「ふ……ふふふふふふふふふ」 サイナは笑いながら抱えていたポッテアをフィールドに置いた。 その笑みに誰よりも引いたのは勿論対戦相手であるセオラ。 「な……そんなので脅そうとしたって無……」 「いい加減疲れた。遊びはおしまいにしようか……ねぇ?」 にたり……とサイナが笑ったように見えた。相当頭にきたらしい。 動こうにもセオラは足が凍り付き…何より足がすくんでその場から動けなかった。 「ポッテア、ラムペ、二人とも作戦変更。全力を持って相手を潰して良いよ。というか、潰すよ?」 "うっきゃぁ!" 今までとは随分と雰囲気の変わったサイナの言動にも、召喚獣である二匹は従順である。 ポッテアがその方が楽しいと言いたげに返事を返してきた。 「まずはラムペ……に……方陣!!」 コクリと頷くと、ラムペは雷型の棒をその方向に投げた。 天にとどまったそれに向け、全身から雷撃を打つ。 「セシウに雷系の攻撃など……」 サイナの声が聞こえなかったセオラは、セシウに動くよう指示をした。 しかし、雷の檻に捕まり、セシウはその場から動けない。 「っまさか、破雷方陣(はらいほうじん)?! 下級の召喚獣は使えないはずっ」 破雷方陣は、自分を囲えば防御技、相手を囲えば捕縛技、そして、両方とも攻撃技になるという、かなり柔軟性のきいた技である。 しかも、土系の召喚獣に効く、指折りの雷系技の一つである。 基本的には中級の高ランク以上の召喚獣にしか使えないとされる技であった。 「普通はね〜この子達は鍛えてあるし、でもやっぱり力的には少し劣るんだよね、焔茄(えんか)や雷蹄(らいてい)には」 召喚獣についての知識のある者は、おそらくここで、少しどころじゃないだろ! とつっこんだはずである。 焔茄は炎系では最上級、雷蹄は雷系では最上級の召喚獣だからである。 当然セオラもそうだった。が、それは動揺を隠す為でもあったようで、表情から笑みは消えていた。 もしかすると、自分はとんでもない相手にぶち当たったのではないか? と。 焔茄や雷蹄など自分はまだみたこともなく、本の中だけの召喚獣である。 みたことがあるからこそ、その力の差を比べられるというわけで…… 「くっ……」 「というか、一応ポッテアには焔茄で言う中技を使えるようにしているし、ラムペも同様……小さいし下級だからとなめてもらっちゃ困るよ」 「〜っ! セオラ、牙狼鉄(がろうてつ)!!」 どうにか破雷方陣を破ろうとセオラは指示を出すが、ただの下級である鼠庵にこの方陣を破れる可能性はゼロに等しい。 「ねぇ、二匹とも本来は勝てる属性に負ける気分て、どう?」 「ふざけるな! まだ負けてなんか……いない!」 「無駄なあがきなのに……ポッテア、天翔陽乱(てんしょうようらん)……」 跳び上がったポッテアは一回転すると、翼の形を少し変えた。 羽根一枚一枚がハッキリと見える形である。 そして色は、鮮やかな夕日色に変わった。 その翼を大きくはためかせると、赤い気がポッテアを包み出す。 ちなみに、上級の召喚獣の場合は、この一連の動作はとばし、すぐに技を繰り出すことができる。 「ラムペ、タイミングはいつも通り。いくよ、ポッテア……橙日蓮(とうびれん)!!」 色の変わった翼から、橙のボール形の物が雨のように降り注いだ。 しかし、このままでは破雷方陣に当たるだけである。 だが、橙日蓮と称されたそれは、方陣に阻まれることなくセシウとミータに当たった。 「な゛っ?!」 「一応説明しておこうか? ポッテアとラムペは常に2匹一緒に練習をさせてあるから、お互いの技のタイミングをよく知っていてね、こういう時……一部だけ力を消すとかにはまさに阿吽の呼吸。だから、コンビバトルはこの二匹が一番得意なのさ」 サイナが言い終えると、セシウの姿が消えだしていた。 ミータの方はさすがに水属ということもあって、ギリギリのところで耐えきったらしい。 「意外と手強いな。ラムペ、破雷方陣を縮めてくれ。もう鼠庵はほっておいても消えるから……暗水龍だけねらうよ」 コクコクと頷くと、ラムペは手を動かした。 縮まった破雷方陣は鎖のようになり、暗水龍の両手を拘束している。 「……っ」 セオラはもう、何かを言うことも動くことも出来なかった。 手のだしようがなく、自身の限界を感じ……力の差を認めたのである。 「さ、ラムペ。天雷宝飛(てんらいほうひ)!」 右手を上、左手を下に向け、ラムペはしっぽを高らかと掲げる。 額の触角がそれに呼応しゆらゆらと揺れていた。 徐々に両手に雷光が集まり、しっぽに充電されていく。 「いっけ〜!!」 ラムペは思いっきり跳ぶと、しっぽを振り下ろした。 しっぽの先…雷形をした光がプラズマを発しながら暗水龍の上に落ちた。 瞬間、会場を閃光が包んだ。 しばらくして、フィールド上から光が消えると暗水龍もそこにはいなかった。 「……勝者、サイナ!」 審判が手を挙げ、それを宣言すると歓声がわき起こった。 「おつかれ〜ポッテア、ラムペ」 二匹を抱え微笑んだサイナは、いつもの顔に戻っていた。 『ご主人〜っ!!』 「あははーつかれたよ、琥珀」 『疲れたよ、じゃないっス! ナトレさんとの約束。さっそく破ってどーするんスか!』 「む〜五月蠅い」 頭の周りをグルグル飛ぶ琥珀を、サイナは一瞬叩き落とそうかと考えた。 少々疲れた様子のポッテアとラムペを帰すと、ようやくバトルフィールドから降りたのだった。 + + + 「ゴメン、ナトレ」 「あはは〜まぁ、ええんやない? 見ているこっちも、おもろかったことやし」 「笑える所なんて、あった?」 サイナが真顔で返すと、ナトレはにやりと笑う。 「さてはサイナ……自分天然やな?」 「……何それ」 「わからんよーなら、まだまだや。さてと、随分時間も押してることやし、ちゃっちゃと片付けたろか」 何の時間が押しているかはさておき、翡翠を託すとナトレは指を鳴らしながら歩いていった。 別に喧嘩で行くわけではないのだが。 さてさてこちらは相手側サイド。 セオラは相棒である姉 ヒイアに怒られていた。 いや……嫌味を言われていた。 「大口叩いていた割に、あんたの方が弱かったな」 不満度MAX状態らしく、セオラが思うにキセルをすって吐く煙がいつもより濃い。 「だって、ねえさ……」 「言い訳無用。あんたに少しでも期待した私が馬鹿だったようね……」 傍らに置いてあった細身の剣を掴むと、ヒイアはバトルフィールドの上に上がったのだった。 back top next |
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