数日前 ティナは懐かしい夢を見た 自分の覚えている場所ではないが、とても懐かしく思えた 今の家の裏に山はないが、その夢では家の裏の山で遊んでいた 自分の妹と…… その日の朝、ティナは窓から射し込む光がまぶしくて目が覚めた。 窓からはいつものように、眠気を全て吹き飛ばす涼しい風が吹いた。 「ん……何処の夢だろぅ」 ベッドの上でぼーっとしていると、兄が部屋に起こすために入ってきた。 ティナの頭は一気に目覚めを迎える。 「あ、兄様おはよう。今日は街のお店見に行こうね」 「そうだな…父さんに許しをもらってこよう。さぁ、着替えないとおいてくぞ」 「は〜い」 元気のいいティナの返事を聞くと、兄は微笑みながら部屋を出ていった。 年に一度の祭りなので、クーシア国の中心地であるカルタはいつもの倍賑わっている。 子供達は特別にもらえるお小遣いなどで、欲しい物をたくさん買っている。 いつも働いている男達もこの一週間は仕事が無く、飲めや笑えの大騒ぎだ。 ティナと兄はいつも一番に行く場所へ向かった。 その場所とは、この街で有名な星占いのおばばの所だ。 「ばあちゃん! きょうも悪い星はない?」 ティナはおばばの所へ付くと、すぐに聞いた。 彼女の占いはよく当たる。半ば、習慣化したいつものあいさつだった。 「おや……ティナかえ? 大丈夫、ここの所はずっとあらわれんよ」 「そっか、じゃあ当分大丈夫だね」 今日も何もないと、ほっと胸をなで下ろした。 ティナはいつもこれを聞かないと、不安になるのである。 「だがね……お前の身に何かが起きるぞ。けがや病気ではなさそうじゃから、安心してて良いはずじゃ。ほっほっほ」 いつものように自信たっぷりの声でおばばは言ってのけた。 何かが起きると言われても、以前起こったことが大したことでは無かったため、ティナはあまりこの言葉を気にしてはいなかった。 「二人とも、祭りに行くんじゃろ? また何かあったらきとくれよ、ティナ待っとるからな」 「うん! またね、ばあちゃん」 兄の腕を惹いてティナは市場へ駆けていった。 二人が角を曲がると、おばばはいつもより真剣なまなざしで水晶を見つめた。 「天運は結局変わらず……か。約束のために私は動かなければいけない……」 普段のしわがれ声とは違う、女性の声でのつぶやきは、誰にも聞かれることなく虚空に消えた。 次に二人が向かったのは、顔なじみの酒場だった。 酒場とはいえ、他にもお菓子やらを売っているため、二人はよく出入りしていた。 それ故か、店長のコフルはいつも二人をかわいがってくれる。 「コフルのおじさん、こんにちは〜」 ティナは店のカウンターの中にいるコフルに話しかけた。 無精ひげをいつも生やす、豪快な店長も、今日は少し酒が入っているのか顔が赤い。 「やぁ、ティナちゃんいらっしゃい」 「なんか面白いこと無い?」 「そうだなぁ……」 いつもならば、ここですんなり色々な話を聞かせてくれるのだが、酒が入ったためなのか新しい話がないためなのか、なかなかコフルは話そうとはしない。 カウンターの店主が仕事をしないと言うことは、酒場の注文も滞るわけで、それに気づいた兄は慌ててティナの襟首を引っ張った。 「ティナ、行くぞ。邪魔になるといけないから。コフルさん、すみません……今度でもいいですか?」 「……ん? ああ、構わないさ、すまないねぇ」 いいえ、と微笑み一礼すると、兄は先に店を出た。 「あ〜…待ってよ、兄さま〜!」 ティナは慌ててコフルにお辞儀をしてから後を追った。 街の大通りはいつもより多い店で賑わっている。 この祭りのために他国からやってくる人も多いのである。 ティナは結局見ているだけで、何も買わなかった。 + + + そして、数日後――剣術大会の日が来た。 出場者は予選で、かなり絞られる。 勝ち残った16名が本戦に出ることができるのだ。 トーナメントも順調に進み、決勝戦のみが長引いていた。 ティナは街で一番の使い手と言われていたが、旅人は思っていたよりも強く手こずっていたのだった。 back top next |
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