「よっしゃぁ、成功!」 何故か、村に人の気配がなかった。 ミケルは、そんなことは気にせず村長(シア)の家に向かった。 ティナをベッドに寝かせ、家の中を捜索する。 「お〜い……誰もいねぇのかよ」 一階にも二階にも、人の気配はない。 ミケルの呼びかけは、廊下に空しく響くだけだった。 本来ならば人の家なので勝手にいじるわけにもいかないが、場合が場合なため、薬箱と思しき物を探し、引き出しを片っ端から開けて回った。 + + + 今朝、朝食を頂いた居間の隣の部屋で、ようやく目的の物は見つかった。 「……おっ、あったあった。勝手に借りるぞ、包帯」 ミケルはその中から、綺麗な物を数個選ぶと、部屋に戻る。 そして再び"水風療"をティナの傷にかけると一息ついた。 「これで、大分塞がったか。……包帯はさすがにオレ様が巻くわけにいかねぇか」 自分で巻くことはできるのだが、一応性別が違うという点を配慮して、ミケルはしばし押し黙った。 「……霧に住みし水精と、空に住みし風精よ、我が力となり姿を現せ、召喚」 結論は、精霊に任せるということだった。 ミケルの目の前に緑の長い髪の風精と海色で短い髪の水精が現れる。 「水精、風精よぉ、傷は塞いだんだが、包帯をオレが巻くわけにいかねぇんだ。わりぃがオレの代わりに、やってくれねぇか?」 二人の精霊はすぐに返事をくれた。 "それがあなたの望みなら" "やるぅ〜手伝う〜♪" 丁寧かつ冷静に答えたのが、風精。元気に言ったのが水精だ。 「じゃぁ、頼んだぜ」 "はい" "了解!!" ミケルは二人が返事をしたのを確認すると、下に降り庭を抜け、外に出た。 幾分か傷を貰ったのだが、ティナに比べれば軽傷も良い所だ。 常に身につけているマントがない分いくらか背中が寂しかったが、仕方がない。 「あとは村の連中が何処に行ったか……だな」 ミケルは、杖を片手に村の中を歩き出した。 時折首をならしながら歩きつつ、家々を覗いてみる。 庭のテーブルに飲みかけの紅茶やお菓子がある家。水が流れっぱなしの台所。挙げ句の果てに、家の扉が開いている所もある。 広場にもやはり人影が無く、ミケルは呆れてしまった。 「……でだ、なにかなー? 人の背後で武器を持ってる、と」 背後にいた男は、クワのような物を振り下ろしてきたが、すでに防御魔法を張っていたミケルには届かなかった。 「な゛に゛い゛……」 「おーおー、元気なこって。ったく、ティナの首突っ込むことは、毎回なんかあるな。わりぃなおっちゃん、ちょっと我慢してくれよ」 ミケルが空気の固まりを相手の鳩尾に打ち込むと、男は気を失い前のめりに倒れた。 「……ったく。とりあえず、コイツをどうにかしなきゃな」 コイツとは、男の首筋につながっている半透明な緑色の糸。 これが操っていた大本で、どうやら風系の魔法らしい。 「……人の力より生まれし火精よ、我が力となりかの者に取り付きし糸を断ち切れ、炎解壁(えんかいへき)!」 炎が男を包み込むと、糸は少しばかり抵抗して燃え尽きた。 数分後、男は目を覚ました。 「こ、ここは……」 頭を押さえつつ起きあがった男は、何かあったのか? と言う顔をしている。 「オイ、おっさん。一応聞くが、何でオレを殺そうとしたんだ?」 男は"殺そうとした"と言う言葉に反応し、顔つきを変える。 何か思いだそうと記憶をたどっていたら、不意に何か思いだしたようだった。 「……変な声なら聞いたぞ」 「変な声だぁ?」 「ああ。"旅人を殺せ、水狼様のためだ"ってな。その後なんか変なモンに巻き付かれた気がして」 ミケルは男に聞こえないように小さく舌打ちをすると、言葉を続けた。 「気づいたらここにいたと?」 「そうだ、言っておくがワシは何もしらんぞ」 男の言い方からして、何も知らないのは一目瞭然だった。 ミケルは悪かったなとだけ言うと、家に帰ってもらった。 「あのガキ……はするわけねぇな。別か? くそっ」 村人の気配は相変わらずしない。 おそらく先ほどの男と一緒で、全員操られている可能性が高い。 「さっきみてぇに、一人一人はめんどくせぇな。……空に住みし風精よ我が力となり背に翼を作れ、風翔翼(ふうしょうよく)!」 翠色の翼が背に現れると、ミケルは地面を蹴った。 村のほぼ中央にある広場の上空にたどり着くと、早速魔法を唱え出す。 「人の力より生まれし火精よ、かの地から届きし風縛糸を全て燃やし尽くせ、火紅炎(かこうえん)!」 先程のようにぬるい手は使わず、強行突破の道にでた。 風魔法を解くのではなく、無理矢理壊す手である。 村の至る所からジワジワと紅い炎が昇ってくる。 ミケルの目の前に炎の固まりができると、再び呪文を唱えた。 「空に住みし風精よ、我が力となりこの炎を操る者の元へ届けろ、吹風(すいふう)!」 大量の風と共に一瞬にして紅い炎は飛んでいく。 ミケルは続いて青い鳥を召喚すると、後を追わせた。 「これでどうにか正体がつかめりゃぁなぁ」 地面に降り立つと、霧に覆われている空を見上げミケルは呟いた。 back top next |
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