蒼瑠璃一一五六年 夏の雨月の中頃。 北はリョーン、東はハルアン、南はスシャラという三国に囲まれた国 クーシアがあった。 現在の王はフェン・アーシク。国の色は白である。 囲まれているために山も海も臨むことはできないが、商業の一番発展している国と言われ、色々な所との交流があった。 その中心地、カルタ。 ここは、昔は何もない土地だったが、旅の商人カルタ・アルフが現れてからは生まれ変わった。と、他の国にまで噂される。 そんな中心地 カルタの大広場では、現在 剣術大会が行われていた。 「……っ、負けてたまるかぁ!!」 剣同士のぶつかり合う、金属音の鳴り響く中、少女は叫んだ。 今はちょうど決勝戦の途中で、両者の力は均衡し、なかなか決着がつかないでいる。 「ティナー! 頑張ってぇ〜」「旅の方こそ頑張れ!!」「後ろだ後ろ〜!」 大勢の見物客のあちこちからは自然と声が上がっていた。 ティナというのは先ほどの少女。歳は15だが、わりと幼くも見える。腰まで届く、光の加減では焦げ茶にも見える長い黒髪を1つの三つ編みにし、赤いリボンで結んである。 対峙しているのは、茶色いコートに包まれた人物。なんせ、足元まで届くコート。剣がどこから出てくるかわからない。 見物客が見守る中旅人が動いた次の瞬間、空気を引き裂かんばかりの大きな音がし、ティナの持っていた剣が折れた。 「これで、私の勝ちですね」 人々が驚く中、剣を一降りすると、旅人は鞘に収めた。 相手を傷つけることなく勝負を終わらした上に、汗一つかいていない。 ティナは呆然とその場にぺたんと座り込んでしまった。 「ティナー!」 見物客の中から人をかき分けつつ、一人の青年が飛び出してきた。かなり慌てていたのか、息は切れ切れである。 その顔を見たとたん、ティナの目からは涙があふれ出した。 「兄さまぁ〜」 何も言わずに苦笑を浮かべると、ティナの兄―駆けつけた青年―は優しくティナの頭を撫でた。 しばらくの間そうしているうちに、ティナはどうにか嗚咽を飲み込むと、見物人を押しのけながら歩きだした兄の後ろについていった。 家に付くまで、兄はティナを気づかってか無言のまま歩いてくれた。 家に付くと、ティナは一目散に自分の部屋へ入っていった。 「ま、仕方ないか…」 今まで負け知らずのティナのこと相当落ち込んでいるだろう。 兄は一言呟くと、再び出かけていった。 太陽が傾き始める頃、ティナはようやく泣きやんだ。 いや、もう涙も出ないくらい泣いてしまったと言った方が正しいだろう。 「……泣いてても仕方ないか」 頬に残る最後の雫をこすると、ティナはふと過去のことを思い出した。 「これだけ泣いたの久々かも。母さまが死んで以来かな……あれ? でも、その前は?」 ティナの母親が亡くなったのが9年前。 しかし、思いだそうにもティナにはそれ以前の記憶が全くないのだ。 「確か、もっと嫌で泣いたような……なんだろう?」 その疑問を抱えつつベッドで転がって考えているうち、ティナは眠りについた。 back top next |
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