風は南から吹き、天候は快晴。 十数日かかった無差別競技会―スクランブルバトル―も最終日を迎えた。 街も、今までで一番盛り上がっている。会場外まで列はつながり、大盛況のようだ。 昼過ぎに琥珀と翡翠を連れ会場へ行くと、ナトレが笑顔で迎えてくれた。 翡翠はナトレの左肩に移りなにやら言っていたが、馬耳東風。全然効いていない。 暗い雰囲気を纏うサイナに近寄ると、背を思いっきり叩いた。 「なんや、辛気くさい顔しとんな。ほれ、大丈夫やって勝てる、勝てる」 「……うん」 上の空で答えるサイナに、ナトレは頬をふくらせた。 「そんなんじゃ、あかんで? しゃきっとせぇ、しゃきっと!」 「……うん」 「お前、わいに喧嘩売っとんのか?」 「ん……半分くらい」 適当に答えたサイナにいらつき、ナトレはサイナの胸ぐらを掴んだ。 そのまま横の壁にサイナを突きつけたので、丁度背中を強打したようである。 左肩に乗っていた琥珀は驚いて飛びすさり、サイナは苦しそうに顔をゆがめる。 「何があったか知らんけどなぁ……このままはったおすで? ちったーしゃっきりせんかい! 例え、嘘の元気でもなぁ」 目を見開いたサイナに構わず、ナトレは続ける。 「ええか。相手が誰であろうと、前日に何があろうと、一度受けた仕事やったらキチンとやるやろ? それと同じや。 この大会出るって決めたんなら、最後まできちっとやらんかい!! ここで止めるんは中途半端もええとこや!」 「……ってるよ」 「あん?」 「分かってるってば。最後までやるさ、ちゃんと!」 顔を上げたサイナの表情にもう……迷いはなさそうに見えた。 ナトレは手をゆるめると、ニカッと笑う。 「ま、サイナの好きにすればええんやけどな。……そのうちわいにも話してくれ」 「……うん」 「ほんじゃ、行こか」 先を歩き出したナトレを追って、サイナもバトルフィールドへ向かったのだった。 + + + 会場は熱気に包まれており、試合前のパフォーマンスが行われていた。 簡単な魔法を組み合わせた手品や動物たちの芸などである。 それもクライマックスに向かい、締めくくられた。 拍手喝采が起こり、フィールドへ繋がる扉が徐々に開いていく。 西側からはサイナ達が、東側からはクェルタと黒い兎型リュックを相変わらず抱えたままのキーカが現れた。 「さぁ……決勝ですね、Myエンジェル」 「楽しい、楽しい、パーティの始まりでしゅね」 クェルタが立ち止まると、キーカも歩みを止めた。 不思議そうに見上げた頭をやさしくなでると、細い右目を大きく開けた。 しゃがまずに見下ろす形の上に、開眼状態なので威圧感が感じられる。 流石のキーカも肩をすくませた。 「ど……Dr?」 「昨夜、何をしてきたかは知りませんが、私の獲物ですよ。邪魔はしないで下さい。貴女でなければ生きていませんからね……キーカ」 「……ごめんなさい、クェルタ。今後気をつけるわ」 「そうしていただきたい。貴女を失いたくはありませんから。ですが、今夜はお仕置きですからね」 どんなことがされるかは分からないが、キーカは頬を染めた。 その素振りに気付いてか気付かないでか、口の端を上げるとクェルタは再び歩み出したのであった。 + + + 先鋒はナトレとキーカ。 魔法術士同士、どうみても魔法対決になるようである。 力的には称号を考えるとナトレの方が上。しかし、どうなるかは誰にも予測などできない。 それが魔法の戦いである限り。 「いや〜な風でしゅね」 キーカの腰まである金髪と赤のスカートが風をはらんでなびいている。 「空泝(クウス)の風はなぁ……よそ者にはキツイだけの風や。けどな、住んどる者にとっちゃ、最高にええ風なんや。こういう荒れる日は特にな」 「強がりでしゅか?」 「さぁ、どやろぉな。実証、してみるか?」 にやりとナトレが笑うと、キーカは面白いじゃないと言いたげに、体の左側を前にし、右足を少し引いて構えをとった。 ナトレはそれと鏡あわせの体勢をとった。 双方共に動かないように見えたが、口元だけは絶えず動いていた。 近づかなければ聞こえないくらいの小声で、呪文を唱えていたのだ。 それが普通の人に分かったのは、キーカの手に星のシンボルがついた大きな白鎌が、ナトレの手には透き通った翠の棒がそれぞれ現れてからだった。 光の鎌―レイサイス―と、風の棒―ウインドロッド―である。 「光の贖罪(レジュンデ)!!」 先に動いたのは、キーカだった。 自分の背丈よりも長い鎌を振りかぶると地面を蹴り跳び上がる。 「っ風幻の盾(ウィーシールド)!!」 急いで風の棒を横向きに持ち、ナトレは盾を創る。 盾がキーカの光の鎌―レイサイス―をはじき返すと、ニヤリと笑い新たに呪文を唱えだした。 「風に運ばれたどり着く 無限の底に眠る者 その瞳に映るは まごう事なき真の闇 闇の珠―ダークオーブ―!!」 風の棒―ウィンドロッド―の中心に黒点のような物が現れる。 ついでじわじわと点は大きくなり、手でおおえるほどの大きさになった。 そこまで成長すると、その後は一瞬の変化だった。 丸が平面から立体――即ち球へと転じ、風の棒がそこから生えるような形となったのである。 「これで、二つ……あと、一つくらいいけるでぇ」 キーカはふとナトレが何か仕掛けているのではないかと思った。 風系の攻撃をしたいのならば、初めの物―風の棒―ウィンドロッド――だけで十分のハズ。 光魔法対策に闇魔法のための物を出したとすれば、合点はいく。 だが、それだけではないような気がしてならない。 「何がしぃたいのか知りましぇんが、集中しぃしゅぎるのも問題でしゅよ。蛍乱斬(サイノス)!!」 背よりも長い白鎌を横になぎ払うと、その先からブーメラン型の刃が飛び出した。 流石にその刃は風幻の盾(ウィーシールド)では防ぎきれず、盾を突き破ると、ナトレに向かい四方から飛んできた。 「ま、別にこれだけでもええんやけどな。烏の濡れ羽(クロウィグ)!!」 闇の珠から黒い羽根が生み出され、あたりを漂いだす。 頼りない盾にも見えるが、キーカの放った刃と相殺しているところを見ると、そうでもないらしい。 「防御ばっかやと、つまらんな。わいもそろそろ、行かせてもらうで」 器用に片手で風の棒―ウインドロッド―を回すと、中心にある闇の珠―ダークオーブ―をしっかりと握ったのだった。 back top next |
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