「なにあれ、あんなの僕だって出来るよ」 観客席の最後列から、眺める二人組がいた。 黒いシルクハットを被る右側の人物はくわえていた長いキセルをはなすと、煙を吐いた。 「それでは、相手が弱いと言いたいのだな?」 「そうだよ。あんなの基本技だし……見かけ倒れはあっちも同じなんじゃない?」 それに答え、左側にいる緑色の四角い帽子を被った青年が声を荒げる。 「では、本戦で当たった時はたたきつぶす……か」 「当然」 そのようなつぶやきは歓声に紛れて他の者には聞こえていなかった。 + + + 先程の場所と対岸の位置に、一人の背の高い男性と小さな少女がいた。 白衣に身をくるみ、漆黒のネクタイを締めた者と、大きな黒い猫のぬいぐるみを抱えた、金髪の人形のような小さい者である。 「……クスッ」 「Dr……また何か、おもしろいモノを見つけたのでしゅか?」 「ええ、Myエンジェル。とっておきの獲物ですよ」「それは……楽しみでしゅね」 「ええ。そのためには予選を勝たねばなりませんが」 白衣の者は、くっ と右手で眼鏡を押し上げた。 しかし、彼の表情に焦りの色など皆無に等しく、すでに本戦でのことしか頭にはない。 「それは大丈夫でしゅよ。キーカが片づけましゅから……一気にね」 横の少女も、同様の考えのようだった。 外見は10歳前後に見えるが、この大会に出る以上そうではないらしい。 瞳の奥に見えた、戦いに挑む者の光に、白衣の者が苦笑をもらした。 「Myエンジェル、今回は殺してはいけませんよ?」 「わかってましゅ。キーカはルール破ったりしましぇん!」 しかし、意味を返せばルールを破らないギリギリまではやるということ。 「……楽しみですよ、実にね」 その微笑みには狂気さえ見えた。 + + + 「いた〜っ!! 最近見ないと思ったら、いた〜っ!!」 「うるさい!」 騒いでいた茶色い犬耳の少年を、横にいた外はねで薄い桃色の髪をし、右目にモノクルをした青年がハリセンで思いっきり叩いた。 とてもいい音が響く。 「いったぁっ……何すんだよっ! せっかく小鳥ちゃん見つけたのにっ!」 「少しは黙っとれ……って、あいつか?」 「うんっ!」 緑色の目をキラキラさせ、これまた犬の茶色いしっぽをパタパタと振った。 呆れたように、青年は目をそらす。 こうなっては相手をする方が面倒なのだ。 「後で探す」 「うんっ……でもさ、でもさっ。小鳥ちゃんの横にいる人っ! 狼だねっ」 「はぁ?!」 「レーサっ、また見えないっ? 感じないっ? 小鳥ちゃんと同じだけど、形が違うのっ」 レーサと呼ばれた先程ハリセンを取り出した青年は、点にしていた目を元に戻すと横を向いた。 「またそれかい」 「分かんないならいいっ。直接聞くんだからっ!」 そのまま駆けていこうとする犬耳の少年の頭を再びハリセンが襲った。 今度もジャストミートしたようで、いい音が響く。 「後でって、ゆーたやろ! 次行こうとしたら、一日空に貼りつけやで!」 「けちっ!」 「ほほぅ……えーんやな?」 「……やだっ」 耳を垂らし、シュンとなると少年は元いた場所に戻った。 + + + 「ウォイ〜! みたみた?」 「ファイ〜! みたみたみた」 キャイキャイはしゃぐものが2名。 どんな場所にもこういった者達は必ずいるのである。 「かっこいいの〜! でて正解ね、今回」 二つ結びにした少女が楽しそうに微笑んだ。 どこにでもいる、ミーハー目的の一例と言ったところだろうか。 「でも残念ね〜負けちゃって」 「残念残念。でも、そんな人いっぱいいるわよ?」 そう、確かに負け組は多い。 五組に一組しか勝ち残れないのだから、当然だ。 開場の一部には傷を残し、それでもバトルフィールドを見る者は沢山いた。 「そうね〜。それなら、今度はまた五年後ね〜」 そう、決して機会は今だけではない。5年後がある。 そう言う希望を持って、本戦を見ているのである。 勝者の影には、かならず敗者の影もあるということだ。 そしてまた、その敗者から勝者も生まれる。 そして、実力者達は揃い……五日後本戦は開始された。 back top next |
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