少年の攻撃はミケルの目の前で何故か消えた。 よく目を凝らしてみると、青糸矢が赤い飾りを貫いたところだった。 少年の魔力に影響を与えていた物が消えたから、攻撃も消えたのであろう。 「うあぁぁぁぁっ!」 地面に落ちてくるのはあの少年……のハズだった。 しかし、落ちてきたのは年がミケルと同じくらいの青年。 持っていた杖からは翼の飾りが消えている。 これにはさすがのミケルも動揺した。 「どういうことだ? まぁピアスは消えたみてぇだし、とりあえずはいっか」 あたりを見回すと村の辺りから、霧が晴れていくのが見えた。 「一体どういうからくりなんだか。手がこんでんなぁ。黒幕はどこのどいつなんだか……相当な暇人だな」 少年の言動からして、無差別ではなくミケルとティナを狙ったようである。 何か裏にあるような気がして、ミケルは不機嫌そうに顔をしかめた。 色々考えていると、青年がぴくりと動いた。 「う……んっ」 「お、起きたか?」 「えっと……あの、ここは?」 何がどうなっているのやら、といった顔をされてはミケルも答えようがなかった。 どうやらこの青年。今までのことに関して、記憶がないようである。 それに、何故か言葉遣いも丁寧になっている。 ひとまず、安心させる為に名乗り出ることにした。 「オレはミケル。お前は?」 「僕は、アレスです」 「アレス……か。とにかく、詳しい話は村で聞かせてもらうぜ。移動魔法できるよな?」 コクン とアレスが頷いたのを確認すると、ミケルは得意な水系の移動魔法を唱えた。 一方アレスは風系の移動魔法を唱えている。どうやら、風系の魔法が得意らしかった。 + + + 村に着くと、ミケルは村長にアレスを紹介した。勿論、ただの魔法使いとだけ。 (話聞くのに、ティナも必要だな) そう思いミケルは、アレスを連れティナの部屋に向かう。 「おいティナ、起きて……るわけねぇか。起きろっ! 土網消したぞ!」 「ん……あと10分だけぇ……ふにぃ」 ティナは曖昧な返事をすると、寝返りをうつ。 人が苦労して戦ってきたというのに、どうしてこういう態度をとるのだろうか。 ミケルは断りも入れず、魔法を使った。 「地水火風全てを司り、その力を持つ光の精霊よ、今我が力となりかの者を眠りから覚ませ、輝光閃(きこうせん)!」 ティナの目の前だけに、光が走る。 後ろから様子を見ていたアレスは、止めに入ろうかとも思ったが、これが日常なのだろうと無理矢理自分に言い聞かせた。 「うあぁぁぁぁぁぁ!!」 水を掛けて起こされた時よりも大げさな反応なのは当然だろう。 耳を押さえていたミケルは、叫び声がやんだのだろうと判断すると、ティナに指を向けた。 「う・る・せ・え!!」 「だって……あれ?」 「客だ。さっさと起きやがれ!」 「お客?」 混乱することが多すぎてついていけないといえばそうだ。 だが、ミケルの後ろにいるアレスに気づくと、ティナはやっと目が覚めたようだった。 結んでなかった髪を結うと、ティナは椅子に座る。 「それで?」 ティナは座ると早速尋ねる。 見知らぬ青年は正面でにこやかに座っていた。 「初めまして。……アレスです」 アレスは一礼してさらに微笑んだ。 「どういうこと? ていうか、誰?」 「つまりな。あのガキ……山の魔法使いの正体なんだよ、コイツが」 「……」 (うそ、全然違うじゃん。大体丁寧語使ってる?!) ティナは言葉にできず、心の中で繰り返した。 声に出したいのも山々なのだが、それをミケルが許してくれない。 「ま、詳しいことは、これから聞くけどな」 ミケルが振り向くと、アレスはもう一度微笑み椅子に座る。 「勿論、そのつもりですよ。知っている限り、ですけど」 まずティナとミケルが簡単に自己紹介をした。 アレスは、じゃあ僕の番ですね、と言うと自分のことを語り始めた。 * * * 夢の中で、ティナはまたあの光景を見てしまっていた "なんだろう やっぱり私、何か忘れてるのかなぁ" "ティナ〜!" 火龍の声がすると、ぼんやりと映っていた光景は消えた "見ては駄目と、あれほど" "ゴメンね、火龍" ティナは、シュンとなる あまりに素直な反応に、火龍は自分も少し強く言いすぎてしまったかしら……と思ってしまう "えっと……そうだ、今日風の気配がしたけど、何かあったの?" 話題を変えてくれた火龍に、ティナは内心感謝した "風の気配……ああ、アレスね!" ティナは新たな友達を思い出し、声のトーンを上げる よほど楽しい話をしたのだろう "アレス?" 火龍は少し戸惑う "んと、霧の魔法を掛けてた張本人 私の予想通り、ピアスを壊したら元に戻ったの!" 火龍は声には出さず、相づちだけを打つ "で、そのアレスの守護が、風蛇なの" "そう……それで" 火龍はティナの話が止むまで、黙って相づちを打ちながら聞いていた back top next |
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