第5話 『後かたづけ』

 飛んできた鳥は、白いとはいえ翼の先は青。水色の尾は長く、体長の二倍はあるだろう。

 額には水晶と思われる宝石がついている。

 氷天と呼ばれたその鳥はボスの差し出した腕に乗った。

「鳥なんか呼んで、どうすんだよ」

 鳥一羽増えたところで戦局が変わるはずがない、とミケルは笑った。

「はっはっは、テメェにゃわかんねぇだろうな。若僧めぇ」

「なにぃ」

 ミケルは杖を持っている手に力を入れた。

「氷天! やれっ!」

"クアッ"

 ボスが指示を出すと、氷天が目の前から消えた。

 いや、消えたのではない。素早く移動しただけである。

 上空から白い羽根が降ってきたかと思うと、ピシッ という音と共にミケルの足元が凍りつく。

「ゲッ! 何だよこれ」

「驚いてないで、氷を溶かさないと」

 アレスが呆れつつ口を挟んだ。

「わ〜てるよ、外野は黙ってろ。人の力より生まれし火精よ、我が力となり足元の氷を溶かせ、火紅炎(かこうえん)!」

 紅い炎が足元の氷を溶かすと、ミケルは杖を構え直した。

「氷の鳥か。全てを引き裂く黄色き刃よ、我が力となり敵からの攻撃を防げ、雷光壁(らいこうへき)!」

 氷天は再びミケルを凍らそうと羽根を飛ばしたが、ミケルを覆った雷の壁に阻まれ目的を達成できなかった。

「そこか! 敵を捕らえろ、雷包布(らいほうふ)!」

 ミケルは逃げられる前にと、短縮魔法を使った。

 バチバチッ という音と共に黄色い網が氷天にかぶさる。

"クアックアアッ!!"

 氷天は逃げだそうとするたびに雷撃を受け、苦しそうに藻掻いている。

「くっ……氷天!」

 ボスは剣で雷包布を壊そうとするが、とうていかなわない。

「もういいだろ? 大地に住みし土精よ、我が力となり敵を縛れ、地鎖(ちぐさり)!」

 光がボスを取り囲んだかと思うと、茶色い鎖に変わった。

「うお?!」

「よしっと。ティナ、オレの荷物を取ってきてくれ!」

「え? ああ、ちょっと待ってて」

 ティナは荷物を取りに走っていき、すぐ戻ってきた。

 ミケルの意図することが分かったらしい。

 ティナは笑いながら、荷物全部ではなく、魔法粉などが入った袋だけを持ってきて投げた。

「おお、サンキュ」

 荷物から取り出す手間が省けたので、目的の粉をすぐに出せた。

「くそっ! 離しやがれ!」

 力で魔法を破れるはずがないのにボスは必死になっている。

「うるせぇよ。ほら、これでも吸っとけ!」

 フワッ と風に乗り眠り粉は大量にボスにかかった。

 抵抗していて反応に遅れたボスは、全て吸い込み数秒で寝てしまった。

"クアー! クアックアッ!!"

 主人であるボスが倒れたので、氷天が叫んでいる。

「お前はこれなんか、効かねぇか」

「はい。そこまでです」

「な゛っ、何だよ、アレス」

 ノリに乗ったミケルが氷天も眠らそうとした時、アレスが割り込んできた。

「二人だけに言いとこ捕りされたくありませんから」

「ってお前さっき、一人で平気でしょ? とか言わなかったか?」

「何のことですか?」

 殺気の出ている満面の笑み……これに逆らうと、何が起きるかわからない。

「わ〜ったよ。だけど、コイツだけはやらせろ」

「わかりました」

 アレスは以外にもあっさり引き下がった。

「海に住みし水精よ、我が力となり敵を眠らせろ、水泡眠(すいほうみん)!」

 夢の中で、ミケルが水虎にやられた技である。

 一度見ただけでできるミケルの技量も凄いものだ。

 氷天は主人が寝ているため、簡単に寝てしまった。

「じゃぁ、いきますよ。空に住みし風精よ、我が助けとなり縛られし者をあの船に集めて下さい……特大、風巻竜(かざまきりゅう)!」

 竜巻が海賊達を飲み込み船へ運んだ。

 わざわざ手を使わずに、相手を押し返したのである。

「で、どうするんだ? あれ」

「どうしましょう」

 アレスは何も考えていなかったようだ。

「おい!」

「大陸に追い返すのは?」

 今まで黙っていたティナが、一つの案をあげた。

「ああ、それでいきましょう。空に住みし風精と海に住みし水精よ、我が助けとなり姿を現して下さい、召喚!」

"はいは〜い。な〜に?"

 水の泡から元気に現れたのが、海色の髪をした水精。

 相変わらず元気いっぱいといった所である。

"お呼びでしょうか"

 フワッ と緑色の髪を揺らし、丁寧に現れたのが風精だ。

 対照的に、微笑むだけであった。

「あの船を、シグス国 アシュレの港まで届けて下さい」

 アレスが用件を簡潔に言うと、水精が不満そうな声を上げた。

"それだけぇ〜?"

「それなら……港の人達に伝言をお願いします。"海賊を捕らえました"と」

 本当はそこまでするつもりの無かったアレスだが精霊達の好意を受けることにした。

"わかりました、必ず伝えます"

"よ〜し、いっくよ〜"

 水精は海の方から、風精は上空から船に魔法をかけ、アシュレの方に向かっていった。

「これで、カロン島に行けるね!」

 剣をしまい、ティナは伸びをした。

「ああ、さっさと出発しようぜ、船長!」

 ミケルが言うのとほぼ同時に船は動き出した。

「……ミケル。船酔いはもう平気なんですか?」

「そういえば、そうだね〜」

 次の瞬間、ミケルの顔色が変わった。

「バカやろぅ、人がせっかく忘れてたのにっ! 思い出したら、気持ちわるく…う゛…」

 ドサリッと音を立てて、ミケルは、二人の目の前で倒れた。

「あっ、倒れた」

「ミケル、こんな所で倒れてしまうと邪魔に……なりませんね」

 アレスは乗客が自分達以外にいないことを思い出した。

「まぁ、放っておきましょう、静かですし」

「ん〜わかった」

 アレスは、ティナに断りを入れ再び眠りについた。

 ティナはカロン島につくまで、ボーっと海を眺めていた。


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