第4話『その力、全てのものを封印せん』

"何かありましたか? 随分とせっぱ詰まった声で呼ばれた気がしたのですが……"

 無古龍は、サイナの目の前まで降りてくると、目を細めた。

「クイナごめん。急がせて……琥珀でも正体が分からないらしいんだ。力を借して欲しい」

"それは構いません。謝る必要はないですよ、サイナ。このままで平気ですね?"

「ああ」

"では……"

 無古龍はそのまま獣の影に飛び込んだ。

 サイナの持つ無古龍(むこりゅう)の名はクイナ、属性は無。

 無属性の中で……いや、召喚獣の中で最上級に近い召喚獣である。

 そして彼女の首にある水晶は、力の半分以上を封じている。

 なので、今の姿は本来のモノではない。


 こういう風に力が強すぎるため、本来とは別の姿を持つ召喚獣は何匹か存在する。

 しかし、それを自分の召喚獣にできる術士は少ないと言われている。

 術士にそれだけの力を押さえ、的確に制御する事ができないと、持つことは不可能なのだ。


 しばらくして、影に潜っていたクイナが戻ってきた。

「どうだい? クイナ」 「何か、分かりそうかな?」

 サイナの横からイナシも尋ねる。

 クイナは静かに首を横に振った。

"見えなかったわけではありませんが、よく分からないのです……"

 無古龍には特殊能力があり、相手の"影"に潜ることによってどんな相手かを判断することができるのである。

「よく、分からない?」

"はい。あれは、力の溢れだした小熊のようです。本来の姿に戻りたくて、暴れているような……それともう一つ。何かの結晶が……"

 イナシは首を傾げたが、サイナはその結晶が何であるか、ある程度の見当がついた。

「クイナ、あいつを……溢れだした力を一カ所に留めることができる?」

"不可能ではありません。ただ、この姿は……"

 わかった……と、サイナは頷き、横で飛んでいる琥珀の方を見た。

「琥珀、クイナの力で押さえられたら、封印を」

『了解っス』

「じさまは、下がってて。力の本流をせき止めし青き眼(まなこ)、今 解き放とう! 封印解放!」

 手をかざすと、透き通っていた水晶が石へと変わった。

 そのとたん、クイナの身体は大きくなる。

 白く見えていた所は、白銀の鱗へと変わり、蛇から龍へと転じた。

 龍の体は、サイナの身の丈のおおよそ三倍ほどあった。

"これならば、いけます。サイナ、指示を……"

「わかった。時空を越えし、時の鎖!! 蒼天捕縛(そうてんほばく)の白結晶(はくげっしょう)!!」

 クイナの右手から放たれた青光は、獣に巻き付き鎖となった。

 そして、左手から放たれた白光は、獣を取り囲むとそのまま水晶の柱となった。

「琥珀!」

『平気っス。汝、その力を納め しばしの休息を願う……玉封!!』

 琥珀の額にある、琥珀でできた水晶が光だし、獣にあたった。光は獣に吸い込まれ、今度は獣自体が光を放ち出す。

 そのまま、獣は小さくなっていき、手のひらに乗る位の赤い丸い石となったのである。


 これが琥珀の力……なんでも、封印することができる。

 封印不可能な物でさえ……だ。

 それに気づいたのは、サイナが一通りの修行を終えた5年前のことである。


 赤い石の横に、今までとは違うかなり大きめの琥珀のカケラが落ちてきた。

「これは……」

 サイナが手に取ってみると、すっぽりと手にはまる水晶の半分の形だった。

 割れてしまった、半分のようにも見ることができる。

"どうやら、もう平気なようですね?"

「うん。ありがとう、クイナ」

"いえ……それでは、また"

 クイナは最初に出てきた青い光の珠になり、消えていった。

「じさま、コイツは山に返してあげてよ。ただの、封印石と変わらないから、じさまに解けるでしょ?」

 渡された赤い石をイナシは素直に受け取ったが、表情はどこかいぶかしげである。

「かまわぬが……なんなんじゃ? それは」

「ん、よく分かんない。だけどさ、何か全部集めなきゃいけない気がして」

 ほら……と言って、サイナは今まで集めたカケラの入った小瓶を取り出した。

 しばしの間、イナシはそれを眺めていたが、一瞬だけふっ と、笑った。

「お前がそう思うなら、集めればよいじゃろ。それがおそらく……」

(おそらくはログノの意志。銀髪と琥珀の目はその子孫である証。突然変異かは分からぬが何かがこの大陸で起きようとしているに違いない。神々の再生……とかな)

「おそらく?」

「なんでもない。さて、家へ戻ろうか……」

 なにやら誤魔化されてしまった気がしたのだが、イナシは何を聞いても答えてくれないだろう。

 サイナは諦めるとため息をつき、すでに遠くなっているイナシを追いかけた。


 何かに呼ばれた気がして、琥珀は振り返り後ろの茂みを見つめた。

 しかし、そこには何もいない。

『……?』

 首を傾げながら、琥珀はサイナの元まで飛んでいった。


 琥珀の気にした茂みの中を透き通った銀の狼がすっと駆け抜けた。

 風に言葉を残して……


 我が力が、大地と生き物に害を及ぼすとは

 しかし、我が血は絶えてはなかった。

 琥珀のそろいし時が、楽しみじゃな
 

第一章 終


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