陸杜(ロクト)の大陸、中央に位置する山脈の北。 草原を少し西に行くと、少し大きめの村がある。 ――――シヴォーヌ村 「じさま〜! じさま〜?」 『留守っスかね? にしては、不用心な気がするっス』 扉を開け、中をのぞいてみても返事はない。 「ん……中はいっちゃう?」 『何考えてるんスか! いくら、孫でも許されることと、それ以外とがあるっスよ!!』 「だって…」 パカッ ポコッ 一つ目はサイナが紙筒で叩かれた音。で、二つ目は琥珀が叩かれた音である。 「ったく、何ドロボウのようなことを考えておる、バカ共が!!」 叩いた人物は二人……いや、一人と一匹の後ろにいた。 所々白髪の交じる茶髪。額に長い緑のハチマキをした……老人とまではいかないが、それ相応に年をとった人物である。 首に巻いたバンダナ止めに、薄い蒼の水晶をつけている。 「じさま、どこ行ってたのさ」 「どこでもいいじゃろ。それよりサイナ、その"じさま"はいい加減やめんか」 「だって、じさまは、じさまだろ?」 「それはお前だけが思ってることじゃ。で、はいらんのか?」 それもそうだ……と、サイナは扉をくぐり家の中に入った。 サイナが"じさま"と呼ぶのは、本名から来ている。 祖父の名はイナシ=ゲンム。 初めはサイナも"イナシのじいさま"と呼んでいたのだが、いつの間にか"い"のいらないじいさまに変化し、最終的に"じさま"となったのである。 「……で、何しにこっちに来たんじゃ?」 「ん〜……じさまの顔を見に」 差し出されたコップを受け取ると、琥珀の前に置いた。 「それだけか?」 「うん」 「また、このじじに頼み事があるわけではないな?」 サイナはふと上を見上げてから、イナシに笑顔を向けた。 「……うん」 「今の間はなんじゃい、今の間は」 サイナがイナシを頼るには二つ理由がある。 一つは唯一の肉親である故。もう一つは魔法術士という職を持つ故である。 召喚術士の力の使い方を教えたのも、このイナシだった。 とはいえ、ある程度してからは召喚獣の村へ預けられた。 教えてもらったと言っても、本当に初めの初めくらいではある。 サイナは召喚術士なので、あまり詳しいことは知らないが、イナシは魔法術士の中ではかなり有名らしい。 まぁともかく、祖父であり師である彼は頼もしい存在だった。 『ん? ご主人、外が……』 「どうかしたのか? 琥珀」 そういいつつも"何か"だけは、サイナも感じていた。 イナシは席を立ち、窓から外の様子をしばらくのぞいていたが、ため息をつくと振り返った。 「またのようじゃ。まったく、いい加減大人しくなればよいモノを……」 「じさま?」 「ゆくぞ、サイナ。あやつを押さえ込めるのは、お前にしかできんかもしれん。それに、封印となれば、琥珀の……」 「え、だってじさま。僕は……」 とまどう……否、嫌そうにするサイナの前にイナシは指を五本すっと差し出した。 「……食事5日分でどうじゃ?」 「じさま、せめて15日分」 5日分では少ない……と、サイナは目線で返す。 「ぬ、では10日分でどうじゃ」 「ん〜……まぁ、妥当なところかな」 『ご主人』 どうやら、10日分で話がついたらしい。 サイナは琥珀を肩に乗せると、イナシの後を追い村のはずれに向かった。 「こいつは……」 村のはずれにいたのは、頑丈そうな鎖につながれた、鋭い爪を持つ黒熊に似た巨大な獣。 来る道の途中、何がいるかをイナシが説明してはいたが、予想以上だった。 近頃現れた獣は、村で暴れ出したためイナシがここに封じたらしい。 ところが、動きを押さえるのが精一杯で、完全な封印にはなっていない。 「じさま。なんなんだよ、コイツは!」 「それが分かったなら、苦労はせんとにかく、どうやっても倒すことはおろか完全な封印ができんのじゃ」 サイナにしてもこれほど大きな獣を見るのは初めてだった。 ともかく、今は目の前のことをどうにかするしかない。 『ご主人、ダメっス。自分の力じゃ、見切れないっス』 「わかった……」 左手の手袋を外すと、そのまま手を空に掲げた。 「出でよ、我が召喚獣 無古龍(むこりゅう) クイナ!!」 サイナの頭上に淡い青色の珠が現れ。その中から白い蛇のようなモノが現れた。白い身体に金のツノ、背には黒い翼。耳はうすい青の羽の形をし、両側に三枚ずつある。足はなく、手のみで尾の先のほうに水晶があり、そこから細い尾先が出ている。 そして、首には水晶のついた赤いリボンをしていた。 back top next |
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