あの後、サイナは順調に仕事をこなし、2日はすぐに過ぎていった。 だが、仕事を終えてもすぐに報酬を受け取りに行かなかった。 当然琥珀はまだ、向こうに起きっぱなし……というわけである。 仕事の終わった日の夕方、町の店でナトレと会う約束をしていたのである。 サイナは言われたとおり、一番奥の端に座り、待っていた。 「あー疲れた」 テーブルの上に腕を伸ばすと、そのまま突っ伏した。 ここで、琥珀がいたのなら"ご主人がそんなに複雑にできているとは、思えないっス"というツッコミが飛んでくるだろう。 それを思いだすと、何故だろうか。少し寂しいような……。 「……琥珀、大丈夫かなぁ」 「なんや? その琥珀っちゅーんは」 顔を上げると、紫髪の青年 ナトレが立っていた。 暗がりでは気づかなかったが、両目の色が異なっていた。右目は藍色だが、左目はコバルトグリーンである。両耳には右目と同色の丸いピアスをはめていた。そして、サイナにある赤い2本すじの場所に、大きさの違う黄色い丸が3つずつあった。 薄い緑のマントを止めているのは翠色の水晶。その下は、右は半袖、左は肘の辺りで切れ目のはいっている長袖の紺色の服を着ている。 「琥珀は琥珀。依頼主に人質というかなんというかでとられたんだよ」 「なんや、お前もか。わいも、翡翠あずけたままやし……」 しかし、言葉とは裏腹にナトレの顔は心配などしていなかった。 別段サイナもそこまで心配している訳でもない。 「ふ〜ん」 「……仕事、無事終わったようやな」 サイナの前に腰を下ろすと、ナトレは腕を組んだ。 「とりあえずは。でも、約束通りまだ報酬はもらいに行ってないよ」 「よっしゃ。じゃ、わいもとっとと終わらせな」 「……にしても、よく受けたね。暗殺なんて」 向けられたサイナの目線が、突如厳しい軽蔑の意を込められたようになった。 誤魔化すように頭を掻いてから、ナトレは一言で言い切った。 「ちゃうで」 「へ?」 サイナは思わず素っ頓狂な声を上げた。 相手を驚かせたことに、気をよくしたのか顔がほころぶ。 「わいは、人殺しはせん。それが、モットーや。今回、詳しいことは依頼主に聞いてからっちゅーことやったからな……ある意味してやられたで。あの依頼主」 「そっか……ならよかった」 妙に安堵するサイナを見て、ナトレは何故だろうか……と、一瞬思った。 だが、そこまで深入りする義理は自分にはない。なので、今は聞かないままにしたのだ。 「で、明日懲らしめるにしても……具体的にどうするの?」 ……ナトレの動きがぴたりと止まった。 その動きを見て、サイナは苦笑いを浮かべる。 「考えてなかったんだね。まぁ、僕も同じだけど」 「サイナっちゅーたな。どのくらいの術が使えるんや?」 「どれくらいって言われても……僕の召喚獣は12匹いて、大体何の術でもできるよ。一番強いのはクイナ……無古龍(むこりゅう)かな」 「……十分や」 ナトレの頭にはすでに作戦が組立ちだしていた。勿論顔は、にやけている。 召喚獣で何の術も使え、最強が無古龍……自分の術も加われば何でもできるではないか。 「なんでもできるで……こりゃ」 「え、そう?」 「バッチリや、ええか……」 組立った作戦を、ナトレは耳打ちで伝えた。聞いているサイナの方も、それを聞き顔が変わる。 「ま、大体こんなもんやろ。作戦実行は、明日の夕方頃でええか?」 「……いや、朝の方がいいと思う。明日は昼まで霧が出るから」 なんでや! と言いかけて、ナトレは口をつぐんだ。 ふと見た窓の外に、水の気配が増えるのをかいま見たからだ。 「あれ? 驚かないんだね、明日のことなのに」 「ま、見えたからな……」 サイナが首を傾げると、ナトレは自分の左目を指した。 「左目や。わいは、こっちの目で普通は見えんもんが、見えるっちゅーことや。他の奴と違うて、かなりハッキリ見ることができるんや」 「そっか、君は魔法術士だったね」 魔法術士の多くは特殊な力を持つとされる。 勿論、持たない者もいるのだが、それはごくごく少数派である。 元々持っている者もいれば、魔法術士になってから持つ者もいる。何故そんな力を持つのかは、未だ誰も解明できていないことだった。 ちなみに、サイナの祖父 イナシ=ゲンムも力を持っている。 彼の場合は"聞き耳"ある程度までの離れた場所の声を聞き取ることができる。 幼い頃、それを知らずに呟いた愚痴を全てイナシに聞かれ、痛い目にあったことがあった。 そんなことを思い出すと、ため息も自然と出てくるわけで……。 「な、なんや?」 「あ、ゴメン。つい……昔のことを思い出しただけだよ」 「ほーか。んじゃ、わいは仕事に行って来るで」 「ああ、じゃぁ明日に」 「おう」 作戦会議はこれにて終了。ナトレとサイナはここで別れた。 back top next |
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||