第2話 『魔法使いが降ってきた』

 旅立ちから一週間経った日 夏の赤月最初の日、ティナはスシャラ国の西の端にある大きな町 ケティアにいた。

 今日中にスシャラを抜けられるかな〜? などと考えながら町を歩いている。

 ところが、今日のティナは運が悪いのか、町の角を曲がった時何もないはずの自分の頭上から、水が降ってきた。

「何?! 水?」

 ティナが驚いているところに、今度は人が降ってきた。

 立ち止まっていたティナを丁度押しつぶす形になってしまった。

「っててて……ちっ、今日に限って失敗かよ」

 落ちてきた人物は、自分の下にいるティナの存在に初めは気づいていなかった。

「お願い下りて……」

 なんとか絞り出した声は、かなり息も絶え絶えである。

 その声に、上の人物はようやく人の上に落ちたことを確認した。

「おわっ?! 悪りぃ。まさか人がいるとは……」

 そう言いながらティナの上からどいた人物は、どうやら魔法使いのようだ。

 魔法使いの特徴である上に水晶のついた杖を片手に持ち、マントに身を包んでいたからだ。

 少年は短い薄い青の髪に、黒目、茶色いマントという目立つ風貌をしている。

 歳はティナと同じくらい。そして左手首に水系の守護を持つ証、風難よけの若草色の腕輪をしていた。

「もしかしてお前のそれ、水難よけ……か?」

 ティナの胸元にある守り袋を指しながら少年は言った。

「そうだけど。それより何? いきなり上から降ってくるなんて」

 話をごまかされた気がしたティナは、少し怒り口調だ。

「水系の移動魔法を使ってたんだよ。今日に限って失敗したがな」

 嘘ではないな、とティナは思った。なんせ少年は真面目な顔だ。

「オレはミケル。お前は?」

 名前を聞かれ、ティナは反射的に答えた。

「私はティナよ。……それより何処に行くつもりだったわけ?」

「国境の門さ。これから、西南のシグス国の方に旅に出ようと思ってな」

 南を指し、ミケルは偉そうに言う。

「あんた…強い?」

 ティナはボソッと呟いた。

「は? なんだって?」

 ミケルは聞こえなかったのか、わざとなのか、大げさに聞き返す。

「強いかって聞いてるの!」

「そりゃぁ……オレ様は最強だぜ!!」

 自信満々に胸を張るミケルに対し、ティナは少し疑いの眼差しを向ける。

 そこに、いきなり激しい雨が降ってきた。

「今日は何? 水難の日なわけ〜?」

 あわてふためくティナの周りから、雨が消えた。

「え?」

 よく見るとミケルが周りに結界を張っていた。

 魔法のことはよく分からないティナだが、緑色がかっていることから、風系だということが分かった。

 以前、魔法使いの友達がそんなことを言っていた。

「これでいいだろ。雨を防ぐ手だてが此処にはねぇからな」

 ティナはミケルの強さを疑ったことを反省した。

「それなりにできるのね」

 なんせ、過去にティナの周りにいた魔法使いは口だけの奴がほとんどで、人のことを気づかう人物を初めて見たからだ。

「あのさ、私の……」

 ティナが言いかけた時、ドンッ と何かが結界に当たった。


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