第3話『決勝の相手』

 キーカは一度自陣に戻るとリュックに何か詰め込んでいた。

 そして、ふと思い出したように顔を上げるとクェルタに向かって微笑む。

「Dr、あの薬また作ってくだしゃいね。とっても面白いでしゅ」

「Myエンジェル……構いませんが、専門外なので時間がかかりますよ?」

「わかりましぃた」

「では、行ってらっしゃい。相手は魔法術士。しかも、あなたと同じ王法士(マスター)怪我などしないよう」

「勿論でしゅ」

 リュックを満杯にすると、キーカもフィールドに上がった。





 + + +





 レーサは軽くジャンプをし、足で空を切った。

 久々に動かす体は少々鈍っているようで、あまりいい動きはしない。

「いかんな、サボるとせっかくの技が無駄になる」

 それなりの体術は、幼き頃より学んでいる。

 今となっては182ある長身をいかせる物事の一つとなっていた。

 空を切る音が響く中、キーカは怪訝そうに目を細めた。

「素手でなら、相手しぃましぇんよ?」

「戦えても困るな、この身長差で。準備運動だ、気にするな」

「む……」

 身長差を言われ、少しキーカは頬をふくらせた。

 それでも、自分の準備運動は怠らず、しっかり手首足首をほぐしている。





 + + +





 試合開始の合図はすぐにあった。

 しかし、両者はいっこうに動かない。

 見ている者の中ではつばを飲み込み、喉を鳴らす者もいた。

 それだけ空気が張りつめている。動いた方が負け……という感じだ。

 しかし、動かずとも七対三くらいで、キーカの方が有利だった。

 その比率は魔法道具の有り無しの差。

(いかに上手く力を使うかが、勝敗の境目……油断禁物というとこか)

 テトアの二の舞にはしたくない。

 唇をかみしめていると、キーカの方が先に動いた。

 有利と見ての判断なのだろうか?

「天より落つる白き花 集むる我の鈴音とならん 氷の鐘―アイスベル―!!」

 冷気が辺りに渦を作り、白く具現化した風がキーカの手元に集まっていく。

 少し短い棒の先に、大きなレモン型のハンマーの先が現れる。

 色は白。限りなく白に近い水色で六花(りっか)の文様が描かれている。

「果てなき絶対の柱(ゴッドピランド)!!」

 振り下ろされたハンマーは、地面に当たると教会にあるような鐘の音を発した。

 それとともに大地が一線だけ凍り、小さな柱がレーサの手前で持ち上がる。

 レーサは高くジャンプしそれを避けると、手を組み呪文を唱えた。

「走る光は時に曲がり轟音となる その牙をもって破壊せよ 雷の剣―ライトニングソード―!!」

 小さな閃光が手元で細長い剣となる。

 持ち手の中央に黄の菱形水晶が埋め込まれ、柄は紫。

 それほど太くはないが、レーサの背に合うだけの長さ。

 着地をするまでに剣をしっかり握ると、氷をなぎ払った。

「壊雷の牙(サンダラック)!!」

 キーカは払われたことにさして驚きもせず、払われて散ったカケラに手を向ける。

 辺りに散った氷のカケラは、光を反射してきらめいた。

「氷柱の舞(アイシクランス)!!」

「読み通りだな…光雷牙(レライアング)!!」

 研ぎ澄まされた氷のカケラはレーサの心臓と脳天以外の急所を狙っていた。

 しかし、氷をなぎ払いカケラを作ってしまった時点で、予想されたことの一つ。

 それを返すのは、造作もないことだった。

 獣の牙のような雷撃は、氷のカケラに食らいついてその攻撃をとめた。

「あきらめが悪いでしゅね。霧の球(ミストボール)!!」

 キーカはリュックから灰色の大きな球をとりだすと、氷の鐘でたたき割った。

 ガラン と音がしたかと思うと、辺りの視界が陰る。

 レーサがそれを睨みつけていると、手元の剣が四散しかけだした。

 魔力が形を成していられない。

「?! 解除系の力かっ」

 安定させるべく、剣に力を注いでみたものの、散っていこうとする力の方が強い。

 あまりやりすぎると力の無駄なので、ある程度するとレーサは剣に力を注ぐことを止めた。

「しかしこれでは、やつの方も同じでは……」

「しょ〜んなわけ、ないでしょ。キーカはきちんと考えてましゅ!」

 見透かされたように情報から声がかかる。

 相手の姿を見ようと目をこらすが、どうしても影しか見えない。

「チェック……メイト」

 気付いた時には喉に刃物の冷たさを感じた。

 視界には金髪がスローモーションのように写り、肩に人の重みを感じた。

「……いつの間に?」

「解除系の……ってあたりから。ちなみに、上の声は種明かしぃをしゅると」

 風が吹き、視界が開けた。

 上から落ちてきたのは小さな人型の人形。

 レーサの手に落ちると、カタカタと動き不気味な表情を作った。

「しょの人形でしゅ、キーカの声を発しぃていたのは。で、どうしましゅ?」

 ルール上殺されることはなさそうだが、まだやると答えていい返事は聞けそうにない。

 テトアの方に視線を送れば、好きにしなよと言いたげだった。

「降参だ。ま、いい勝負はできた。礼を言うぞ、キーカ嬢」

「ふふ〜。じゃぁ君にはキーカの本当の年齢を教えてあげるわ」

 降りる前に耳元で何かを呟くと、ふわりと地面に降りた。

 本当か? と聞き返すレーサに、いたずらっぽい笑みを浮かべ本当よ、と答える。

 顔に手を当て考え出してしまったレーサは放って、キーカは自陣に戻っていった。

 決勝の相手は勝ち組。キーカとクェルタの組。





 + + +





 観客席の二人に向かい、クェルタは音を発せず口を動かした。

 "明後日が楽しみですよ。たくさん楽しませてくださいね"と。

 そして、口の端を上げ、さも満足そうな笑みを浮かべている。

 背筋を何か冷たいものが走るような感覚。

 サイナとナトレに緊張が走った。





 + + +





 決戦は明後日…嵐の前触れかのように、大風が吹き始めていた。


back top next

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送