第3話『シヴォーヌ村のじさま』

 陸杜(ロクト)の大陸、中央に位置する山脈の北。

 草原を少し西に行くと、少し大きめの村がある。


 ――――シヴォーヌ村


「じさま〜! じさま〜?」

『留守っスかね? にしては、不用心な気がするっス』

 扉を開け、中をのぞいてみても返事はない。

「ん……中はいっちゃう?」

『何考えてるんスか! いくら、孫でも許されることと、それ以外とがあるっスよ!!』

「だって…」

 パカッ ポコッ

 一つ目はサイナが紙筒で叩かれた音。で、二つ目は琥珀が叩かれた音である。

「ったく、何ドロボウのようなことを考えておる、バカ共が!!」

 叩いた人物は二人……いや、一人と一匹の後ろにいた。

 所々白髪の交じる茶髪。額に長い緑のハチマキをした……老人とまではいかないが、それ相応に年をとった人物である。

 首に巻いたバンダナ止めに、薄い蒼の水晶をつけている。

「じさま、どこ行ってたのさ」

「どこでもいいじゃろ。それよりサイナ、その"じさま"はいい加減やめんか」

「だって、じさまは、じさまだろ?」

「それはお前だけが思ってることじゃ。で、はいらんのか?」

 それもそうだ……と、サイナは扉をくぐり家の中に入った。


 サイナが"じさま"と呼ぶのは、本名から来ている。

 祖父の名はイナシ=ゲンム。

 初めはサイナも"イナシのじいさま"と呼んでいたのだが、いつの間にか"い"のいらないじいさまに変化し、最終的に"じさま"となったのである。


「……で、何しにこっちに来たんじゃ?」

「ん〜……じさまの顔を見に」

 差し出されたコップを受け取ると、琥珀の前に置いた。

「それだけか?」

「うん」

「また、このじじに頼み事があるわけではないな?」

 サイナはふと上を見上げてから、イナシに笑顔を向けた。

「……うん」

「今の間はなんじゃい、今の間は」

 サイナがイナシを頼るには二つ理由がある。

 一つは唯一の肉親である故。もう一つは魔法術士という職を持つ故である。

 召喚術士の力の使い方を教えたのも、このイナシだった。

 とはいえ、ある程度してからは召喚獣の村へ預けられた。

 教えてもらったと言っても、本当に初めの初めくらいではある。

 サイナは召喚術士なので、あまり詳しいことは知らないが、イナシは魔法術士の中ではかなり有名らしい。

 まぁともかく、祖父であり師である彼は頼もしい存在だった。

『ん? ご主人、外が……』

「どうかしたのか? 琥珀」

 そういいつつも"何か"だけは、サイナも感じていた。

 イナシは席を立ち、窓から外の様子をしばらくのぞいていたが、ため息をつくと振り返った。

「またのようじゃ。まったく、いい加減大人しくなればよいモノを……」

「じさま?」

「ゆくぞ、サイナ。あやつを押さえ込めるのは、お前にしかできんかもしれん。それに、封印となれば、琥珀の……」

「え、だってじさま。僕は……」

 とまどう……否、嫌そうにするサイナの前にイナシは指を五本すっと差し出した。

「……食事5日分でどうじゃ?」

「じさま、せめて15日分」

 5日分では少ない……と、サイナは目線で返す。

「ぬ、では10日分でどうじゃ」

「ん〜……まぁ、妥当なところかな」

『ご主人』

 どうやら、10日分で話がついたらしい。

 サイナは琥珀を肩に乗せると、イナシの後を追い村のはずれに向かった。

「こいつは……」

 村のはずれにいたのは、頑丈そうな鎖につながれた、鋭い爪を持つ黒熊に似た巨大な獣。

 来る道の途中、何がいるかをイナシが説明してはいたが、予想以上だった。

 近頃現れた獣は、村で暴れ出したためイナシがここに封じたらしい。

 ところが、動きを押さえるのが精一杯で、完全な封印にはなっていない。

「じさま。なんなんだよ、コイツは!」

「それが分かったなら、苦労はせんとにかく、どうやっても倒すことはおろか完全な封印ができんのじゃ」

 サイナにしてもこれほど大きな獣を見るのは初めてだった。

 ともかく、今は目の前のことをどうにかするしかない。

『ご主人、ダメっス。自分の力じゃ、見切れないっス』

「わかった……」

 左手の手袋を外すと、そのまま手を空に掲げた。

「出でよ、我が召喚獣 無古龍(むこりゅう) クイナ!!」

 サイナの頭上に淡い青色の珠が現れ。その中から白い蛇のようなモノが現れた。白い身体に金のツノ、背には黒い翼。耳はうすい青の羽の形をし、両側に三枚ずつある。足はなく、手のみで尾の先のほうに水晶があり、そこから細い尾先が出ている。

 そして、首には水晶のついた赤いリボンをしていた。


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