第2話『仲介屋さん 参上』

"ボク……戦わないよ?"

 か細い少年の声が、サイナに届いた。

 魔法陣を印の上に移したサイナは、目線を合わせるためにしゃがむと微笑んだ。

「大丈夫だよブラット。今日は退治じゃないから」

"……そう?"

まだ不安げな声で語りかけてくるブラットの頭を撫でると、少し安心したのか強ばった表情は消えた。

「そう。そこだけ緑がないだろ? それを、元通りにしてほしいんだ。あと、こうなった理由も突き止めて欲しい」

"わかった"

 鈴の音が響き渡り、鈴樹が歩いた場に、草花が芽生え始める。

 枯れていた木にも少しずつ生気が伝わり、心なしか先程よりは元気になったように思えた。

『いつみても、不思議な光景っスね……歩いた所に生えてくるなんて』

 琥珀が感心した声を肩の上であげる。

 今更何をといった風に、サイナは苦笑を浮かべた。

「まぁ、ブラット……召喚獣 鈴樹(りんき)は草属の中で一番の力を持っているからね。同じように草属性の蘭狐壟(らんこりょう)とかじゃ、こうはいかないさ……ま、蘭狐壟は土属性でもあるけどね」

『ふ〜ん。そうなんスかぁ』

 サイナと琥珀が話しているうちに、荒れていた広場はすっかり元通り草花や木々の生きる場となっていた。

"サイナ……これ……"

 ブラットは前足に巻き付けている尾を器用に使い、サイナに何か差し出した。

「これは……」

 それは小さな琥珀石のカケラだった。

 このところ、何か異変がある場合の依頼ではこの石を拾っていたのだ。

 このほかに、翡翠のカケラと藍玉のカケラが見つかることもしばしばあった。

『また、あれっスか。む〜自分の名前と同じって、気分悪いっスね』

「でも、随分たまったよ。何かあるのかなぁ?」

 渡されたカケラを今まで拾ったモノを入れた小瓶にしまうと、ブラットの頭をなでた。

「ありがとう、ブラット。助かったよ」

"ううん。これくらい……じゃぁね、サイナ"

 ブラットは光を放つと、その場から消えた。

 サイナはそれを確認すると左手に手袋をはめ、琥珀を肩に乗せた。

「じゃぁ、いこっか。リオさんに報告しなきゃ」

『自分……あの人少し苦手っスよ』

 琥珀がそうぼやくのを、サイナは聞いて聞かぬフリをしていた。



 先程サイナが居眠りをしていた草原まで戻ってくると、サイナは指笛を鳴らした。

 それは、ある特定のモノを呼ぶためなので、周りに音は聞こえない。

 しばらくすると、丹波(たんば)色の小鳥がサイナの伸ばした右手の先にとまった。

「リオさんの所まで、おつかいだよ」

 小鳥の足に手紙を結びつけると空にはなった。

「じゃ、僕は、一寝い……りぃ」

『あ! またそ〜やっ……て、もう寝てるんスねぇ』

 ガックリうなだれる琥珀の横では、サイナが静かな寝息を立てていた。


 + + +


「サ・イ・ナ・く〜ん。……と、あら寝ちゃってるのね」

 光と共にふいに現れたオレンジ色のバンダナを額にする薄茶の髪の女性。

 先の色が濃い、銀髪のサイナほどではないが、少し目立つ髪の色である。六芒星の形をした大きめのペンダントを下げ、紺の袖無しに赤い長めのスカート、そして大きなカバンを肩から提げていた。

「困ったわ。んもう、呼んだなら寝ないでくれればいいものを……」

 その女性は横に座り込むと、サイナの頬を人差し指でつついた。

 心なしか、彼女の頬が少しふくれている。

「サーイーナー君」

『んん〜? 一体誰っス……って、ご主人!!』

 いつの間にやら眠り込んでいた琥珀が声に気づき目を覚ますと、サイナの顔を翼でバシバシと叩いた。

「いた、いたた……酷いよ琥珀。って、あれ、リオさん」

 横にいた女性をサイナはリオさんと呼んだ。

 本名はリオ=カイテル。仕事上大事な人である。

「おはようサイナ君。で、用事って?」

「ああそうだった」

 草を払いサイナは起きあがると、腰のポシェットから先程の小瓶を取り出した。

「依頼完了です。で、このカケラ……」

「ああ、いいわよとっておいて。でも、随分たまったわね」

「ええ……あそうだ。リオさん何か次の仕事あります?」

 そう言われると、リオはカバンの中をのぞき込んだ。

 彼女の本業は仲介屋。いつもこうしてサイナはリオから仕事をえるのだ。

「う〜ん。どうやらなさそうね……今のところ」

「そうですか、じゃぁ僕は久々にじさまの家にでもいくかな……何かあったら。連絡ください」

「了解。じゃ、またね」

 リオは胸のペンダントに手を当てると、次の瞬間その場から消えていた。

 これが、彼女の力"移転動力―テレポート―"である。

 一度行ったことのある場所ならば、瞬時に移動できるという能力だ。

 皆が皆、こういった能力を持っているわけではない。

 だが、彼女はこの力があったから、仲介屋になったと、以前一度だけ言っていた。

「さてと、じさまの所へ行こう。この近くだから、歩いていけるだろ」

『そうっスね〜』

 草原をぬけ"じさまの家へ"サイナは歩き出した。


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