第5話 『導かれるままに……』

 翌日

 ティナは胸騒ぎがして、いつもより早く目を覚ました。

 着替えをすませ、剣を背中に掛けるとミケルの部屋に向かう。

 ミケルの部屋のドアを開けようとすると、ドアが勝手に開いた。

「おわっと……何だ、ティナか。丁度良かった」

 ミケルもティナと同じ何かを感じたのか、顔つきが違う。

「何だと思う?」

 ティナが先に口を開く。

「さぁ? 外に出てみっか」

「うん」

 二人はなるべく音を立てないようにして下に下りると、庭に出る。

「一体何が……あっ!」

 良く目を凝らして見た先に、水狼が現れた。

「なっ、なんで結界の中に?」

 ティナはパニックに陥りそうになる。

「オレが知るかっ!」

 冷静を装っているミケルも、内心慌てていた。

 水狼は唸り声のような低い声で、二人に語りかけてきた。

"気があるのならば、ついてきなさい"

 それだけ言うと、くるりと身体を反転し霧に向かって駆けて行く。

「どうするの? ミケル」

「どうするって? 迎えが来てんだ、行ってやろうじゃん!」

 いかにも楽しそうに駆け出すミケル。

 ティナは少し不安が残ったが、ついて行くことにした。


 + + +


 霧の中に入ったとたん、二人は水狼の姿を見失ってしまった。

 水狼が見あたらなかった訳は、すぐに魔法使いの元に向かったからだった。

「ご苦労、水狼。あとは僕がやる」

 水狼は嫌な予感が走った。

"まさか、人を殺める気では?"

 少年は微笑を浮かべる。

「やって欲しいの?」

"いいえ、とんでもないっ!"

「ふふっ……じゃぁ口出しするなよ。行くぞ!」

 水狼は、風の翼を作り木の間を跳んでいく少年を慌てて追った。


 + + +


 一方ティナ達はというと…

「何これぇ。来たときより霧が濃い〜!」

 喚いていた。

「近くで騒ぐなっ! 水精召喚すっから」

「わかったよぅ」

 ミケルは一呼吸おくと、杖を右手に持ち替え呪文を唱え出す。

「この霧に住みし水精よ、我が力となり姿を現せ……召喚!」

 また、一ヶ所に霧が集まり形を作っていくのかなぁ? とティナは思った。

 だが、今回は違った。集まっては行くものの、すぐに水滴は散ってしまう。

 ミケルは杖を持つ手に力を入れる。

「ちっ……霧の魔法強くしていやがる。大人しく、出てこいっ!」

 ミケルが声を大きくすると、答えが聞こえてきた。

"わかりましたぁ〜。出ますから、変な力、加えないで下さいぃ!"

 ポンッ と言う音と共に現れたのは、着物を着ている水精。

 だが今日は、泣きそうな顔をしていた。

「……どうして、すぐで出てこなかったんだ?」

 ミケルは怒りを抑え、問いかける。

 彼にとって一番召喚しやすいのが水精なのだ。

 いつもならば、元気よく飛び出してくるし、相性がいいため良く言うことを聞いてくれる。

"だってぇ。姿を出すなって"

「……」

"でも、我慢してたら変な力を加えるからぁ"

 とうとう水精は泣き出してしまった。

(つまり、この霧の魔法強化した奴が探れないようにしてたわけか)

 さすがにミケルは口に出しては言わなかった。

"っあの〜……それで、ご用は?"

 水精は袖で涙を拭きながら尋ねる。

「この霧の魔法強くした奴のとこに、案内してくれねぇか?」

"ええ〜!"

 驚きのあまりに水精は逃げだそうとした、がミケルの方が早く、土の鎖で縛られてしまう。

"離して下さい〜!"

 水精は逃げようと必死だ。

「んじゃぁ、案内してくれるか?」

 意地悪そうな笑みを浮かべ、ミケルは言い放つ。

 そして、しばしの沈黙が訪れる。

"うう〜わかりましたぁ。ついて来て下さいぃ"

 水精は観念したのか、二人の前を進み出した。

 ついていった先は、霧が晴れている、開けた場所だった。

「ここにいるの?」

 ティナはミケルの方を向く。

「オレに聞くなよ。水精がわざわざ案内してくれたんだぜ?」

「……そうだよね」

 二人が話しを一区切りしたところで、声が聞こえてきた。

「クスクス。ようこそ、招かれざる客達! よくここがわかったね」

「何処にいやがる!」

 ミケルの呼びかけに答えたのか、初めからそのつもりだったのかはわからないが、ティナ達の正面にある木の枝に姿を現した。


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