第2話『とりあえず、予選』

「くぁ〜……終わった終わった」

「サイナ……結局全部寝とったやないか」

「だってさぁ、暇だし?」

「あのなぁ」





――――バルトルク中央にある一番大きな闘技場の一角





 開会式は長かった。

 どのくらい? と聞かれれば口々にこう答えるであろう。昼の鐘が鳴ってから小腹がすきだす頃まで……と。

 当然、"なんでもいいや"のサイナは初めから大半寝るつもりでいた。

 結局全部寝ていたのだが。

 ナトレは律儀にも全部の説明を聞いていた。

 いや……目は開場中央の舞台ではない方に向けられていたが。

 琥珀と翡翠は宿で留守番である。







「んでも、いきなり予選っちゅーのも、おもろいなぁ」

「そう? あ、そういえば……温存だったよね」

「せや。予選から本気出してもおもろないで。ほな、もうすぐ出番や行くで」

「ああ」

 二人は観覧席から中央のバトルフィールドへ降り立った。





 + + +





 予選は五組が一フィールドで戦い抜くサバイバルバトルである。

 相棒が倒れたとしても、どちらか一方が最後に残ればその組が本戦に出場である。

 今回は参加者が多いらしく、予選は五日間かけて行われるらしい。

 ちなみに予選はバルトルクにある三ヶ所のフィールドで行われ、その後勝ち残った三十二組でトーナメントを作り、一回戦二回戦を二ヶ所のフィールドで行う。

 準々決勝である三回戦からは、中央の一番大きなこの場所で行われることとなる。





 + + +





「んで……そいつらはなんなんや?」

「えっとねぇ」

 バトルフィールドでサイナの召喚したのは二匹の召喚獣。

「こっちが雷糸妖(らいしよう)」

 サイナの肩に乗るのは手にすっぽりと収まりそうな黄色い毛玉。小さな手足と触覚がはえており、ひょろ長い尾は先が雷の形をしている。

 それと同型の武器のような物を手に持っていた。

 雷糸妖 名前はラムぺ。属性は雷。

 雷属性ではもっとも下級とされる召喚獣である。

「んで、こっちが幽炉弖(かすかるて)」

 サイナの足下に隠れる赤い丸に黒っぽい足の生えた生き物。頭の上には白い翼が生えており、尾は獅子のそれによく似ている。

 幽炉弖 名前はポッテア。属性は火。

 こちらも火属性では下級の部類である。

「……そんなんで、勝てるんか?」

「当然。まぁ、危なくなったら他の子を呼ぶけど……作戦でしょ?」

「ああ、せやったな。ほんじゃ、いっちょもんだろか!」

 ナトレは指を鳴らすと、胸の前で手を組んだ。

「我集むるは天空の風 渦巻く大蛇の力となれ! 風の棒―ウインドロッド―!!」

 風がナトレの前で長い棒の形を成していった。

 緑系統の色をした、棍棒のようなもの。

 そこにナトレは交互に手を合わせると、にやりと笑う。

「今日は特別サービス……二刀流や!」

 一本の棒を両側に引き、二本の棒としたのである。

 威力は少々落ちるが、質より量の場合は便利だった。

 両方の棒を、片手でくるくると回すと、ナトレはあたりを見渡した。

「風魔法?」

「まぁ、とりあえずな。基っ本中の基っ本やし」

「……いじわるだね。手加減もホントいいとこじゃない?」

「そっくりそのままかえすで?」

 顔を合わせ、二人して笑っていた。端から見ると、少々近寄りがたいムードでもある。

 が、しかしここはバトルフィールド中央部。邪魔なことこの上ない。

 しかも、他の組は体格の良い剣術士風の者が多い。

 見た限りでは細い二人は格好の餌食といえよう。

「でさ、視線が痛いんだけど」

「そうかぁ? そーいうときはなぁ……破壊の風(クラッシュウインド)!!」

 バトンのようにナトレが右手の棒を放り投げ、左手の棒はブーメランのように横に飛ばした。

 二つの棒は連動して砂を巻き上げながら風を起こし、周囲にいた三名が餌食となり吹き飛ばされる。

 吹き飛ばされた先はいずれもバトルフィールドの壁であり、その衝撃で三者三様ではあるが目を回していた。

 この瞬間三名(全員組は違うので、完全失格ではない)が予選脱落となる。

「おーおーよく飛ぶわ」

 戻ってきた二本の棒をまたくるくると回しながら、ナトレは辺りを見渡した。

 風魔法でのこの攻撃は、はっきり言ってかなり手加減している。

 この程度で根を上げるということは、実力が伴っていなかったか、運が悪かったかの二択である。

「いわゆる見かけ倒れだね

 しかし、はっきりとサイナは前者のみと判断を下した。

 当然、相棒達はその言葉にいい思いはしていない。

 その発言がツボにはいったのか、ナトレは思わず吹き出した。

「そない、ハッキリいわんでもええやん、サイナ」

「だって、ホントのことだろ?」

 その場が凍り付いたかのように見えた。

 正しくは誰もが立ちつくしたまま微動だにしなかったというべきか。

 ただ単に、その言葉を脳内で反芻(はんすう)しているだけかもしれない。

 そもそも堪忍袋の尾とは切れるためにあるモノである。

 わざとかどうかは分からないが、二人の口車に上手い具合に乗ってしまった相棒達3人衆は、一斉にサイナに飛びかかってきたのだった。

「まったく……ポッテア、花芯乱舞(かしんらんぶ)!!」

"うきゃ!"

 ポッテアが軽く跳び、反転すると頭の翼が大きくなった。

"うっきゃぁ〜!"

 その翼から緋色の細い花が周囲に飛び散った。

 花の芯に似た物が、文字通り乱れて舞うように見える。

 さして強い技でもないが、剣術士達を怯ませるには十分である。

「それから、火翼天榛(かよくてんしん)!!」

 一人に一撃ずつ……ポッテアが翼に炎を纏わせ突っ込んでいった。

 相手に火傷を負わせるような炎ではない。

 少し熱いと感じる程度の物で、ポッテアの力を高めるための炎だった。

「サイナ、本気は出さないんやなかったんか?」

 倒れる三人を眺めながら何故か楽しそうにするナトレ。

「だしてないよ。幽炉弖の技は大技に見えるのが多いんだ。小さいから突撃とかね……召喚術士から見れば基本技しか使っていないから、大丈夫」

「ほーか。んじゃ、後一組やな」

 今まで端にいたと思われる二人。

 片方はフード付きマントを被った魔法術士。もう片方は簡単な鎧を着込んだ剣術士。

 魔法術士の顔はフードを深く被っているので見られない。

 そんな観察をしていると、剣術士は音を立てずに剣を抜き振り下ろした。

「破幻裂羽(はげんれっぱ)!!」

「あかん。風幻の盾―ウィーシールド―!!」

 地を走ってきた光の刃をナトレの創った盾が全て受け止めた。

 判断が遅れていれば、まともに食らっていただろう。

 衝撃からして、どうやら威力はかなりあったらしい。

「どうやら、今度は見かけ倒れとちゃうみたいやな」

「そうだね……じゃぁ」

 サイナはラムペに何か言うと、右手で掴んでいた。

 そして、何を思ったのか投球フォームをとる。

「サ……サイナ?」

 ナトレだけでなく、相手の方も観客も不審がっていた。

「一球……入魂っ!!」

 そして、誰もが予想したとおり、サイナはラムペを剣術士に向けて思いっきり投げたのである。

 基本的にボールは投げられたその方向にしか飛ぶことはない。

 ゆえに、当たるのが嫌ならば初めにいた位置から動きさせすればいい。

 剣術士はそれを考え横に移動したが、その瞬間ラムペの飛ぶ軌道が変わった。

「な゛っ」

 当然当たらないだろうと思っていた剣術士は驚いている。

「逃げても追いかけるよ……って、遅かったかな?」

 ラムペの持つ雷形の棒が剣術士の鎧に刺さったのと、サイナの発言はほぼ同時だった。

「黄未春雷(おうみしゅんらい)!!」

 小さなラムペの身体が光り、発雷が起きた。

「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」

 鎧の素材はどうやら伝導体だったらしく、見事に感電していた。

 とはいえ、殺人は御法度のこの試合。サイナがラムペに指示した電力は、普段の10分の1程度。

 それでも、人を気絶に追いやるには、抜群の威力を持っているわけで、立ち上がれるはずもなく、その場に崩れ落ちた。

 これで、残り一名……大きな水晶を抱えた魔法術士である。

 だが……

「や〜んっシュムア〜っ!!」

 倒れた剣術士に駆け寄ると、わんわん泣きだしてしまった。

「……」

「……審判。この場合どうなるんや?」

 同じく呆気にとられていた審判にナトレは声をかけた。

「はっ……はい。この場合は戦意喪失とみなしますので、予選通過決定です!」

 そのとたん、拍手喝采と歓声がわき起こった。



 サイナ・ナトレ組 予選通過なり


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