第4話 『船上戦〜紫の髑髏はお好きですか?〜』

 幸か不幸か他の乗客はいない。

 一番初めに攻撃したのは、言うまでもなくミケルだった。

「海に住みし水精よ、我が力となり敵を捕らえろ、水網(みずあみ)!」

 透き通った青――水でできた網が向かってくる海賊達の足元に現れた。

 ミケルの考えは、足を引っかけること。

 だが、海賊達は一瞬何かに足を取られたようになっただけだった。

「な゛っ」

「ミケル考えて下さい。相手は海賊です。水難対策はしているはずです!」

 ティナに防御魔法を張り終えたアレスが、海賊という言葉を妙に強調して言った。

 海賊が魔法を使えるかどうかは、ともかく水に対しての抵抗力はあるはずである。

「わかってらぁ! 大地に住みし土精よ、我が力となり敵を捕らえろ、土網!」

 大地から遠い海の上なのに、ミケルは土系魔法を使った。

 勿論、土系に関しては何もしていない海賊達は、あっさり捕まった。

 諦める者もいれば、抜け出そうともがいている者もいる。

 そんな海賊達に、アレスは笑顔で攻撃を加えた。

「少し大人しくしていて下さいね。空に住みし風精よ、我が助けとなり相手を気絶させちゃって下さい、真風弾(しんふうだん)!」

 この時、ティナとミケルが海賊達に同情したのは言うまでもない。

 かわいそうに、動けない海賊達は、鳩尾に空気の塊を次々と当てられ、バタバタと倒れた。

「とりあえず、ここにおいといて向こうに行こう!」

「ああ」「はい」



 + + +



 三人が船尾の方に行くと、船長を含む船員達が捕まっていた。

 よく見ると、縛っている縄は普通の縄ではなく何らかの魔法のようである。

 どうやら、少しは頭の切れる人物がいるようだ。

「何だ、テメェらっ!」

 右手に眼帯をし先の丸まったひげを持つ、紺色の髪をした人物が叫んだ。

 おそらく、海賊のボスだろう。だが、三人はその人物に気づかなかった。

「何あれ」

 ティナが海賊の船を指した。

「あれって……どれですか?」

 ティナの指す先には、緑地の布に紫で描かれた髑髏。

 よくよく考えてみれば、先程の海賊の下っ端達も、紫の髑髏模様を洋服につけていた。

 ……ボスの趣味だろうか?

「ああ、あれか。旗だろ?」

「センス悪い」

 ティナはキッパリと言い切った。

「まあ、海賊だしな」

「てめぇら、黙ってりゃぁ、言いたい放題言いやがって!」

 三人に無視されたためか、はたまた旗をバカにされたのが頭にきたのか、ボスはいきなり襲ってきた。

 大きな体の割には、俊敏な動きである。

「覚悟しやがれぇ!」

 だが、まだ甘い。

 振りかざしてきた剣を、ティナは軽々受け止めた。

「ふ〜ん。ちょっとは手応えがありそう」

 ティナはボスの剣を払いのけ楽しそうにしている。

 最近は山賊に会うこともなく、平凡だったためか、戦いとなると燃えるのかもしれない。

「ミケル、今のうちに魔法を解いてしまわな」

 アレスが言いかけた時、既にミケルが動いていた。

「お前も働けよ、アレス!」

「わかってますよ」

 アレスはティナに声をかけようと思ったが、既にボスと押し合いを始めていたので諦めた。

「大地に住みし土精よ、我が力となりかの者達の縄を解け、黒解波(こくかいは)!」

 船員達の縄は見たとたん水系とわかったので、ミケルはまた土系魔法を使った。

 その間にアレスは残った海賊達をひとまとめにしている。

 先ほどと同じく風の縄で縛り、真風弾を打ち込んで――だが。

「流石ですね。大地から遠いのに」

 海の上で一度ならず二度目の土系魔法を使うミケルを見て、アレスは感心している。

 それを、自然のことだともいいたげに、ミケルが返事を返した。

「それより、問題はあいつだ」

 二人はティナと退治しているボスの方を見た。

 金属音が、リズム良く響く。

「ええ、捕らえた全員魔法は使えません」

「ったく、ティナの行く先々は騒動だらけだぜ」

 ティナと剣の力は互角、あとは魔力がどれだけあるかが問題だった。

 ボスは自分より小柄で華奢なティナに押され、ムキになっている。

「こしゃくなっ! はぁぁぁっ!」

 ボスが口の中で何か呪文を唱え、剣を振ると、水の刃が現れティナに襲いかかった。

 風や土の刃ならともかく水の刃、ティナの力は火……なのでたちうちできない。

「二人とも! これ以上は!」

 さすがのティナも学習したのか、剣をひいた。

「わかった、交代だ。アレス!」

「ミケル一人で平気でしょう?」

 振り向いたミケルにアレスは顔一面の笑みで返した。

 それはきっと嫌みも含まれている。

 やはり、寝起きにあれだけの運動を強いたからだろうか。

 ミケルは……仕方なくしたがった。

「ったく。良いか、おっさん! 俺は手加減しねぇからな」

 半ば八つ当たりに近い宣戦布告をした。

「ふん、若僧めぇ……これでもくらえっ!!」

 再び水の刃が現れたが、防御魔法を張ってあるミケルには当たらず、手前で霧散する。

 自分の水の刃が消えたことで、コイツはできると思ったのかボスは一歩後に引いた。

「へっ口ほどにもねぇじゃねぇか!」

 自信満々の笑みを浮かべているミケル。

「調子に乗りだしてますね」

 アレスはミケルの様子を冷静に分析している。

「あれでいいの?」

「さぁて、良いんじゃないでしょうか」

「いつものミケルだもんね」

 こちらはくつろぎモード全開の二人。

 ミケルからは大体2mほど離れている。

 要は安全圏。船が壊れないことを祈るばかりである。

「他に、技ねぇのかよおっさん」

 水の刃しかつかえないとふんでミケルは挑発する。

「ぬぅぅぅ、ならば……来い、氷天(ひてん)!」

 ボスが呼ぶと、海賊船の方から一羽の白い鳥が飛んできた。


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