確か奴との最初の出会いは
確かあいつとの最初の出会いは
少し前の中三に上がった頃で
だるいとか思ってた教室の隣の席で
見た目は悪かったけど、一学期は一緒だってコトで
女子が話しかけてくるのは珍しくて

「よろしく」と言った態度とかも含め まぁ、とりあえず……悪くはなかった




「God Ability(ゴッド フェアメーゲン)」 〜Ausnahme 3 サクラサク〜



 中学三年ともなれば、大分慣れた始業式。

 クラス変えがいつも通り行われ、大分変わったクラスメイトを眺めつつ、東雲 斑鳩(しののめいかる)はため息を一つついた。

 仲の良かった者達は全て他のクラスに行ってしまったのだ。

 こればかりは、ため息も出てくるだろう。

 教室に行けば少しは周りの席の子達と話せるかなぁと、僅かながらの希望は捨てずその時は過ごしていた。


 だが、その考えは甘かった。

 出席番号順に並べられた座席に座ってみれば、男女混合のためか前後左右男だらけ。

 女子は女子で上手い具合に固まってしまっており、どうにもこうにもならない状況だった。

 本日二度目のため息である。

(なんでこう…運がないかなぁ)

 項垂れたことで流れてきた、長い後ろ髪を払うと、腕を組んだ。

 諦めるのはまだ早い。隣の席はまだ空席なのだ。

 転校生? とも思ったが、そんな紹介は式の中でなかった。

 となれば、式をサボった可能性はある。

 ……サボると言うことは、あまり真面目ではないのだろうが、友達が無いよりはマシかなと、とにかく仲のいい友達を作るコトに思考は専念していた。


 新しい担任が廊下に現れたのはその数分後。

 まだざわめきを残しつつも、お喋りに転じていた生徒達は慌てて席に着いた。

 相変わらず隣は空席。

 休みか? と、なんとも希望をうち砕かれた感に浸りかけた斑鳩だったが……

「痛てて……ひっぱんなよ、弓先!」

「聞く耳もたん。良い機会だから言っておく。今年はお前の好きなようにはさせんぞ! がっはっは」

 廊下中に響くあの特徴的な笑い声をだす先生は、この学年には一人しかいない。

 体育の弓先こと弓谷(ゆみたに)先生である。

 顔に大きな傷をもつ大柄な男性教諭であった。

「おう、遅くなったな。三年四組の諸君。俺が、今年このクラスを担当する弓谷だ。よろしくたのむ」

 にかりと笑った口元では、白い歯が光る。

 普通、担任挨拶は教卓の前でするべきなのだが、この先生に普通が通用することはあまりなかった。

「おら、さっさとお前も座れ。今年の注意とかやるぞー」

 無理矢理教室に引き込まれたというのが正しい感じで、一人の男子が弓先に引っ張られてやってきた。

 前髪の真ん中一房だけがオレンジに染まり、あとは薄緑という目立つ髪。結んでいない後ろは、もう少しで結えそうなくらいの中途半端な長さ。赤いシャツが大きく開いた黒い学ランの中から覗いている。

 いかにも不良といった感じの男子生徒が、斑鳩の隣の席に、仕方ないといった感じで座り込んだ。

(う〜ん、ホントに不良君だとわねぇ……)

 声をかけようと思っていたはずが、やはり現実を見るとどこか引けてしまう。

 だがしかし、ここで引いてしまっては今年一年仲のいい友達もないままカモしれない。

 意を決すると、弓先の動きを見つつ、隣の方へ体を傾けた。

「そこの不良君。名前は?」

「ああ? 何だよ、お前」

 いかにも不機嫌といった答えが返ってきた。

 しかし、ここで臆するな。と自分に言い聞かせ、さらに近づく。

「私は東雲斑鳩。好きに呼んでいいわよ。一学期は席替えないと思うし……四ヶ月ほど隣の席、よろしく」

 にっこりといった、女らしい笑顔と言うよりも、にっかりといった男らしい笑顔になっていたかもしれない。

 あっけにとられた"隣の席の彼"は、すぐに何故か可笑しそうに口角をあげ、ようやくこっちを向いた。

 こっちに向いて気づいたのだが、こちらから見て右……左目だけが前の一房と同じオレンジである。

「茅吹 水面(かやぶきみなも)だ。四ヶ月ねぇ。……よろしく」

 きっかけは隣の席。それでも、この先一年間どたばた二人でやることになるのは、もしかしたら決まっていたことなのかもしれない。



 桜が咲くのは一年の初めだけではない。一年の終わりもそうである。

 二月の終わり頃に、斑鳩の手元には一通の手紙が届いた。

「……あ、そっか。今日だっけ」

 試験を受けたのは二週間ほど前。

 思わず忘れていた、ということは心配がなかったのだろう。

 ペーパーナイフで丁寧に開けると、中からは淡いピンクの便せんが一枚。

【サクラサク   国立 日向舞(ひなたまい)高等学校】

 何度読み直してみても文は同じ。

 それは間違うこと無い、高校の合格通知である。

「ってことは……やったぁ! 母さん。母さん!」

「斑鳩、女の子なんだから、母さんはやめなさい!」

「もう、今はそんなことどうだって良いってば。来たよ、合格通知〜!!」

 その日は、三月のような春の陽気の暖かい日だった。


 翌日。

 学校に合格通知を持っていくと、担任である弓先の熱い包容が待っていた。

 先に推薦で合格した子達から聞いてはいたのだが、免れることはできないようである。

 最初はよかったのだが、段々暑苦しくなるのは確実だった。

「先生。みな……茅吹君は?」

「ん? ああ、茅吹か。あいつの合格はまだ聞いて無いなぁ。確か東雲と同じくらいに発表だったと思うが……」

 考え始めた弓先に、わかりましたとだけ告げて、職員室を後にした。

 これ以上つきあってはいられないというのが本音ではある。

 朝一番に持ってきたことだし、次に喜びを教えるのは水面にしようと思っていた斑鳩だが、この時間に登校してくるはずもない。

 期待もまったくせずに、教室に戻ると意外な光景が待っていた。

「お姫……は、いいとして。みなちゃん?」

「おはよう。いかるちゃん!」

「なんで俺だけ疑問系なんだよ」

 お姫と呼ばれて返事をしたのは村雨 飛白(むらさめかすり)。常に日本刀を背負う、長い黒髪を一本の三つ編みにした小柄な少女である。

 そして、朝だからなのか疑問系が気にくわなかったのか、水面は不機嫌そうな声だった。

「いやだってさ、いないと思ったのがいると……ねぇ? お姫」

「うん!」

 同意してくれるのはありがたいが、この返事のしかたは何も考えていないだろう。

 ともかく二人の近くにある自分の席に腰掛けると、鞄を置いた。

「で、こんな朝早くから……何してるの?」

 問いかけてみたものの、いっこうに返事は帰ってこない。

 ノート類を机にしまい、筆記用具だけを上に置くと、ひじをついた。

 顔を見てみれば、なんともいいにくそうな風ではある。

「……あのね、いかるちゃん!」

「あ、コラ飛白」

「みなちゃんは、てれくさいの。ごーかくつーちなんて、はじめてもらったから!」

 水面の静止の声を聞かずに、凄いでしょと言いたげに飛白は胸を張った。

 言われてしまった水面といえば、少々顔を赤らめて目線をあわせないようにしている。

(ふ〜ん……成る程ね)

 からかえることが増えたと内心ほくそ笑みながら、一応「おめでとう」の声はかけてみる。

 そうすればまた赤面するので、これは面白いと、斑鳩は思った。

「それで? お姫はどうなのよ」

「ごーかく! みなちゃんと、いっしょの所にいくの!」

「へぇ……で、どこに?」

 受けるとは聞いたものの、どこの高校かはすっかり聞きそびれていた。

 ただでさえ、最近自分のことでいっぱいいっぱいだったものだから、仕方がないと言えばそうなのだ。

「……ぅ」

「ん? 何よ」

 飛白に言わせても良かったのだが、あえて本人の口から聞きたいので、飛白に"静かに"という合図を送った。

 しばらくの間、三人ともが黙ったまま時間が過ぎる。

 あーでもない、こーでもないといった水面の内心の葛藤が、よく見て取れたことだけは確かだった。

「色々、魔法関係で来いっていう誘いはあったけどな、結局自分の好きにしたんだよ。私立の……ほら、地元にあるだろ。緋翔って。あそこだよ」

「へぇ〜……緋翔高校かぁ。って、あそこに本気で行くの?!」

「ああ。面白そうだろ?」

 生き生きとした笑顔を見れば、確かにそうかもしれないと思ってしまった。

 この先一緒にいるのは短いけれども、同じ市内に住んでいるわけだし、会う機会はいくらでもあるだろう。

 それでもやっぱり、少しは寂しくなるかもしれない。



桜咲く三月よりも早く 受験生達にはサクラサク


想いの強さの光を受けて 努力という名の水をもって


今年も盛大に花開く


風に乗って散りゆく時 それは それぞれの旅立ちの時


サクラの季節 桜の季節


春はもう そこまで来ていた


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おまけ的お題理由。

92:桜
大本のお題と同じ物を選択。
桜と聞いて、今まで使いたかった「サクラサク」の言葉を使用。
どうせ中学時代に戻すので、こうなったら一年の初めと終わりを書いて増やそうと、こうなりました。
なので、水面と斑鳩の出会い編も兼ねてあります。
桜咲く季節に届ける、あなたとの思い出…

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