第2話 『占いのおばば』

 数日前

 ティナは懐かしい夢を見た

 自分の覚えている場所ではないが、とても懐かしく思えた

 今の家の裏に山はないが、その夢では家の裏の山で遊んでいた

 自分の妹と……


 その日の朝、ティナは窓から射し込む光がまぶしくて目が覚めた。

 窓からはいつものように、眠気を全て吹き飛ばす涼しい風が吹いた。

「ん……何処の夢だろぅ」

 ベッドの上でぼーっとしていると、兄が部屋に起こすために入ってきた。

 ティナの頭は一気に目覚めを迎える。

「あ、兄様おはよう。今日は街のお店見に行こうね」

「そうだな…父さんに許しをもらってこよう。さぁ、着替えないとおいてくぞ」

「は〜い」

 元気のいいティナの返事を聞くと、兄は微笑みながら部屋を出ていった。


 年に一度の祭りなので、クーシア国の中心地であるカルタはいつもの倍賑わっている。

 子供達は特別にもらえるお小遣いなどで、欲しい物をたくさん買っている。

 いつも働いている男達もこの一週間は仕事が無く、飲めや笑えの大騒ぎだ。

 ティナと兄はいつも一番に行く場所へ向かった。

 その場所とは、この街で有名な星占いのおばばの所だ。

「ばあちゃん! きょうも悪い星はない?」

 ティナはおばばの所へ付くと、すぐに聞いた。

 彼女の占いはよく当たる。半ば、習慣化したいつものあいさつだった。

「おや……ティナかえ? 大丈夫、ここの所はずっとあらわれんよ」

「そっか、じゃあ当分大丈夫だね」

 今日も何もないと、ほっと胸をなで下ろした。

 ティナはいつもこれを聞かないと、不安になるのである。

「だがね……お前の身に何かが起きるぞ。けがや病気ではなさそうじゃから、安心してて良いはずじゃ。ほっほっほ」

 いつものように自信たっぷりの声でおばばは言ってのけた。

 何かが起きると言われても、以前起こったことが大したことでは無かったため、ティナはあまりこの言葉を気にしてはいなかった。

「二人とも、祭りに行くんじゃろ? また何かあったらきとくれよ、ティナ待っとるからな」

「うん! またね、ばあちゃん」

 兄の腕を惹いてティナは市場へ駆けていった。

 二人が角を曲がると、おばばはいつもより真剣なまなざしで水晶を見つめた。

「天運は結局変わらず……か。約束のために私は動かなければいけない……」

 普段のしわがれ声とは違う、女性の声でのつぶやきは、誰にも聞かれることなく虚空に消えた。





 次に二人が向かったのは、顔なじみの酒場だった。

 酒場とはいえ、他にもお菓子やらを売っているため、二人はよく出入りしていた。

 それ故か、店長のコフルはいつも二人をかわいがってくれる。

「コフルのおじさん、こんにちは〜」

 ティナは店のカウンターの中にいるコフルに話しかけた。

 無精ひげをいつも生やす、豪快な店長も、今日は少し酒が入っているのか顔が赤い。

「やぁ、ティナちゃんいらっしゃい」

「なんか面白いこと無い?」

「そうだなぁ……」

 いつもならば、ここですんなり色々な話を聞かせてくれるのだが、酒が入ったためなのか新しい話がないためなのか、なかなかコフルは話そうとはしない。

 カウンターの店主が仕事をしないと言うことは、酒場の注文も滞るわけで、それに気づいた兄は慌ててティナの襟首を引っ張った。

「ティナ、行くぞ。邪魔になるといけないから。コフルさん、すみません……今度でもいいですか?」

「……ん? ああ、構わないさ、すまないねぇ」

 いいえ、と微笑み一礼すると、兄は先に店を出た。

「あ〜…待ってよ、兄さま〜!」

 ティナは慌ててコフルにお辞儀をしてから後を追った。


 街の大通りはいつもより多い店で賑わっている。

 この祭りのために他国からやってくる人も多いのである。

 ティナは結局見ているだけで、何も買わなかった。


 + + +


 そして、数日後――剣術大会の日が来た。

 出場者は予選で、かなり絞られる。

 勝ち残った16名が本戦に出ることができるのだ。

 トーナメントも順調に進み、決勝戦のみが長引いていた。

 ティナは街で一番の使い手と言われていたが、旅人は思っていたよりも強く手こずっていたのだった。


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