 その時は確か、相手の話術にのせられた。
 ある意味一生の不覚である。
「当たり前だ! お前を捕まえるのが、俺の仕事だからな」
 左頬に龍の紋を持ち、緑色のバンダナをする、彼――リュイの仕事は吸血鬼退治屋(ヴァンパイアハンター)なのである。
 吸血鬼退治屋の数は少ない。
 一時期、吸血鬼狩りが行われ、吸血鬼の数が減ったのだ。それと同時に、それを職業とする者達も減っていった。
 もう一つ言えることは、この仕事にはリスクが大きすぎることである。
 後者は魔物退治屋(モンスターハンター)にも言えることなのだが、吸血鬼退治屋の場合は、最悪目的を見つけることなく終わることもあり得るということだった。
 リュイは矢の先に結びつけてある、紐を引いた。
 紐が引っ張られると、突き刺さっていた矢が抜け、リュイの手元に戻されていく。
「ったく、避けるなよ。これ一本しかねぇのに」
 この時代、銀はかなりの貴重品だ。それでたくさんの武器を作ることは難しい。
 ぶつくさ言うリュイに彼女は文句を付ける。
『避けなきゃ、死んじゃうだろ!』
「殺しはしないさ、で? 今日の目的はその家の子供か?」
 彼女にはリュイがニヤリと笑うのがハッキリ見えた。
 返す言葉がない。
 どうしてこうお見通しなのか。
 大体なんで自分ばっかり狙うのか。
 とにかく聞きたいことはたくさんあるのだが、矢がリュイの元に戻った以上、再び狙われる可能性が高い。
「正解のようだな。お前の考えはお見通しだ。ショタコン野郎!」
 指を指された彼女の後ろに、雷が走ったかのように見えた。
 ショタコン……ショタコン……
 …………
 確かに、幼い少年ばかりを狙う彼女が、リュイの目にそううつっても仕方がなかろう。
 それにしたって……
『それを……言うなぁ!』
 彼女は目をカッと開くと、リュイの元に飛び、胸ぐらを掴んだ。
 リュイは、そんな体勢にもかかわらず、ニヤリと笑う。
『な゛……』
「THE ENDだぜ?」
 戸惑う彼女の胸に、矢のセットされたボウガンを突きつけた。
 リュイが近距離で矢を外すことはない。
 ましてや、こんな至近距離。リュイでなくても確実に命中させられる。
『くうっ』
 翼で風を起こし、リュイが戸惑っている間に彼女は夜空に舞い戻る。
 リュイの自信満々の笑みほど怖いものはない。
 それを良く知っているのは、彼女自身だった。
「逃げるのか?」
 呆れ口調で言われれば、彼女も引き下がるわけにはいかない。
 挑発されていることはわかるが、彼女は負けず嫌いだった。
『逃げるんじゃないの、食事にいくのよ!』
「ほぉ」
 彼女はしまったと思ったが、時すでに遅し。
 リュイは足元の荷物を背負い、動き出そうとしている。
『だっ……大体なんで、私を追っているのよ!』
 頭が混乱しだした彼女は、訳の分からないことを口走った。
 リュイが聞きたいか? というので、彼女は素直に頷いた。
 こういう辺り、騙されやすいのかもしれない。
「俺の知っている、吸血鬼はお前しかいないから……だ」
 断言され、彼女は少し驚いた。
 退治屋(ハンター)ならば、もっと色々な者を知っていると思っていたからだ。
 ましてや、リュイの腕となると相当な数を退治したであろう。
「それに、お前は他の奴と違って、素直だからな」
 リュイが言葉をこうつけ足したが、小さな声だったので彼女には聞こえなかった。
 僅かだが、リュイの口端があがったかに見えた。
『バ……ババッカじゃないの! リュイ、自分で言っていること分かってるわけ?』
 何故自分がここまで慌てるのか、彼女はわかっていない。
 自分の顔が、耳の端まで赤くなっていることにも、当然気づいていない。
 大体今まで普通の人間は簡単にあしらえたはずだ。
 どうしてこう、毎度毎度、リュイだけに手こずるのだろう?
「勿論。だからお前だけを追っているんだよ、メア」
 リュイは静かに何故かやさしく言い放った。
 彼女の名前は最近知った。
 別に初めからそれで呼んでも良かったのだが、顔をさらに真っ赤にする彼女の反応が見たいという悪戯心がリュイにはあった。
『……っもう、帰る!』
 翼をはためかせ、メアは闇夜の町を逃げるように飛んでいった。
 一人残されたリュイは、手に持つボウガンを空に向け、自分もその方を見た。
「いい加減、俺の気持ちに気づけよ。メア」
 メアを偶然初めて見たときから、だったろうか。
 それまでは、何も考えず、ただ吸血鬼を追い、退治してきた。
 だが、あの時自分の気持ちは変わった。
 彼女だけは、他の誰かに奪われたくない。
 闇夜を舞う、美しい彼女を知るのは自分だけでいい。
 二度、三度と会うたびに、この気持ちは大きくなる。
 リュイはメアの飛び去った方を見た。
「いつか、俺を好きにならせてやるからな、覚悟しとけよ!」
 この宣戦布告は届いただろうか。
 お互い敵同士。だが、自分の心に偽りはない。

――――願わくば彼女の心に

「次はどの町かな」

――――自分の気持ちが届いてくれますように

 そして彼らの気持ちの鬼ごっこは続く。新たな町を舞台として


〜END〜

おまけ的あとがき。

吸血鬼の少女と吸血鬼退治屋のお話。
実はこれ、のちのちシリーズ化します。(といっても、2作目があるだけですが)
なんとなく、吸血鬼のお話が書きたくなって書いた物です。
で、ただの吸血鬼じゃ面白くなくて、ショタコン趣味にしてみたりとか。
そんな吸血鬼に恋する吸血鬼退治屋がいてもいいじゃないか、とか。
そんな彼にも実は秘密が…とかで、どんどんふくらんでいる物です。
一応この次のお話でキリがつきますが、まだ続きます。(多分(笑))

あ、タイトルの話を忘れてた。
これ、単語が隠されていまして…
MIDNIGHT(真夜中)、NIGHT(夜)、NIGHTMARE(悪夢)、そしてMARE(メア)と、最後は名前ですね(笑)
面白いからと、続編のも同じ要領でタイトルを付けてみたり。
(2005/10/15 追記)
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