第3話 『守護の影』

 二人が話を聞き終わったのは、霧に阻まれぼやけてしか見えないが、日が山の間に落ちている頃だった。

「さてと、ティナさんミケルさん。今日は家に泊まっていって下さい」

 シアの母親は立ち上がりながら言った。

 にこやかに微笑んでいるため、思わずありがとうございますと言いかけた二人だったが、そこをぐっと押さえた。

「いいんですか?」

「はい。シアを助けて下さったお礼です」

 カップを片し、運ぼうとしているところをミケルは呼び止めた。

「でもよぉ」

「かまいませんよ。なんせこの村に、宿屋なんてありませんから」

 その返答に、二人は妙に納得した。

 そしてそのまま、シアの母親は、食事の支度をするために戻っていった。

「どうする? もうすぐ例の時間だよね。待つ?」

 聞いてきてはいるが、本人は待つ気が満々だ。

 ティナが大人しく座っていると言うことは、その現象にかなりの興味を示しているということなのだ。

「待とうぜ、せっかくだしな。……ガキどもが帰る頃だから、外から見えねぇここが良いだろ」

 母親でさえ、あれほど怯えるのだ。

 どんなものが出てくるかは知らないが、自分達の物を見て子供が怖がることを考えていたのだろう。

 なんだかんだで、子供に優しいミケルだった。

 + + +

 それから少しして、二人は相手の後ろの影に気がついた。

「ミケル! 後ろにうっすら影が……」

「あ? お前の後ろにも……その形は」

 ミケルが見たのは、一本の角を持つ龍の姿。

 ティナが見たのは、鋭く長い牙と長い尾を持つ虎の姿だった。

「ミケルの守護って水虎?」 「お前の守護は火龍なのか?」

 二人は同時に頷いた。

 ティナは水難よけを持っていたし、ミケルは風難よけをしていたので、お互いの属性は知っていたが、何かまでは知らなかった。

 二人ともしばらく黙る。

「これって……霧の影響かな?」

「そうとしか考えらんねぇだろ。おそらく守護達が何らかの危機を察知して、霧の力の強まる時間に影だけを外に出す、ってとこじゃねぇの?」

 守護達までもが不安がるこの霧の力は何のために放たれたのか、何のためにこの村を包んでいるのか、と二人の心の内に気がかりなことはたくさんあった。

 だが、この日は夕食を頂くと二人ともさっさと寝てしまった。


 * * *


 夜、ティナは夢の中で火龍から忠告を聞いた

"いい? ティナ。あの霧に深く関わっては駄目"

 ティナは火龍が珍しく焦っていたので、不思議に思い聞き返した

"どうして? ミケルと二人で謎を解こう! って決めたんだよ?"

"あまり詳しくは言えないけど、あの気配はきっと……"

 火龍は後の方を言いにくそうにしていた

 何かを伝えたい でもまだ、それを口にすることはできない そんな状態だった

"これだけは言っておきます あの霧の中の獣は、人々の思念が作り出したものなんですよ"

"え? だってミケルが召喚獣だって"

 火龍があまりにキッパリと言い切ったため、ティナは驚いた

"でも、思念なんです 形を作っているのは何らかの魔法ですが……"

"わかった、気をつけるよ"

 ティナは火龍から離れた

"気をつけてね"

 辺りが明かりに包まれると、ティナは火龍に向かって笑顔で大きく手を振った


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