第4話 『最後の夜』

 そしてまた、半月が経った。

 蒼瑠璃 1175年 朱珊瑚 101年 冬の白月 半ばである。

 今までと違い、川岸の道がほとんど無く、進むのに時間がかかってしまったのである。

 水龍の泉から川を下り、フリエラ川をさらに進んだ先に、ウェクトはあった。

 壊れた壁はそのままだったが、街は完全に形を取り戻していた。

 この街に人さえいれば、海に沈んでいたなどと、誰が思えようか。

 神殿が街の中央にそびえ立ち、四方には高い塔、そして大陸の何処とも違う家々が立ち並んでいた。

 街全体が白く、道にはきらきらと光る、何かがちりばめられている。

「あれが……沈んでいたウェクト」

 そう呟かなければ、分からないかもしれない。

 森の切れ目付近までくると、ティナは立ち止まった。

 荒廃したとはいえ、かつての栄光の後は、未だ沢山残っている。

 そして……

「あそこに、ミケルがいるんだよね」

「ええ、そしてミスカルも」

「……行く?」

 ティナは右手を剣にかけた。

「いえ、今日はもう日が沈みます。一晩おいて行きましょう。それに……」

「それに?」

 アレスはその時微笑むだけだった。

 後から思えば、それはアレスの覚悟だったのかもしれない。

 その日の夜、ティナはアレスから最後の真実を聞いたのだった。







 + + +







『ようやく来たね。待ちくたびれたよぉ、ボク』

 ミスカルは街の中心の神殿から、二人の様子をのぞいていた。

 姿形は以前と同じだが、六芒星の描かれた金縁の額あてをし、尖った両耳には青いリングが三つずつついている。

『ここまで全て、筋書き通り――天運通りだね。てことは、ボクの勝ちも決まり。ま、ボクとしては簡単に終わっちゃ、つまらないんだけど』

 ふわり と、ミスカルは翼を広げ空に飛んだ。

 空では太陽が沈み、月が昇りつつある。

 ミスカルは目を閉じ、両手を広げた。

『大荒れになるよ、明日は。神様がいるとしたら、どう思っているんだろ? ま、地上の事なんて、見ているに過ぎない……のかな?』

 昇りかけの月に雲がかかると、ミスカルは再びティナ達の方を向いた。

『さぁ、おいでティナ。己の力の無さを知るがいいさ』

 突風が吹き抜けた。

 翌日の嵐の到来を告げるかのように。

 ミスカルは、空中でバランスを崩しかけ、慌てる。

『わっと……そろそろ戻ろう』

 地上に降りたミスカルは、一つの唄を思い出した。

 どこかの建物から、途切れ途切れのオルゴールが聞こえたからだ。

 いや、風の声だったかもしれない。



風とは 一番近くて遠い存在   絶対に掴むことのできない


火とは 全てを集める存在   周りを滅ぼし しかし気づかぬ


水とは 何にでも溶け込む存在   人に身を任せ 逃げてしまう


残る大地は 全てを知り しかし何も知らぬ   一番気高き しかしそれ故か


唯一の命を信ずる光は どんなモノよりも暗く   希望を携えた闇は どんなモノよりも輝かしい




『あれぇ……何の唄だっけ? でも、この先は知らないなぁ』

 さして気にもせず、ミスカルは夜の闇に消えた。



闇は光をもって 光をうち破る   光は闇へと消え 幻は沈む


風は天に帰り   水はもとの形を取り戻し 消え


大地はまた 永久の時を過ごすこととなる


そして火は…


火は その地に残る   その身を滅ぼすことなく


時に 火炎は人を救い   時に火炎は悲劇を生む


人に与える悲劇ではなく   その身自信への悲劇


果たして それを救う者は   いるのだろうか?


この永久に続く   時の螺旋の中に








 + + +







 夢の中の闇にティナはいた

 しかし、ティナにとってのこの闇は、何より心地よいものだった

 火龍と会える、場所だからか、思い出をかいま見れる場所だからかはわからない

"ティナ、明日はいよいよ"

"うん でも"

 夢の中に来てから、ティナは何か気にしている様子である

 火龍は僅かに目を細めると、ティナの真っ正面に顔を出した

"アレスの言ったこと、気にしているの?"

 火龍に考えを見透かされ、ティナは目を見開いた

"当たり……なのね 確かに、気にする気持ちは分かるわ でもティナ、あくまで推測だし、そうなるとも限らないでしょう?"

"……うん"

"それならば、悪い方ではなく、いい方に考えなければ それともティナ、アレスを信じることができないの?"

 ティナは首を思いっきり横に振った

"それなら、大丈夫 さぁ、元気を出して……ティナ"

"うん"

 ティナの表情から、不安が消えた

"それじゃぁ、おやすみ、ティナ 今日は今までで一番、しっかり眠らないと"

"そうだね おやすみ、火龍"

 ティナはにっこり微笑むと、その場で横になった

 火龍はティナから寝息があがると、体を丸め自分自身もティナの横で眠りについた



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