第3話 『追っ手は追い払いましょ♪』

「なっ……何?!」

「ちっ、もう追いつきやがったか」

 角を曲がってきたのは一人の杖を持つ男と、獣が一匹。

 結界に当たったのも同じ犬のような狼のような獣だ。

「いい加減にしやがれ!!」

「ふん。貴様が逃げるのが悪い」

 ティナは言い合いをする二人をただ呆然と見ている。
「何が起きてるの?」

 ティナの質問にミケルは簡単に答えた。

 余裕がない、というわけではなさそうで、どちらかというと説明するのが面倒だという感じである。

「あいつらしつけぇんだよ。オレ様をこの町から出さねぇとかほざきやがって」

 ミケルは、ブツブツと文句を垂れている。

 ドンドンッ と2匹の獣が結界に交互に当たる音が響くが、この結界が壊れるという兆候はみられなかった。

「獣の相手、しようか?」

「は?」

 ミケルは驚いた。まさかティナの口からこんな言葉が出ようとは思わなかったからだ。

「だって、あいつらがいる限り話の続きができないでしょ? だったらやる」

 とても楽しげに言うティナを見て、ミケルは考え込んだ。

 自分一人で相手をするのは簡単だが、ティナの加勢があるとさらに楽になる。

「まぁ……楽になるだろ〜し、お前、止めても行くだろ?」

 初対面のくせに妙なところはわかるんだな、とティナは思った。

「もちろん。じゃぁ、あの2匹まかされた!」

 ティナはまだ少し降り続く雨も気にせず、結界の外に飛び出し、背中の剣を抜いた。

 出てみてから、敵意のないものには結界は反応しないのかなどと、呑気なことを考えている。

 ミケルは杖を構えなおし攻撃の態勢をとった。

 ティナの方に、緑色の獣が跳んでくる。まず後ろ足を斬りつけると、動きが少し鈍る。

 そこに、もう1匹の赤色の獣が、仲間を庇うように跳んでくる。

 ティナは少ししゃがむと、赤色の獣の腹を斬る。

 2匹は一度後ろに後退すると、こちらの様子をうかがってくる。

「〜っ遅い!」

 ティナには獣の動きが見え見えである。

 おそらくそれは、術者の実力のせいだろう。

 ミケルとの戦いに気を使っているうちに、召喚獣であろう獣達に魔力を送るのを忘れてしまっている。

「へっ、口ほどにもねぇ。空に住みし風精よ我が力となり敵を切り裂け、風切刃(ふうせつじん)!」

 風が集まり緑色の刃を作る。それは容赦なく相手の魔法使いに当たっていく。

 初めは防御壁で防がれた。だが、第二波、第三波となると服や杖、皮膚を切りつけていく。

「えぇぇ〜い!!」

 ティナが緑色の獣の胸を貫いた。すると、獣は跡形もなく風になって消える。

「へ?」

 獣が消えた事にティナは驚いた。

 そして、相手の魔法使いは自分の術が敗れたことに非道く驚いている。

「しまった! 召喚獣よ戻れ!!」

 ティナの目の前に残っていた、赤色の獣も炎となって消えた。

「余裕がなくなったようだな。まぁ、オレ様に勝とうなんて百年はえ〜んだよ」

 偉そうに言ってのけるミケル。

「……お前をこの町から出すなと言われてるんだ。無理矢理でも連れ戻す!!

 大地に住みし土精よ力を貸せ、奴を捕らえるんだ、土網(つちあみ)!」

 地面が揺れ、大きな土の網が出現する。

 しかし、ミケルが張っていたのは風系の結界。魔法の関係上、風の方が上だった。

 この魔法使い、力の関係を分かってないな。と、ミケルに思わせるには十分な攻撃だった。

 召喚獣が消えた今、ティナは端で二人の戦いを見てるしかない。

 邪魔にならないように、ひっそりと壁に身を寄せた。

「いったん寝ていやがれ! 空に住みし風精よ我が力となりこの粉を敵まで運べ、弱吹風(じゃくすいふう)!」

 ミケルは自分の荷物の中から出した、眠り粉を弱めの吹風に放った。

 弱めにしたのはほんのちょっと残る心遣いからではない。

 あまり強すぎると粉が届かないからである。

「なっ……なに……を……」

 ミケルの意図に気づかず、相手の魔法使いはかなりの量を吸い込むと、眠ってしまった。

「ふん。後悔するんだな、オレ様の相手したことに」

 ティナは戦いが終わったのに気がつくと、ミケルのマントを引っ張った。

「あのさ、ミケル」

「なんだよ」

 ミケルは名前で呼ばれたことに戸惑いながら返事をする。

「私と一緒に旅をしてくれない? 心強いと思うんだ。一人じゃ心配だったし」

 後の方は口の中でモゴモゴ言ったので、ミケルは聞き取れなかった。

「ん〜……ま、別にいいぜ。オレも一人じゃつまんねぇと思ってたからな」

 ティナはその返事を聞くと顔を明るくした。

「ホントね! じゃぁこれからよろしく、ミケル!」

「ああ、こっちこそな。それじゃぁ行くぜ」

 足下に置いてあった荷物を拾うと、いつの間にか雨の上がった道を二人並んで歩きだした。

 日がだいぶ傾き始めていたので、二人は国境の門に向かって走った。

 門の前につくと、案の定数人の兵士と、一人の魔法使いが待機していた。

「お前ら、いい加減にしろ!」

 ミケルは大声で叫んだ。立っている魔法使いに、そんな声は届かないようだ。

 ちなみにティナは、先程のことで慣れてしまったらしく、大して驚いていない。

「ね、ミケル。強行突破あるのみ?」

 とても楽しそうに言うティナを見て、ミケルは大きなため息を一つついた。

「ったく……仕方ねぇな」

「ねぇ、行っていい?」

 今にも飛び出しそうなティナをミケルは止めなかった。

「いいぜ、オレも手加減なしでいくとすっか。空に住みし風精よ我が力となり敵を蹴散らせ、特大吹風!!」

 先ほどと違って、ものすごい勢いの風が兵士達に吹きつける。

 魔法使いの方は炎系の結界を張っているため、無傷だ。

 しかし、兵士と協力しようと言う考えは持ち合わせていないようだった。

「てぇ〜い!!」

 飛び込んだティナに半数の兵士が飛びかかる。

 だが、勢いで負けてしまいあっさりと武器を壊されている。

 残りの半数の兵士はミケルに向かったが、こちらは水の網に捕まり身動きがとれていない。

 一人になってしまった魔法使いの前に、二人は並んで立った。

「そこを退いて!!」「そこを退け!!」

 門の前にいた魔法使いは、二人の迫力に負け怖ず怖ずとそこを退いた。

 門の外に無事出ると、ミケルは魔法使いの方を向いた。

「おい。追っ手はもっと手応えのある奴送れ! って、長老―じじい―にいっとけ!」

「はっ……はいぃぃ」

 かわいそうに。見た感じ新米の魔法使いは、ミケルの言葉に怯え移動魔法を使って消えた。

「これで…よかったの?」

 尋ねるティナにミケルは笑顔で答えた。

「良いんじゃね〜の。面白かっただろ」

「うん」

 かくしてティナはミケルが仲間になり、二人でシグスに向かうこととなった。



 少女の星は新たな星に出会った ここからは、この二つの星の旅となる

 それが、天運に導かれし星の出会いとはまだ知らずに…

 少女の星にとってそれは運命と言うべき存在であった

 今までよりも、苦しいかもしれないが、乗り越えてゆけることだろう…


第2章 終

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