第1話 『盗賊に出会いました』

 旅に出たとは言うものの、ティナは1日経っても国を抜けずに行き場所を考えていた。

「……そうだ! 南の国 シグスに行こう!あそこは海が綺麗だって、コフルのおじさんも言ってたし」

 南の国 シグス。大陸では一番の南にあるとされている。西側だけがイロリアとの国境になっているが、それ以外は国と接していない。

 唯一カロン島へと渡る、航行手段を保持する国でもあった。

 現国王はタァル・グシス。国の色は灰色である。

「それにしても、こんなに抜けるのにかかるとは……」

 カルタから国境までは旅になれている者なら半日で行く距離である。

 しかし、初めて旅するティナにとっては長い距離だった。

 先程から独り言のように喋っているのは、何かしないと寂しいからなのだろう。

「あ、国境の門だ!」

 ティナが国境の門にたどり着いた時は、すでに夕日が落ちる頃だった。

 時間的にも遅いので、通してくれるか心配をしたのだが、門番は意外にもすんなり通してくれた。

 門を出ると涼しい風が吹いた。すぐ側にクーリョラ川が流れている。

 クーリョラ川はわりと広い川なので、渡し船がある、しかしもう日が暮れ辺りは闇に包まれようとしている中、船が出るとは思えない。

「……どうしよう」

 辺りを見渡し誰もいないことを確認すると、ティナはそこに荷物を置き座り込んだ。

「誰もいないようだし、門も近いし。ここで寝ようっと」

 一番の心配は荷物を取られてしまうことだが、門番が一日中いるここでは大丈夫だろう。

 左肩から前に回っている、剣の鞘を止めているベルトをはずし自分の側に置いた。

 ティナは草の一番柔らかい所を見つけると、そこに転がり空を眺め、眠りについた。


 * * *


 真っ暗な闇の中ティナは今日も火龍を探していた

 昨日は結局見つからなかったので、今日こそは! と意気込んでいる

 旅立ちの日に見た影の正体を知りたかったのだ

"やっぱり……またいない"

 少しうなだれていると、いきなり地面が遠くなった ティナは驚いてキョロキョロ見渡すと、今度は周りの景色が一変する

"……え?"

 そこは、自分の住んでいた家の前だった

 だが、周りの様子から少し昔のようだ

 ティナは今頃になって自分が浮いていることに気がついた

"何で浮いてるの??"

 少し経つと、向こう側から男の人と手を引かれている少女がやってきた

"あれは……私?!"

 男は家の前で立ち止まり幼いティナの方を向き、目線を合わせるようにしゃがんだ

"いいかいティナちゃん 今日からここが君の家だよ。といっても、前のことは忘れているんだったな……"

 幼いティナを哀れむような不思議な笑みを浮かべ男は言い放った

 幼いティナは訳が分からず、キョトンとしている

"それにしても、あの村。掟だかなんだか知らないが……一体どういう? いや、私には関係のないことか"

 その時は独り言だったのだろう だが、今のティナにははっきりと聞こえた

"どういうこと? 村? 掟? 一体何の……"

 ティナがもっとよく聞こうと地面に降り立つと、周りは元の闇に戻った

 ティナの前には火龍が困った顔をしている

"火龍!! 今私が見たのは何? 一体昔何があったの?"

"ティナ……見てしまったのね"

 火龍はティナの問いに答えてくれなかった

"火龍……やっぱり何か知ってるの?"

"ごめんなさいティナ まだ、私から教えることはできないの"

 ティナは今すぐ答えが知りたかった だが、火龍を困らせたくはなかった

"分かった それならいいや"

 火龍は少しほっとしたように見える

"じゃぁさ、これは答えて 旅立ちの日に私が見た影は、これから会う人?"

 ティナは一番聞きたかったことを聞いた

 火龍は未来を見せていたことに非道く驚いている

"ティナ、顔まで見てしまったの?"

"ううん 眩しくて見えなかった"

 ティナの返事を聞くと、火龍は安心したようだった

"そう それならいいわ"

 だんだん周りが明るくなってくると火龍は朝になることをティナに告げ去っていった


 * * *


 川のせせらぎと鳥の声で目が覚めた。ティナは川の水で顔を洗うと、荷物を持って渡し船の場所に移動した。

 朝一番の渡し船に乗れたティナは、無事川の向かい スシャラ国側についた。

 隣国 スシャラは、クーシアの南側全てと接している東西に細長い国である。

 王都であるケウヌは東の端、ハルアンとの国境近くに存在している。

 南側のほとんどがケトラ砂漠に接しており、旅人達はこの国の街で物資を補給し、旅立っていくのだった。

 岸に上がると国境の門はそばにあり、ティナはすぐにスシャラ国に入ることができた。

 門をくぐろうとすると、いきなり門番に睨まれた。ティナは思わず首を引っ込め、おそるおそる聞いてみる。

「あの〜何か?」

「何でもない。だが、お前はどこから来たのだ?」

 感情も入れずに、単調な声で聞いてくる。

 人としては命令のようで最低だが、感情のこもらない声は、仕事上必要なのだろう。

「クーシアからですけど?」

「隣国からか。……よろしい通りなさい」

 ティナはそんなに珍しいのかな? と、首を傾げながらも通る。

 門の内側の村は物静かな所だった。どう見てもこの村から続く道は、森につながっている。

「いきなり、森の中……か」

 辺りを見てみたが、他に道はない。ティナは諦め混じりのため息をついた。

「仕方ないか。どうせそのうちこういう道を通るだろうと思ってたしね」

 森の道はよく旅人が通るのか、とても綺麗な所だった。

 人っ子一人いない一本道は、何か起こりそうな場所だ…。

「なんか、出ないっかな〜」

 ティナはどちらかというと、何かが起きる方を望んでいる。

 何も起こらないので、ティナが油断していたところに上から網が落ちてきた。

「って、いきなり?!」

 すかさずティナは鞘から剣を抜き、網を真っ二つに切り裂く。そして声を張り上げた。

「そこにいるのは誰!!」

 音で大体方向はわかるものの姿は確認できない。

(誰って聞かれて、出てくる悪者はいないか)

 ティナがキョロキョロしていると、声が聞こえた。

「お前はリョーンの者か?」

「え?」

 ティナが答えに詰まっていると、さらに声が聞こえた。

「リョーンの者かと聞いている!!」

「もしそうだって言ったらどうするつもり?」

 ガサッ という音と共に男が一人飛び出し、ティナの首に刀を突きつける。

 音で反応したティナは一歩遅れた。

「貴様の首が胴から離れるだけだ!!」

「残念ね、私はクーシアから来たの。刀をどけて!!」

 ティナは自信満々に言い放った。ところが、男は動こうとしない。

「どけるわけにはいかないな。まだはっきりした訳じゃねぇ」

 茂みから仲間と思われる者がワラワラ出てきた。

「荷物の中身、見させてもらうぜ!」

 無理矢理ティナの荷物を奪うと中身を探る。

「ちょっ」

 声で反論を試みるが、刀がさらに首筋に近くなったので、ティナは諦めた。

「お頭ぁ目的の奴と違うみたいっす」

 お頭と呼ばれているのは、ティナに刀を突きつけている男のようだ。

「だから言ってるでしょ。離して! それと荷物返してよ!!」

「うむ……すまなかったな、お嬢ちゃん」

 男はティナから刀を離した。

「何か、探しているの?」

 男達からざわめきが起こった。

「悪ぃな。そりゃ〜言えねぇんだ」「悪かったな、お嬢ちゃん」「行くぜ!!」

 口々に色々な事を言われ、ティナが混乱している間に、男達は去っていった。

「って、人のことをお嬢ちゃんって呼ぶなぁぁぁぁ!!」

 ティナが叫んだとき周りには誰もいないので、むなしく空に響くだけだった。

「はぁ。ここで止まってても仕方ないし、行こう!」

 大きなため息を一つつくと、ティナはずんずん進んでいった。

 昼間は出てくる敵―魔物―を倒しながら森を進み、夜はできるだけ町や村に出るようにした。

 そして、数日が過ぎていった。


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