第1話『無差別競技会の前夜……?』

赤く染まった夕空を、透き通った翠色の鳥が1羽飛んでゆく。

下から見れば腹の色は少し濃い藤色なので、空の色と混じり誰もその姿を捕らえることはできない。

そして、その鳥は一対の翼だけでなく、背の真ん中から、もう一枚の翼が生えていた。



無差別競技会の開場となる町を見下ろすと、色の違う両目を細め、にっこりと微笑んだ。




 ふと、何かに見られた気がして、濃い藤色の髪の青年 ナトレは空を見上げた。

 彼の両目も色が異なっている。

『どうかしましたか? 旦那』

 左肩に乗る、翠色でたてがみが紫の鳥 翡翠が不思議そうにナトレの見る方向を見上げた。

「え、なんかいた?」

 横を歩く長い銀髪の青年 サイナは、ナトレの見やる方向に目を向ける。

『ご主人……普通の目じゃ見えないと思うっス』

 右肩に乗る茶色い手のない竜 琥珀はため息をついていた。





――――空泝(クウス)の大陸中央にある町 バルトルク





 無差別競技会―スクランブルバトル―の舞台となるのは、この町全体。

 サイナとナトレは、先程参加登録をしてきたばかりである。

 開会式は五日後。大会参加者は負けるまでは町の宿にただで泊まることができる。

 ルールブックを手渡されたので、これから宿に戻り読むつもりだったのである。

「で、ナトレ。何が見えたの?」

「……残滓しか、見えへんかった。せやけどなんやろ、あれ。かなりでかい風の力?」

「……??」

 この時それが何だったのか……見当がついたのは翡翠だけであった。



「……第一項 けして死人を出さぬ事。出した場合は即失格とす。第二項 原則的に二人一組。一人での参加は認められぬ。第三項 勝敗は戦闘不能により決まる。第四項 戦闘の方法は相手により当日その場で決める。第五……う〜もう、めんどくさい! これ以上読むのや〜めた」

 けして分厚いわけではないのだが、サイナは1ページ目で読むことを拒否した。

 そして、ルールブックを投げ出すとベッドに転がったのである。

『ごしゅじ〜ん、あまりに早すぎるっスよぉ』

「まぁ、全部読まんでもええんやけどな。かしてみぃ、重要なとこだけ引き抜いたるさかい」

「ん……ほぃ」

 かなり顔を近づけてのぞき込んできたナトレの顔に、サイナはルールブックを押しつけた。

 少々顔が赤くなってしまったのは気にせず、ナトレはその横に座ると本をパラパラとめくりだした。

 時折難しそうな顔をしていたが、十分ほどして本を静かに閉じた。

「とにかく、一番初めの三項くらい守っときゃ、ええみたいや。んでな、サイナちぃと相談なんやけど……」

 返事がないのでナトレがサイナの方を向くと。

「……ス〜」

 ちゃっかり寝ていた。

「おい。いつから寝とんのや……」

『ナトレさんが本を受け取ったすぐ後っス』

「ま……ええか。二匹ともわいは出かけてくるで、留守番頼むわ」

 ルールブックを机に置くと、ナトレはサイナに布団を掛けた。

『夜には勿論帰ってきますよね? 旦那』

「……さて、どないしょ〜かな。街で美人さんと会ってくるつもりやし。夕飯は先に食っといてくれ。んで、先に寝とってええわ」

『はぁ……わかりましたよ。くれぐれも問題は起こさないでくださいね』

「精進するわ。ほんじゃ……」

 ひらひらと手を振り、ナトレは部屋から出ていった。



 ちなみに、この日ナトレは宿に戻ってこなかったそうな。

 おそらくいつも通り、美人のお姉さんでも見つけ、一晩厄介になったのだろう。



 そして、なんだかんだで五日後はすぐにやってきたのである。


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