第3話 『船酔いは、だーれだ?』

 その後、海岸沿いの通りで食料など(ほとんどがお菓子類)を調達し港に向かった。

 港に停泊している船は様々な形だが、全部漁船だ。

 そんな光景をのんびり見ていると、最南の島 カロン島に向かう1日1便の船が、出航する直前の合図――鐘を一回鳴らした。

「あ〜っ! 間に合うかなぁ」

「間に合わせるに、決まってるだろ!」

 船は港の一番奥。

 三人は間に合わせようと、必死に走った。

 とにかく走った。これでもかというくらい走った。

 結果、出航の合図――二回鳴る鐘を船の中で聞く事ができたのだが、アレスが乗り込んだとたん、座り込んでしまった。

「――っぜぃぜぃ」

「アっアレス? 大丈夫?」

 ティナが心配そうに覗き込んだが、返事が返ってこない。

 荒い呼吸を繰り返すばかりである。

 しばらくの間、様子を見て、ミケルは声をかけた。

「生きてっか?」

「――は、はい。とっ……とりあえず、なんとか」

 やっと息が整ったのか、立ち上がった。

「アレス、体力無かったのか?」

「いいえ! 瞬発力に欠けるだけです! ……多分」

 認めたくないのか、本当なのか、本人は否定した。

 瞬発力に欠けるというならば、持久力はあるのだろうか?

 ミケルはにやりと笑った。

 よく知る者がそれを見ていれば、こう思ったろう――何かいいことを思いついたな、と。

「ねぇ二人とも。この船、どうやって動いてるの?」

 動き出した船を眺めていたティナが、よってきた。

 本人、船なんか初めてだと言っていたから、色々なことに興味津々なのだろう。

「船かぁ? 確か、風精と水精の力を借りてんだぜ」

「どうやって?」

「詳しくは、僕達も知りませんよ。船によって違う時もありますから。それに……」

 アレスが説明する横で、ミケルは変な気分に襲われていた。

 なんだろうか、浮遊感があるような、頭痛が少し混じっているような、とにかく変な感じである。

「あれ? ミケル、顔色が悪いよ」

 ミケルの異変に気づいたティナが、心配そうな顔をする。

 嫌な汗を流しながら、ミケルは答えた。

「そ、そうか?」

 それはまさに、どうにか普通でいようとしているように見えた。

「まさか! 船よ」

「んなワケあるかぁ! 断じてち……う゛、気持ち悪りぃ」

 ミケルはペタンと座り込んでしまった。

 完全に船酔いである。

 ティナはミケルには悪いと思ったが、思わず笑い出してしまった。

「ぷっ、フフッ……あははっ」

「なっ、何が、おかしいんだよっ」

「だってなんかさ……んと、つまり……」

 必死に笑いを抑えながら、目の端の涙をぬぐい、答える。

「ミケルにも、弱い物があったんだなぁって」

 ねっ。と、ティナはアレスの方を向いた。

「そうですね。ティナは平気なんですか?」

「うん。いろんなとこ見てくるね」

 答えると、ティナは船尾の方に走っていった。

「ティナのやつ……なんか、むかつくほど元気だな」

 ミケルはどうにか気を逸らそうと必死のようだ。

 気を逸らしても気持ち悪さは拭えず、変わらず蒼白な顔をしている。

「そうですか?」

 だが、短く答えるアレスと会話が続くことはなかった。

「……僕、少し寝ますね。何かあったら、起こして下さい。じゃぁ」

 アレスは、一方的に言うとミケルの横に座り、数秒と経たないうちに眠ってしまった。

「オレに起こさせる気かよ!」

 ミケルがこう言った時点で、既にアレスは夢の中にいた。





 + + +





 砂漠の砂のようにサラサラな大地と、青々とした茂みの狭間にアレスはいた

 ぺたぺたと自分の体を触ってみる

 おかしいところはない と、いうことは……

"ここは確か"

 一陣の風と共に目の前に白い蛇が現れた

 額に小さな角を持ち、真緑の瞳、真っ黒な悪魔の翼、風をまとった蛇――風蛇である

"よォ、やっと来れるようになったかァ!"

"あ、やっぱり お久しぶりです、風蛇"

 アレスは、自分の目線より少し上の風蛇に笑いかけてから、頭を下げた

"お前ェ……相変わらずだなァ"

 赤い舌を出して、風蛇は笑う

"え? そうですか?"

"まあ、いいさァ"

 風蛇は見上げられるのが嫌だったのか、今までいた宙から地面すれすれの位置に下りた

 アレスはそれにあわせ腰を下ろす

"風蛇、やっと……ということは、どういうことですか?"

 風蛇が目を少し細めた

"いやなァ、一時期外の気配が探れない事がァあったんだよォ"

"それって、もしかして"

 アレスが、あのピアスの……と言いかけると

"もしかしなくてもォあのピアスの所為だァ!"

 風蛇はアレスの言葉を遮り、怒鳴って答えた

"まぁ、良いじゃないですか また、こうして会えたんですから"

"それも、そォだなァ"

 風蛇が落ち着いたところで、二人は出会えなかった間の事を話し合った

 この中(夢の中)の時間で数時間経った頃、アレスはふいにミケルの声を聞いた

――……アレ……起き……よ!

"え?!"

"どォしたァ?"

 いきなり驚いた声を出したので、変に思ったのだろう

"今……ミケルの声が"

 再び辺りを見渡すと、今度はハッキリ聞こえた

――おい、アレス! 起きろよっ!

 これは、風蛇にもハッキリと聞こえたようで赤い舌をチロチロさせている

"なんかァあったっぽいなァ"

"そうみたいですね 僕、戻ります"

 アレスは、腰を上げた

 その背を風蛇は愉快そうに微笑んで見送った





 + + +





 一方現実世界で何が起きていたかというと……


 アレスが寝入ってしまい、ミケルもウトウトしかけた頃、ティナが慌てて走ってきた。

「ミケル〜大変だよ〜!」

「んだよっ! 人が寝ようとしてんのに!」

 寝かけだったミケルは、少々不機嫌である。

 そんなことはお構いなしに、ティナはミケルの肩をつかむとガクガクと揺さぶった。

「とにかく、大変なの〜!」

「だから、な・に・が!」

「海賊が来たの!」

 その言葉に、ミケルは船酔いと眠気が一瞬にして吹き飛んだ。

 海賊……つまりは、この船の金目の物を狙ってきたわけで……

「どういうことだ?」

「わかんない。でも、変な船が近づいてきて、向こうにのってた人たちが飛び乗ってきて……どうしよう〜」

 ティナはかなり動揺している。

 そんな姿もちょっぴり珍しい。いや、今はそう言う場合ではなかった。

「とりあえず、アレスを起こす」

「う、うん」

 ティナは心配がたくさんあったが、ミケルの判断に任せることにした。

「アレス、起きろ! 大変なことになった」

 呼びかけてみたが、返事がない。

「おい、アレス! 起きろよ!」

 ミケルが肩をガクガク揺さぶると、アレスは目を開けた。

「どうしたんですかぁ? いきなり……ふわぁ」

 アレスは目を擦りつつ立ち上がると、大きく伸びをした。

「んな、悠長な事言ってる場合じゃねぇんだよっ!」

「海賊が来たの〜船が止まったの〜!」

「……そんな事で、起こさないで下さい」

 半分頭が寝ているのか、アレスは再び座ろうとした。

 そこをすかさずミケルは捕まえ肩を揺する。

「そんな事って、重要だろぉがぁぁ!」

「第一この船に金目の物なんて……あ゛っ」

 アレスは自分の持っている魔法水晶(マジッククリスタル)を思い出し青くなった。

 こればかりは、とられるとまずい。

 その時、ふいにティナが背中の剣を抜いた。

「わかったなら、行くよ二人とも。前から来るっ!」

「よっしゃぁ! ひと暴れすっか」

 ミケルは退屈しのぎができるぜ、とノリノリである。

「船を壊さない程度にしてくださいよ」

 ようやく頭のもやが取れたアレスが、最後におまけとばかりに注意したのだった。


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