第6話 『水狼とティナの剣と』

 二人は魔法使いが少年とは思っていなかったため、言葉を失った。

 少年の外見は黒髪に茶色い目、灰色のマントと地味なのだが、右耳にしている赤と青の雫型のねじれたピアスだけが妙に目立った。

 持っている杖の水晶は球形だが横に翼の飾りがついている。

「テメェ……どこのどいつだっ!」

「僕? そんなの言うはずないじゃない。そういう君こそ誰なのさ」

 少年はさらりと受け流す。

 その言動からして、何か違和感が感じられた。

「……オレがすんなり言うはずねぇだろ。テメェ、オレらの会話聞いていやがったな」

 仕方なく、ミケルは話を変える。

「当たり前でしょ。あんな大きい声で言ってたら、聞きたくなくても聞こえるよぅ」

 ケタケタと笑いながら、いかにも子供らしい、しかし冷静な答え方をする。

 ミケルはその態度が気に入らなかった。

 そして、怒りを抑えきれず強硬手段をとることにした。

「このガキがっ! 力ずくでいくぞ。大地に住みし土精よ我が力となり敵を捕らえろ、土網!」

 大地から土の網が現れ、少年を捕らえようとする。

 だが、少年が杖を一振りすると霧が土網を押さえつけた。

「ここは、僕の作った場所だよ? 少し考えなよ」

 あくまで、少年は挑発し続ける。

「んだと……」

「ん〜つまんないなぁ。こっちからいくよ、氷柱撃(ひょうちゅうげき)!」

 少年の周りにあった霧が、氷でできた六角柱になり、次から次と飛んでくる。

「氷系の魔法だと?! 手加減してりゃぁ、いい気になりやがって。……全てを引き裂く黄色き刃よ我が力となり敵の攻撃を防げ、雷光壁(らいこうへき)! 人の力より生まれし火精よ我が力となり向かってくる氷を突き刺せ、火炎針(かえんしん)!」

 飛んでくる氷の柱に、炎に包まれた太い針が刺さり両方とも消える。

 火炎針の当たらなかった氷も、二人の周りを包む雷光壁に当たり割れていく。

「あははっ。なぁんだ、できるじゃん。水狼、お前も相手をしてあげれば?」

 少年はとても楽しそうだ。勿論水狼は、主人の命に従う。

 いつの間に追いついたのか、少年の足下に座り込んでいた。

"……わかりました"

 水狼は身震いすると、身体を霧に変えだす。

 そして、もう消えかけの雷光壁の外側から、二人を取り囲む。

「ミケル。私がいってもいい?」

 今までずっと黙っていたティナは、戦いたくて仕方がない。

 目が輝き、手をワキワキと動かしていた。

「別にかまわねぇけど……相手は水狼だぞ? お前、平気なのかよ」

「大丈夫、見てのお楽しみだって! じゃぁ、いくよぉ〜」

 背中の剣を抜くと、ティナは目を閉じた。

 ミケルは次に来るかもしれない魔法攻撃に備え、杖を構えた。

「……どうしようっていうの? 目を閉じたら何も見えないよ?」

 少年は高みの見物を決め込んだのか、背中に作った翼で飛んでいる。

「こうするの!」

 ティナは一息つくと、目を開けた。

 徐々にティナの剣を炎が包みだす。

 しまいには剣全体が燃えているようにも見えるようになった

 ティナは呼吸を整えると周りを囲っている霧に剣を突き立てた。

「えぇぇぇぇいっ!」

 すると、二人の周りの霧が一瞬で蒸発する。

「は?! ティナ、おま……お前何やった?」

 呆然とティナのやっていたことを見ていたミケルは、理解ができない。

「えっとね……とりあえず、水狼を倒した」

 けろりとティナは返してくる。

「は?」

 よく目を凝らしてみると、炎に包まれたティナの剣が霧から元の姿に戻った水狼の胸を貫いていた。

 その水狼の姿も、今は形を崩し顔だけとなっている。

"これ……まで……です……か……"

 水狼は最後の言葉を残し、消えていった。

「ティナ、お前それいつから使えたんだ?」

 ミケルの覚えている限り、ティナがこんな技を使ったことはない。

「ん〜いつだろう。……忘れちゃった」

 ぺろりと舌を出したティナは、とぼける…というより本当に忘れているようだった。

 もしかすると、会う前から使えたのかもしれない。

「オイ。……でも、それは魔法じゃねぇよな」

「うん。多分ね」

 確かに、魔法の気配がしないので聞くまでもない。

 おそらく、生まれつきできる剣義の一種と考えるしかない。

 ティナのことだからこの他にもあるのかもしれない…などと思いながら、ミケルは上空の少年に目を向けた。

 少年の方は水狼があっさりと倒されたことにかなりショックを受けているようだ。

「…もう怒った。…真空刃!」

 少年は小さな声で魔法を唱えたため、ミケルが気づいたのは、魔法が放たれた後だった。

「間に合わねぇ! ティナ、伏せ……」

 ミケルが言葉を最後まで言いきれなかったのは、ティナが前に立ち剣を構えたからだ。

「なにやってんだよっ! あぶ……」

「てぇぇ〜いっ!」

「…は?」

 ミケルは目の前の光景を疑った。

 ティナが風の刃の中でも特殊で、透明な真空刃を炎に包まれた剣で切り払っていたからだ。

「ちょっとぉ……何ボーっとしてるのよ、ミケル! こんなんでもつはずないんだから」

 攻撃の合間に後ろを振り返りながらティナは言う。

 そんな余裕があるのだから、まだ平気だろうと、ミケルが思ったのは言うまでもない。

「そうだな。……人の力より生まれし火精よ我が力となり敵からの攻撃を防げ、火炎壁(かえんへき)!」

 二人は、結界の中心で相談を始めた。

 いくら、風系に強い火系の結界でも、連続で攻撃されているため時々ギシギシと揺れる。

「それで……どうする?」

 ティナは先ほどの炎の剣を使ったせいか、かなり息が荒い。

 どうすると言われて、すぐに返せるようないい戦略を、ミケルは持ち合わせていなかった。


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