第6話『やらなきゃ、いけないこと』

 同日夕方。作戦会議をした店に、サイナは再びやってきた。

 翡翠をまだ預かったままなのだ。

「しかしまぁ……琥珀が翡翠君と知り合いとは」

 ナトレと会った時、どこか懐かしいような気がしたのは、その所為だろうか。

『ええ。オイラのことを、忘れていたのかと思いましたよ。まったく……まさか、自分の役目まで忘れているわけではないですよね? 琥珀』

『へ? なんのことっスか?』

『やはり。キミは、昔からそうでしたね。この分では藍玉を見つけるのも、かなりかかりますか……』

 なにやらあさっての方を向き、翡翠は一人ため息をついた。

 奇妙な鳥さんだなぁ……などとサイナが考えているなど、本人にはさして問題でもなかろう。


 + + +


「はやいなぁ、サイナ」

 約束の時間ピッタリに、ナトレは姿を現した。

 そうかな? と首を傾げると、サイナは席を勧めた。

「家主のおっさんも、感謝しとったわ。あの分じゃ、当分つかいもんにならへんやろうなぁ……息子に家をやらない決意がついたんやと。ああ、無事やったか? 翡翠」

 ナトレはすぐに、テーブルの上の翡翠に目線を移す。

 しかし、明らかに心配していたというよりも、ついでに思いだしたといった感じだ。

『無事とかそう言う問題ではありません。まったく』

「あはは〜相変わらず、きっついなぁ」

「でも、翡翠君の言うとおりだと思うよ、ナトレ」

『今回だけは、自分も賛成っス』

 返事がないので、あれ? と思い顔を上げると、ナトレが目を点にしていた。

「……なに?」

「翡翠の声……聞こえるんか?」

「うん。って、ナトレも琥珀の声が聞こえるの?!」

 テーブルの上の2匹を挟み、二人はいつの間にか固まっていた。


『ご主人〜?』 『旦那ぁ〜?』

 2匹の声に、二人はようやく我に返る。

 そして、互いに落ち着くため、コップの水を一気に飲み干した。

「「ふぅ」」

「あ〜考えるの、めんどくさくなってきた」

 先に根を上げたのは、サイナの方だった。

『ご主人〜……』

「ま、同感やな。この際理屈なんざ、ほっておこうや」

『旦那。それは、結論とは言いませんよ』

 再び訪れる沈黙。しかも、今度は前よりも空気が重い。

 片目をつむりため息をつくと、翡翠が立ち上がった。

『オイラはあえて、今説明するつもりはありません。どうせ、三人そろわなくては意味がありませんし。で、旦那とサイナ殿には集めていただきたいモノがあります』

「集めるモノ?」 「ああ、またあれのことやな?」

『はい。この大陸。いえ、三大陸に散らばってしまった、琥珀、翡翠、藍玉のカケラを、とにかく集めていただきたい』

 一瞬、なんのことやらと思ったサイナだったが、あることを思い出し、腰のポシェットを探り出した。

「もしかしなくても、これのこと?」

 テーブルの上に乗ったのは、三つの小瓶と半分の琥珀水晶。

 いずれも今まで陸杜(ロクト)の大陸で拾ったモノである。

 それを見たとたん、翡翠が目を点にしたのは言うまでもない。

『……ど、どうしてこのように沢山?! しかも、琥珀の丸水晶などほぼ集まったに等しいじゃないですか!!』

「どうして……って言われてもね。そっか、これか」

 苦笑してか妙に納得すると、サイナは再び腰のポシェットにしまった。


 しばらく雑談やら何やらをかわした後、突如ナトレが立ち上がった。

「サイナ、外に行かへんか?」

「え? 何で?」

「これから共同線はるんや。繋ぐもん、手にいれな」

 ナトレの言う"繋ぐもの"とは、連絡を取り合ったり、仕事上でペアという証のこと。

 冒険者などがパーティを組む時に使う証と似たようなものである。

「そうだね。でも、この辺に売ってる?」

「わいに、まかしときぃ」

 空泝(クウス)の大陸のことは、地元の人間が一番である。

 琥珀を右肩に乗せると、翡翠を左肩に乗せたナトレの後を追った。


 + + +


「高い! もちっと下げられへんか?」

「これは、この値以外じゃ売れねぇよ」

 押し問答を繰り返す出店の店主とナトレをサイナはあきれ顔で見ていた。

 この様子だと、この店もまたダメだろう。

「ナトレ……別に少し高くてもいいから」

 サイナとしてはもう値段は別にどうでもよかった。

 さっさとどこかで休みたいらしい。

 まぁ、当然だろう。朝早く起きて、仕事をして、いつもなら寝ている頃合いだからだ。

 ……それがたとえ、太陽が高く昇っている頃であろうとも。

「せやけどサイナ、わいはなぁ……あ゛〜もうええわ。宿戻るで!」

「へ? え?」

 ナトレはがっちりサイナの左腕をつかむと、そのままズルズルと引きずっていった。


『翡翠……どういう人なんスか? ナトレさんて』

『ハッキリ言って、説明しがたいですね。人のことをあまり考えていない時もありますし』

『『……はぁ』』

 同時に出た2匹のため息は、夕闇の空に吸い込まれていったのだった。


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