第10話 『再び戦いへ』

 翌朝。

 珍しくミケルはティナに起こされた。

 寝心地の悪いソファーだったが、昨日魔法を大量に使った所為で、体が参っていたらしい。

「ミケル! 起きてる〜? 朝だけど……どうしたの? 私の方が早く起きるなんて、珍しい」

「ん……朝……か」

 横から覗くティナの顔を見ると、ミケルは一気に目が覚めた。

 なんでこいつがここに? やら、俺はどうしてこいつに起こされた? やら、色々なことが脳内を駆けめぐる。

 考えるよりも……

「って、ティナ! 起きあがるなって、あれほど」

「いいじゃん。そ・れ・に・起こしたのは私よ?」

 元気に部屋の中を駆けてみせるティナ。

 ヒクッ と、ミケルの口端が動いた。

「ああサンキュ。とでも言うと思ったのか! 霧に住みし水精よ、我が力となりかの者を包め、水泡球(すいほうきゅう)!」

 水の泡がティナを包み浮き上がる。

 杖を使わず、呪文をいきなり唱えたため、ティナはあっさり捕まった。

 文句を言おうとしたのが、口を開けば水が入るかもしれない。

 泡を叩いてもがき、抵抗を試みたがミケルはそれを黙殺した。

「空に住みし風精よ、我が力となり水泡球をティナの部屋へ運べ、吹風!」

 風が、ティナのはいった水泡球を運んでいく。

 扉は開け放したままだったため、障害物に当たることなく、水泡球は進んだ。

 杖を取ると、ミケルもそれを追いティナの部屋に向かう。

 水泡球は、丁度ベッドの上でとまっていた。

「あとは……大地に住みし土精よ我が力となりかの者を捕らえよ、土網!」

 それと同時に水泡球を解く。

 つまり、水泡球からやっと解放されたと思えば、今度は土網によってベッドにくくりつけられてしまった。

「ミ〜ケ〜ル〜!」

「うるせぇ! ぐだぐだ言うな。口も塞がれてぇのか?」

「それじゃぁ御飯が食べられないよぅ」

 こんな時でも食い意地のはっているティナは、泣きそうな目で訴えてくる。

 そんな様子にも、ミケルは動じなかった。

「大丈夫だ。食うときだけ取れるようにしてやるよ」

 冷たく笑うミケルを見た時ティナの負けは決まった。

 この時ティナは、ミケルの言うことを二度と破るもんか、と心に誓った。

 しかし、その誓いがいつまで持つかは……神のみぞ知る。



 ミケルは朝食を取るべく、そのまま下に降りた。

「あ、ミケルさん。……朝食、遅いので先に頂いてしまいましたけど。これがお二人の分です」

「ああ、さんきゅ」

 ミケルは受け取ると、自分の食事をすまし、ティナにも持っていった。

 そこでもう一回ティナにくぎを差すと、外にでる。

 庭で、太陽の向きから時間を確認すると、少し慌てた。

「あと少しじゃねぇか、約束の時間まで。これだけは使いたくなかったんだが……」

 使いたくない、それは勿論魔法のことだ。

 戦いがどれだけかかるかわからないし、あのピアスを壊すのに、どれだけ力を消費するかもわからないからだ。

 しかし、時間を破るとまた何が起こるかわからない。半ば仕方なく、移動魔法を使った。

 頂上に着くと、太陽はまだ真上には来ていなかった。

「まあ、少しぐれぇ準備くらいしてもいいよな? 霧に住みし水精よ、我が力となり武器となれ、水弓(すいきゅう)!」

 辺りの霧が集まり、ミケルの手に透き通った青い、少し大きめな弓が現れる。

 ミケルは杖を脇に挟み、弓を引いてみる。

 久しぶりの感覚に、腕が付いていくかが少々不安だった。

 基本的な武器を扱う術は、魔法を習い出す10歳までに父親に叩き込まれたので、お手の物だ。

 剣ほど自信はないが……大丈夫だろう。

 ミケルがそんなことを考えているうちに、太陽は真上に到達した。

「なあんだ、怖じ気づいて来ないかと思ったのに」

 声に気づき振り向くと、少年が立っていた。

 今日はどこから現れたのだろうか?

 まぁ、それは大した問題ではない。

「へっ、オレ様が逃げるとでも思ったのかよ?」

「ん〜……それもそうかぁ。じゃぁ、始めよっか。ルールは……」

 少年はまた、空に浮き上がる。

 その微笑みは、少年の物ではなかった。

「どっちかが動かなくなるまで、ってか?」

「わかってるじゃん。いっくよ〜 土狼刃(ちろうじん)!」

 少年は相変わらず、短縮魔法だ。

 茶色い土気を帯びた刃が地面をはって向かってくる。

 一方ミケルは、土系に強い、風系の結界――緑真壁(りょくしんへき)を張る。

「まずは一つ目。大地に住みし土精よ、我が力となり矢になれ、黒糸矢(こくしや)!」

 呪文を唱えると同時に弓を引く。

 すると、無数の黒い矢が放たれた。

 後は目標に向かって勝手に飛んでくれるはずだ。

 狙いは、ピアスの青い飾り。

 少年は黒糸矢には気づかず、ミケルの結界を壊そうとしている。

「風の結界……なら、火炎弾(かえんだん)!」

 紅い火の塊がいくつも降ってくる。

「甘いぜっ! 霧に住みし水精よ我が力となり敵の攻撃を防げ、青海壁(せいかいへき)!」

 ミケルは短縮魔法を使わなかった。

 使えないわけでもないが、精霊達に嫌われるのを避けたためだ。

 紅い火の塊は青海壁に当たりジュッ という音を立てて消える。

 それとほぼ同時に、ミケルの放った黒糸矢が、少年のピアスの青い飾りを貫いた。

 飾りはミケルの予想通り、水でできていたらしく、泡玉となって四散した。

「おっしゃぁ!」

 ミケルは思わずガッツポーズを取った。

「うぁっ?!」

 少年の顔つきが、少し辛そうになる。

 だが、攻撃の手を止めようとはしなかった。

「くぅっ……雷撃刃(らいげきじん)!」

 黄色いバチバチと電気を帯びた刃が向かってくる。

 だが、先ほどより力は弱い。

 確かにあのピアスが、強化した元のようだった。

「雷か……なら、全てを凍らす白き刃よ我が力となり敵の攻撃を防げ、氷白壁(ひょうはくへき)!」

 白い冷気がミケルの周りを包むと、続いて二つ目の飾り――赤い方を狙う。

「霧に住みし水精よ我が力となり矢になれ、青糸矢(せいしや)!」

 再び弓を引くと、今度は青い矢が放たれる。

 今度の狙いは残った赤い飾りだ。

「いい加減、観念しやがれっ! 空に住みし風精よ我が力となり敵を捕らえろ、風縛浮(ふうばくふ)!」

 風が捕らえた……と思ったが、少年はそれを振り払いさらに上空へ飛び上がる。

 大きく息を吸い込むと、少年は声を張り上げた。

「うるさいっ、お前こそ観念しろよ! 火照刃(かしょうじん)、土狼刃!」

 少年は二種類の魔法を同時に放つ。

 だだをこねるように振り下ろされた少年の両手の先から、赤い炎の刃と茶色い土の刃が無数に飛び出した。

「やべっ……間に合わねぇ」

 水弓を手に持ち、杖をまだ脇に挟んだままのミケルに、二種類の魔法に対抗する結界を、張る時間はない。

 絶体絶命だ……と思ったその時だった。



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