結局目当てのモノはえられず、サイナは空泝(クウス)にとどまることとなった。 ちなみに、ナトレは隣の部屋に泊まっている。 布団を抱えたまま、サイナは不機嫌そうな顔で呟いた。 「たまにはいいけどさ。もうちょっと、楽に終わるはずだったのに」 琥珀は翼を伸ばしつつ、横を向いた。 『いい薬っスよ。楽ばっかり考えているからこうなるんス』 「何か言った? 琥珀」 『いえ、なんでもないっス』 「じゃ、おやすみ〜」 枕元の灯りを消し布団をかぶると、琥珀はその上で丸くなった。 + + + 月が静かに宵闇から消えた頃。 サイナの部屋の窓が、大きく揺れた。 次いで鳥か何かの翼の音が聞こえる。 運がいいのか悪いのか、窓の鍵は開いていた。 そこから侵入した人影は、窓枠に足を取られ豪快に転んだ。 「っつ――……」 周りを飛ぶ2匹の影が心配そうにのぞき込む。 「大丈夫や。いつものことやし。それよか……」 音を立てないよう、様子をうかがう。 窓枠で転んだ時点で起きてしまったかと思われたが、そうでもないようだ。 「よ〜やく、見つけたでぇ」 抜き足、差し足、忍び足でベッドに近づくと、掛けてあった布団を一気にめくった。 勿論、上に乗っていた琥珀が投げ出されたのは、当然である。 『?!』 「さ〜さっさと起きんかい! こん……の」 来訪者はそこに寝ていた人物を見て、固まっていた。 今更だが、部屋を間違えたことに気づいたらしい。 「あ、あかん。逃げる前に捕まえな……スー行くで! ハーはそこでまっときぃ。後で謝りに来るんやから!」 人影と小さな影の一つは、再び窓から出ていった。 人声が無くなると、琥珀は顔を上げた。 不意打ちのように落とされたのだから、受け身もとらずじまい。 下がカーペットだった事が唯一の救いだった。 『一体……なんなんスか。……ん?』 小さな羽音が聞こえた。 置き去り――もとい、来訪者の置いていった小さな影がそこに一つ。 『どちら様っスか?』 ちいさな羽ばたきがするだけで返事はない。 琥珀は目を凝らし、闇に包まれる部屋の中を見渡した。 翼の生えた蛇の影が一つ宙に見えた。 気配からしても、どうやら風精霊らしい。言葉が通じないのも当然である。 精霊は、人型と獣型の2種類に分けられる。 人型の精霊は主に魔法の手助けをする者達で、その姿を見ることは困難。 魔法術士が必要に迫られ呼び出すことはあるが、それも稀なことである。 獣型の精霊は精霊術士に使役される者達のことを言う。 召喚獣と違い、精霊の声を聞くことができる人など殆どいない。それは、琥珀も同じだった。 ただし、人ではない半獣人や妖精族の場合は別で、普通に精霊(といっても、獣型に限る)と会話することができるのである。 (困ったっスね) 「……っくし。何で寒いんだ? ん?」 今更になって、サイナが起きてきた。 琥珀はあきれ顔でそちらを向くと、声をかけようか迷っている。 風精霊は謝罪の意を示すべく、サイナの目の前に飛んでいった。 「あれ、こんばんは……だよね。迷子さん?」 珍しくはっきりと目が覚めたのか、サイナは問いかけた。 しかし、風精霊は首を横に振った。返事は否。 「んじゃぁ、え〜っと……とりあえず、名前は?」 『ご主人、言葉は通じないっス……よ?』 「ふ〜ん、ハスミっていうんだ」 琥珀は我が耳を疑っていた。言葉の通じぬ相手の名前が分かるものだろうか? なおも事情を聞き続けるサイナは、時々頷いていた。 「あれ? その探してる相手って、もしかして……」 琥珀が何を話しているのか尋ねようとしたとたん、部屋の扉がおおざっぱに開けられた。 「サイナ〜大変やっ! 奴が来おった! 少しの間かくまってくれへん!」 うんざりした顔つきで、サイナはずかずか入ってくるナトレを睨みつけた。 「ナトレ、今真夜中だよ?」 「そないなこと言ってる場合やない!」 「なんでさ」 「奴が来おったんや……って、ハスミか?!」 サイナの正面にいるハスミを見つけると、ナトレはその場に座り込んだ。 「どないしよ」 「……ナトレ、逃げるのは良くないと思うよ。事情はハスミから全部聞いたけど」 「せやかてサイナぁ」 「みーつーけーたーでー!!」 突如、部屋に明かりがともった。 サイナもナトレも明かりに目は慣れていないため、眩しそうである。 「ナトレはん! この間の仕事の仲介料……耳そろえて、きっちり払ってもらいまっせ!」 扉の所にいたのは、眼鏡をかけた前髪の一房が金髪のオレンジ髪の女性だった。 back top next |
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