第4話 『火龍と夢と旅立ちと』

 夢の中はただ闇が広がっていた

 音も光もない世界 それでも自分は歩き出す

 明るい未来を求め…



「いっけな〜い!!」

 ティナは大急ぎでベッドから飛び下りた。

 おばばの言っていた日の今日にかぎって寝坊してしまったからだ。急いで着替えをすまし、髪を結うと、バタバタと音を立てて階段を駆け下りた。

 ティナが下のリビングを覗くと、ちょうど話が終わったところのようだった。

「……話、終わっちゃったの?」

 ティナがおそるおそる聞くと、父が椅子から立ち上がって、目の前に来た。

「ティナ、お前はそれでいいんだな?」

「うん。もう決めたんだもん」

 ティナはいつもよりも真剣な眼差しで父を見て言った。

「そうか……お前の決心はそこまで固いんだな」

 話し込んでいる二人を心配そうな目で見ている兄は、何かを我慢しているようだった。

 父はため息を一つつくと、ティナに言った。

「それなら、行って来い。私にはお前を止める権利なんぞ元から無いからな……」

 ティナは父の答えに驚いた。なんせ、絶対に止められるだろうと思っていたから。

 兄の方もこの返事に驚いていた。先のわかっていたおばばだけが、のんきにお茶を啜っている。

「と、父さん! 自分が何を言ってるかわかってるのか? ティナを一人で旅に出すって、だって、それじゃぁ……」

 兄は、父の視線に気づいて口を閉じた。普段温厚な兄がここまで怒る事は初めてだった。

「お前だって、わかっているだろう? ティナは止められないし、止める権利もない」

「でも……わかっていても俺は!!」

 ティナは兄がわがままを言うのに責任を感じていた。だが、気持ちの変化はなかった。

「兄さまに心配かけるのはごめんなさい。でも、行きたいの!!」

 ティナにお願いされたのは、いつぶりだっただろうか。兄はようやく許す覚悟を決めたようだ。

「……わかったよ」

「ふむ、ようやく意見がまとまったようじゃな。では、占うぞえ」

 おばばは水晶を取り出すと、ティナの出発の日を占ってくれた。

 だが、この時占う必要はなかった。しかし、ティナの父と兄を納得させるため、おばばは占う振りをしたのである。

「おやまぁ……」

「え? どうしたの? ばあちゃん」

 おばばが意外な声を上げたのでティナは覗き込んだ。

「急で悪いがな……ティナ。明日じゃ」

「え?」

「明日じゃよ、あ・し・た」

「「「えぇ〜?!」」」

 驚きのあまり、三人は絶叫した。

「明日以外はだめじゃな。星が悪すぎる」

「そんないきなりなの? ばあちゃん」

 すでにまわりに父の姿はなくなにやら上からバタバタと音がしている。

「仕方ないじゃろう。お前の決心が早くてもこうだったろうしな。回り始めた星は……」

「え? どういうこと? ばあちゃん」

 おばばは少し微笑むと、荷物をまとめだした。

「まだ、お前にはわからんよ。さてと、ワシはかえるぞぃ」

「え゛っ…ばあちゃん、ここをほっておくき?」

 ティナの問いかけに、おばばは冷静に返す。

「当たり前じゃろう。ワシも仕事があるんでな。じゃぁティナ、元気に行くんじゃぞ」

「うん。わかったよ、またね、ばあちゃん」

 ティナは玄関までおばばを送ると、自分も用意にかかった。


 その日、珍しくティナの家の明かりは夜遅くまでついていたそうな。


 そして、夜中になり旅の支度が終わると、ティナはようやく眠りについた。


 * * *


 真っ暗な闇の中、今日は一筋の光があった

 それはだんだんティナの方に近づいてくる

 ティナが目を凝らしてみると、それは龍だった 体が長く尻尾の方は闇に紛れて見えない

 額に一本の角、真紅の瞳、明るく光る体からは絶えずチリチリと音がしている

 ティナは一目でその正体が分かった

"お前は…火龍だよね?"

 いつものように小さくなっているティナは、幼い声で問いかける

"そうだよ 夢で会うのは、ひさ……いや、初めてだったね"

 火龍はやさしい女の人の声で語りかけてくる

 幼い姿のティナには火龍はとても大きく見える

"お前に言っておくことがあったんだよ"

"何?"

"これからは、こういう風に夢で会えることを……"

 旅立ちの前の新たな友に、ティナはとてもうれしくなった

"わかった ありがとう、火龍"

 にっこり笑うティナを確認すると、火龍は闇の中に消えた

 その瞬間目の前が明るくなった ティナは眩しくて目を手で覆いその方向を見た

 そこには一人の影があった

"あれは…"


 * * *


 ドサッという自分がベッドから落ちた音で目が覚めた。

 眩しくて目が痛かった間隔がまだ残っている。

「あれ誰だろう?」

 ティナはベッドの上で一人首を傾げた。

 朝食を済ませ、一息ついた頃にティナは荷物を手に取った。

「さてと、そろそろ行くね。兄さま」

 兄の目は、少し赤かった。おそらくは昨晩、泣きはらしたのであろう。

「ああ。気を付けるんだぞ、ティナ」

「うん。もちろん」

 ティナは父の部屋も覗いた。

「父さま、行って来ます」

「おお」

 ティナが家を出ると、旅立ちの日にうってつけな、いい天気だった。

「よぉ〜し、頑張るぞ!!」

 ティナは意気込んで歩き出した。



 少女の運命の星はここから動き出した

 まだ見たことのない自分の強さを見きわめるため…

 自分の力を磨くため…

 そして、まだ見ぬ自分の過去を知るために…


第1章 終


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