それは、例のごとく……

 セイラントの思いつきで始まった。



「God Ability(ゴッド フェアメーゲン)」 〜Ausnahme 1 花火対決?!〜



 太陽が元気になった七月後半。世間が夏休みと騒ぐ頃である。

 普通といえば普通の高校2年生、東雲斑鳩(しののめいかる)も一時の幸せに浸っていた。

 勿論、山のようにだされた宿題は頭から追い出してある。

 まだまだ夏休み前半だ、手をつけなくともいいだろう。

 少し涼しい部屋に寝転がっていると、不意に違和感を感じた。

 そして、次の瞬間

 神殿のような場所に、斑鳩は放り出されたのである。



「いったぁ……なんなわけ? 急に」

 どうやら落ちた拍子に全身の右側をぶつけたようだ。

 動くのは少々辛い。

 不意に、頭の中で心配するような声が聞こえた。

"大丈夫か……ここ天界だ。斑鳩"

「ええ?! 何でまた。何か見えそう? 冴奉(ごほう)」

"見ようと思えば。が、必要なさそうだ"

「え?」

「いっかる〜ん!」

 ドタドタと煙を巻き上げながら駆けてくる足音。それと共に声の主の気配は遠ざかった。

 ああ、この音は、と思う間もなく飛びつかれた。

 長いしっぽのような白髪がゆらんと揺れる。

「遊びに来てくれたんだな。いかるん」

「う〜ん、しっぽ。それはちょっと違う。気がついたらここにいたの」

 思いっきり疑問符を頭上に浮かべるしっぽでは、相手にならない。

 この状況を、キッチリきっかり――完結に説明してくれる人物を、探す必要があった。

「あら、ホントにいるじゃない。斑鳩〜」

 声のする方に向くと、柱の向こうにいつもと違う飾りの付いた布を額に巻く、藍姉が見えた。

 服もいつもと違い、蒼のチョッキと同色の浴衣のようなものを着ていた。

(浴衣?)

「藍姉、何やってるの?」

「何って……お祭りよ。セイの唐突な思いつきでね。貴女まで呼んだっていうから、探そうと思っていたのよ。この広い天界で迷っても困るし」

 よく見てみれば、飛びついたままの白穂も、染めの茶色っぽい甚平を着ている。

 視線で自分の服装を訴えると、嬉しそうに藍姉は微笑んだ。

「貴女の分も、ちゃんとあるわ。可愛く仕立ててあげるんだから、逃げないことね」

 なんとなく、その場から逃げたいと思った。



 何でもありな天界で、とにかくなんでもありの部屋に連れ込まれた。

 話によると世界中のありとあらゆる服がここに存在しているという。

 まぁ、そこはおいておいて。

 浴衣を強制で着せようとした藍姉を押しのけて、手に取ったのはさらし布と法被。

 慣れた手つきで布を巻き、法被を着ると帯を締める。

 下には黒のスパッツ。そして、最後の仕上げは捻りはちまきだった。

「斑鳩、なんでまたそれを選ぶのかしら? せっかくワタクシが可愛いのを選んであげたというのに」

 藍姉が悔しそうな顔をしていたけど、これだけは譲れない。

 大体何が恥ずかしくて浴衣を着なきゃならないのか。勧めてくる色が色だもの。

 なんで、薄い桃色や、明るい青、黄色とかそういう系なわけ?

 可愛いけどさ。うん。白地に赤い金魚とかもね。

 でも、着るなら浴衣は紺でしょう?

 とりあえず服も替えたわけだし、さぁ行こうか。



 広場に向かうと、まさに準備万端。

 あ、藍姉置いてきちゃったけど、まぁいっか。

 櫓も組んであるし、和太鼓は置いてあるし、提灯は下がっているし……ギャラリーは少ないみたいだけど。

 再び見つけたしっぽはきーちゃんと一緒にいた。

 きーちゃんはいつもの服と同色の、黒緑の浴衣を着込んでいた。

「……あれ? 緋君は?」

 そう言えばここに来てから、まだ一度も見つけていない。

 神様だから死なないとは思うけど、いつも4人は一緒にいるから気になった。

「ああ、緋真君なら準備をしていますよ」

「準備?」

「そ、これから始まるえっと……どっちが強いか対決!」

 どっちが強いか対決? 何それ。一体どういう?

 視線をきーちゃんに向けると、苦笑いを浮かべられた。

 いや、苦笑いが欲しいんじゃなくって、説明が欲しいんだって。

「お祭りじゃないんですよ、どっちかというと。花火大会……みたいなのをやるらしいんです。あの人の言うには。地上のお祭りを少々勘違いしていますね、絶対」

 フフフと笑うきーちゃん。絶対何かしら考えているんだと思う。

 神様大丈夫かなぁ……絶対後で仕返しみたいなのを食らうよ。

「それで、こんな格好までしちゃったけど、結局の所みんなで花火を見ようって事なの?」

「そうなりますね。でも、特別ですよ」

 微笑むきーちゃんの言葉"特別"の意味は、その花火が始まるまで分からなかった。

 というか、分かる人の方が凄いと思う。

 普通の花火じゃないんだもの。



 組み立てられた櫓に、二つの影が上がった。

 一つは顔見知った緋君。格好もいつも通り。

 で、もう一つが赤っぽい白地の浴衣を肩ギリギリまで広げ、だらしなさ気に着込んでいる人物。

 ……着流しかな?

 腰には大振りの太刀が見えた。髪の毛は緋色…というよりは、真っ赤な炎の色だ。

 斜めに頭に巻かれたバンダナはオレンジに赤の格子模様。

 口には葉っぱの付いた枝をくわえていて、右目のあたりには縦一閃の傷があった。

 なんか……浪人というか侍というかそんな感じのオーラが見える。

 誰? と、きーちゃんに問うとちゃんと教えてくれた。

 やっぱり、黒くても話が通じる人はわかりやすくていい。

 彼は燬閻(きえん)昔、四人が神様になる前に、十二神将と呼ばれていた頃の仲間だという。

 青龍・白虎・朱雀・玄武の他に、太陰・騰蛇・六合・天后・天空・太裳・勾陣・天一を併せて十二神将と呼んでいたそうだ。

 今もその肩書きは残っているらしいが、やはり位ではなく名前で呼ぶ方が楽らしい。

 その、位と名前の差がいまいちよく分からないけども…まぁ、いっか。

 んで、彼――燬閻は騰蛇っていう位を持っているそうだ。

 神将は神様ではないけど神様に近い存在で、それ故にそれなりの力も持っている。

 騰蛇の位を持つ彼は緋君と共に火将で、地獄の業火も操ることが出来るらしい。

 その力を利用して? 緋君と共にこの空に花火を創るそうだ。

 でもさ、花火って火薬を使うんじゃなかったっけ?

 あの……化学の実験でやる炎色反応を利用して色をだすんじゃなかったっけ?

 間違ってる? ねぇ、私の考えって間違ってる?

「見てれば分かるって。どうせなら楽しもうよ、いかるん」

 にぱっと笑うしっぽには敵わない。敵わないと言うか、毒気が抜かれる。

 ちなみに、きーちゃんには通用しない。なぜなら、あれはもう治せない域まで到達しているから……と私は思う。

 ため息を一つつくと、星の見える夜空を見上げた。

 今日は新月。月明かりのない空に花火はきっとよく栄えるだろう。



「烈火黄葉針(れっかおうばしん)!」


 ドォォォォン


「紫願蒼天竜(しがんそうてんりゅう)!」


 ドォォォォン


 黄色・橙・深紅・青・青紫・すみれ・青緑。色とりどりの花が空を飾る。

「ナトリウム・カルシウム・リチウム・インジウム・セシウム・カリウム・銅……フフッ」

 横でブツブツと元素の名前を言っているきーちゃんは、この際見なかったことにしようと思った。



「破幻神祭竜(はげんしんさいりゅう)!」


 ドォォォォン


「壊螺天空陣(かいらてんくうじん)!」


 ドォォォォン



 幻とも思える天界の花火祭り。

 忘れられない思い出になった、夜だった。


top next

おまけ的お題理由。

15:神
全知全能の神様の気まぐれで、始まった夏祭りというところから。
夏祭り大会ということで、お祭りそのものを思いつきました。
浴衣へのこだわりは、私の本音です。
金魚柄とか、薄い系の色の物を眺めるのは大好きです。
でも、着るなら紺の物ですねvこだわり(笑)
最後のきーちゃんの発言は、炎色反応の物なので、正しい花火の元ではないと思います。
神様の気まぐれから、始めよう楽しい夏祭りを…

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送