第9話『仲介屋さん's』

――――翌日の朝


「サイナく〜ん!!」

 神出鬼没、用意周到、狙った獲物は逃がさない……というか、噂をすれば影。

 一言でもサイナが名を口にすれば、出てくるんじゃないか、と琥珀は思う。

 昨夜、サイナが"そう言えばリオさんに報告していないなぁ"と呟いていたので、気になっていたのだ。

 まさか……が当たるとは思いもしなかった。

 現実は直視しなければ。そう思い直し、琥珀は顔を上げた。

 だが、自然とため息は出てきてしまう。その横ににっこりと微笑むリオが座っていた。

「もう〜連絡くれないから、探したのよ、サイナ君」

「あはは……すみません、リオさん。ちょっと色々ありまして」

「色々?」

「ええ、二重のいら……」 「サイナ〜」

 少しずつ近寄るリオに、サイナは言い訳を考えていた。

 そこへタイミング良く、音を立てながらナトレが部屋の扉を開けたのである。

「みっけてきたで、繋ぐもん。って……」

「ああ、この」 「美人さんやなぁ……名前は?」

 とりあえず、早かった。

 ナトレの移動速度は。


 扉のところにいたはずが、一瞬にしてリオの真正面に立ったのである。

 しかも、ちゃっかりリオの手を握っていた。

 美人と言われて喜ばない女性はいないわけで、リオは照れながらにっこりと微笑みを返したのだった。

「まぁ、美人だなんて。リオ=カイテルですよ」

「ほほぅ。べっぴんさんにあった、素敵な名前やなぁ。わいは、ナトレ=クオートっちゅーんやけど、これから空いとるか?」

「そうね〜」

『旦那。これで、今日何人目だと思っているんですか?』

 ちゃっかり、美人のお姉さんは口説き落とすモードにはいるナトレに翡翠がくぎを差した。

 あくびを一つ。そして、ゆっくりと肩からどいた。

「どおりで遅いと思ったら」

『そんなことしてたんスね』

 ちなみに、ナトレが出ていったのは朝早く。現在は昼の鐘が鳴る頃である。

 ピシッ とかたまるナトレを横目に、サイナは先程の話の続きをし出した。

「ところでリオさん。連絡もそうですが、何かあるんですか?」

「ああそうだった」

 手をうつと、リオはカバンの中から一枚の紙をとりだした。

「実はね、ここ空泝(クウス)で……」 「ナットレは〜ん」

 今度は扉の方ではなく、窓の方から声がかかった。

 今日はよく会話の途中で邪魔が入る。

 三人と二匹がそちらを向くと、オレンジ色の髪の先が見えた。

 そして瞬間後、ライアが窓枠を飛び越え、中へ侵入してきたのである。

 だが、前と同じく見事に枠に足を引っかけ、侵入というより転がり込む形となった。

「っつ〜……」

「あらまぁ、ライアちゃん」

 そしてここに、意外な言葉を発する人物が一人。

「んにゃ? リオはんやないですか〜。なして、こないなとこに?」

「あら、それはこっちの台詞よ。私ならこの間きた例のことを伝えにきたのだけど?」

「リオはんもですか。うちも、伝えよう思うて来たんや」

 話の弾む女性陣に、完全に置いていかれたサイナとナトレ。

 とりあえず、話が切れるまで、待つことに決めた。


 先程ナトレの手に入れてきた、つなぐものをお互いはめてからである。

 サイナに渡されたのは紅色の細い腕輪。サイナは手袋をしていない右手にはめた。

 ナトレ曰く、サイナには緋色より紅が似合うそうだ。

 そう言われた時、サイナは苦笑いを浮かべた。

 そして、ナトレのはめた細い腕輪はダークオリーブグリーン。右手は指の出る黒手袋を止める輪があるので、左手にはめた。

 なんでも、好きな色だったからだそうだ。


「てわけで、サイナ君ナトレ君」

「二人で組んで、これにでぇへんか?」

「「五年に一度開かれる空泝の無差別競技会……スクランブルバトルに!!」」

 無差別競技会、別名スクランブルバトルは、五年に一度開かれる三大陸合同の大きな競技会である。

 春から夏の合間に行われる物で、三大陸から様々な術士が集まり己の技力を争うのだ。

 これには参加条件がいくつかあった。

 その一つは年齢制限。原則的に15歳以上、しかも何か仕事をしている者というものだ。

 ただし、師匠や学校の先生同伴で仕事をしていなくても出場すると言う特例はある。

 ここも、実戦経験の問われる一つの学舎というわけだ。

「これ……前は年齢制限に引っかかってでられなかったやつですよね」

「確か、二人一組やったな」

「ちなみに、今回の優勝賞品は」

「海の雫(オーシャンドロップ)の結晶や」

 サイナとナトレは我が耳を疑っていた。

 海の雫(オーシャンドロップ)別名、深海の涙といえば、宝石の中でも貴重な部類にあたる。

 なんでも、原石があるわけでなく、海の底 きれいな砂の中に住む巻き貝からとれるらしい。

 らしい……というのは、その仕事をする者しか正しい取り方を知らないからである。

(海の雫があれば、楽ができる!)

(ただで手にはいるんや。これは、貴重やでぇ)

(サイナ君が戦うのをみるなんて、久々だわ)

(優勝したら、かなりの賞金をもらえるハズや。仲介料たっぷりいただくでぇ)

 なにやら、それぞれの思惑が渦巻いているようだが……

「てことで、どうする? 二人とも」

「でます」 「でるで」

 二人は顔を合わせると、にんまり笑ったのだった。


 ここに、魔法術士と召喚術士の最強タッグが誕生したのである。


『なんか、随分な評価っスね』

『琥珀、あまり突っ込まない方が、賢明かと。まったく、頼んだことを無視して寄り道ばかり……』

 そばで2匹がブツブツ言っているのを、聞いていた者はおそらくいなかった。

第二章 終


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