どうすると言われて、すぐに返せるようないい戦略を、ミケルは持ち合わせていなかった。 それに、二人とも、相手が子供だということで、応戦の仕方に困っている。 「……ミケル。援護できる?」 ミケルはティナが意外なことを言うので、変に思った。 「出来ねぇわけはねぇけど。オイ、そんな身体で何すんだよ」 「何するって……あの変なピアスを壊そうと」 「……は?」 ミケルは納得がいかないし、わからない。それに、ここで何故あのピアスが出てくるかもだ。 「あれが、なんかしらの元凶だと思うんだ」 「根拠は?」 「ない。でも、嫌な感じがするの、あれ。……だから、壊す」 ミケルはしばし考え込んだ。剣士の勘を、信じるべきか否か。 「で、そうなると、あそこまで行くには魔法を使わないと…」 少年は空の上、確かにミケルの魔法だけがたよりだ。 (賭けてみても……いいか) しかし、少し分の悪い賭とも思ってはいた。 ミケルはティナに聞こえないように、ため息を一つつくと、立ち上がった。 後から思うと、少々甘く見すぎていたのかもしれない。 「気をつけろよ。……空に住みし風精よ、我が力となり仲間の背に翼を作れ、風翔翼(ふうしょうよく)!」 ミケルが唱え終わると、ティナの背中に透き通った翠色の翼が一対現れた。 「ありがとう。……でも、これどうするの?」 「念じるんだよ、心の中で飛べってな」 「わかった」 ティナは少々困ったが、タイミングを計り結界の外に出ると言葉に従った。 一瞬浮遊感を感じた後、ティナの身体は宙に浮いた。 「よっしゃぁ、そのまま突っ込め!!」 「おっけぃ!」 一度感覚をつかめば思った方向に飛ぶのは簡単だった。 そしてティナは少年に一直線に向かっていった。 「クスッ……バーカ」 少年は小声で何かの魔法を呟いたが、ティナには聞こえなかった。 「えぇぇぇいっ!!!」 ティナが大きく剣を振り切った先に少年の姿はなかった。 まるで一瞬のうちにその場から姿をくらましたのだ。 驚いて宙で止まると、そこへ狙ったかのように氷の柱が飛んでくる。 「な゛っ」 声を上げたのは、ティナだったかミケルだったのか。 それはティナの腹に突き刺さっては消えてゆく。 冷たく光を跳ね返す氷の柱は真っ白で、対照的な赤がじわじわとティナの白い半袖を染め上げていく。 ティナが宙でバランスを崩すと、傷口から紅い華が舞い散った。 失血からなのか、痛みからなのか、そのまま気を失い地面に向かって落ちてくる。 もちろん翼は、ティナの意識が消えると同時に影も形もなくなっていた。 「テイナっ! まずい。霧に住みし水せ……」 ミケルはいつも通り、水系の魔法を使おうとしてはたと気がつく。 (この霧を作ったのはあのガキ。じゃぁ、今は邪魔される可能性が高い。くそっ) 仕方なく得意の水系ではなく、風系の魔法に変更した。 「空に住みし風精よ、我が力となり仲間を浮かせろ、風縛浮(ふうばくふ)!」 風でできた糸のような物が可視状態になり、ティナを包み込むと、落下の速度が落ちた。 魔法が成功したのを確認すると、ミケルはティナの方へ走った。 すでにティナの服は、下からでもハッキリと分かるほど、紅に染まっていた。 ティナの落下地点まであと少しという所で、ミケルは少年に行く手を阻まれた。 「そこを、どきやがれっ!」 かなりまずい状態だと言うことを理解したミケルは、鬼のような形相で睨み付ける。 「やだね。大体何でそんなに必死になるかなぁ?」 少年は不思議そうに笑いながら、ミケルの顔を上から覗いた。 魔法でも使っているのか、相変わらず宙に浮いたままである。 「テメェ……普通は仲間のことを心配するモンだろ!」 「そうなの? まぁいいけどさぁ、そこから動いたら君の負けだよ」 「な……んだとっ?」 冷静に戻り、周りを見ると、いつの間に呼んだのか氷の柱に囲まれていた。 数は先程ティナを襲った物より多い。呪文を省略した魔法を使っても、防ぎきれるという保証はない。 「このガキ……」 ミケルは手の出しようがなかった。 おそらく動いて避ければ再び戦闘になる。そうなると、ティナの身体が保つかはわからない。 ギリギリと、奥歯を噛みしめて耐えるしかなかった。 「……取引……じゃなくて、勝負をしようよ。明日、太陽が真上に来る時この山の頂上で」 少年の意外な発言にミケルは戸惑った。 今まで随分と好戦的だった相手が、突如意見を変えてきたのだ。無理もない。 「へっ。どういうつもりかは、しんねぇけど……ヤダ、と言ったらどうするよ?」 「そんなのわかってるでしょ? ミケル君」 ミケルの予想通りの答えだった。しかし、戸惑いも覚える。 (何でコイツオレの名前を知って……) 「どうする? このままじゃ、ティナも危ないよねぇ?」 どうやら、両者の名前は知られているらしい。それを問いただしたかったが、今はそれどころではない。 相手の真意がつかめないが、ここは引くわけにはいかなかった。 「ふん。受けてやるぜ。だが、もしオレが勝ったらどうするよ?」 「う〜ん。じゃぁ、この霧を消してあげるよ。約束だよ、明日の太陽が真上に来る時間に……」 そう言い残すと、少年はミケルの目の前から意味ありげな笑みを浮かべながら姿を消した。 それをボーっと見ていたミケルは、慌てて我に返る。 「ティナっ無事かっ!」 少しずつ出血していたとはいえ、かなりの広範囲の傷。失血量はかなりのものだろう。 顔は完全に青ざめ、脈を診ると少し弱い気がする。 「マズいな……霧に住みし水精と空に住みし風精よ、我が力となりかの者の傷を癒せ、水風療!」 青と緑の薄い膜がティナの身体を大きな両手の平で包むようにやさしく包む。 僅かな余韻が辺りに広がった。 ミケルは腹の傷に気をつけながらティナを肩に担ぐと、杖を持ち直し移動魔法を唱えた。 「地水火風全てを司り、その力を持つ光の精霊よ今我が力となりかの村へ運べ、移光包!!」 光が二人を包み込むと大地から足が離れる。ミケルは光に対抗すべく目を閉じた。 ミケルが目を開けたとき、そこはちゃんとシアの村の入口だった。 back top next |
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