二人が話を聞き終わったのは、霧に阻まれぼやけてしか見えないが、日が山の間に落ちている頃だった。 「さてと、ティナさんミケルさん。今日は家に泊まっていって下さい」 シアの母親は立ち上がりながら言った。 にこやかに微笑んでいるため、思わずありがとうございますと言いかけた二人だったが、そこをぐっと押さえた。 「いいんですか?」 「はい。シアを助けて下さったお礼です」 カップを片し、運ぼうとしているところをミケルは呼び止めた。 「でもよぉ」 「かまいませんよ。なんせこの村に、宿屋なんてありませんから」 その返答に、二人は妙に納得した。 そしてそのまま、シアの母親は、食事の支度をするために戻っていった。 「どうする? もうすぐ例の時間だよね。待つ?」 聞いてきてはいるが、本人は待つ気が満々だ。 ティナが大人しく座っていると言うことは、その現象にかなりの興味を示しているということなのだ。 「待とうぜ、せっかくだしな。……ガキどもが帰る頃だから、外から見えねぇここが良いだろ」 母親でさえ、あれほど怯えるのだ。 どんなものが出てくるかは知らないが、自分達の物を見て子供が怖がることを考えていたのだろう。 なんだかんだで、子供に優しいミケルだった。 + + + それから少しして、二人は相手の後ろの影に気がついた。 「ミケル! 後ろにうっすら影が……」 「あ? お前の後ろにも……その形は」 ミケルが見たのは、一本の角を持つ龍の姿。 ティナが見たのは、鋭く長い牙と長い尾を持つ虎の姿だった。 「ミケルの守護って水虎?」 「お前の守護は火龍なのか?」 二人は同時に頷いた。 ティナは水難よけを持っていたし、ミケルは風難よけをしていたので、お互いの属性は知っていたが、何かまでは知らなかった。 二人ともしばらく黙る。 「これって……霧の影響かな?」 「そうとしか考えらんねぇだろ。おそらく守護達が何らかの危機を察知して、霧の力の強まる時間に影だけを外に出す、ってとこじゃねぇの?」 守護達までもが不安がるこの霧の力は何のために放たれたのか、何のためにこの村を包んでいるのか、と二人の心の内に気がかりなことはたくさんあった。 だが、この日は夕食を頂くと二人ともさっさと寝てしまった。 * * * 夜、ティナは夢の中で火龍から忠告を聞いた "いい? ティナ。あの霧に深く関わっては駄目" ティナは火龍が珍しく焦っていたので、不思議に思い聞き返した "どうして? ミケルと二人で謎を解こう! って決めたんだよ?" "あまり詳しくは言えないけど、あの気配はきっと……" 火龍は後の方を言いにくそうにしていた 何かを伝えたい でもまだ、それを口にすることはできない そんな状態だった "これだけは言っておきます あの霧の中の獣は、人々の思念が作り出したものなんですよ" "え? だってミケルが召喚獣だって" 火龍があまりにキッパリと言い切ったため、ティナは驚いた "でも、思念なんです 形を作っているのは何らかの魔法ですが……" "わかった、気をつけるよ" ティナは火龍から離れた "気をつけてね" 辺りが明かりに包まれると、ティナは火龍に向かって笑顔で大きく手を振った back top next |
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