第6話 『到着と休息』

 空が茜色に染まり、太陽が海に沈みかけた頃。

 船はようやくカロン島の港に着いた。

「ミケル、アレス、島に着いたよ!」

 アレスと船の揺れで、アレスの所に転がっているミケルにティナが声をかけた。

「起きて、起きて〜」

「んっ……もう、つきましたか?」

「うん。ミケル! いい加減おきなよ!」

 揺すってみても、起きる気配はなかった。

 どうしよう、としゃがんでいるティナは横に立っているアレスを見上げた。

「仕方ないですね」

 そう言いつつ、アレスの顔は何かを企んでいるようで笑っていた。

「海に住みし水精よ、我が助けとなりかの者に冷水を掛けちゃって下さい、極小降水!」

 前にミケルがティナに向けた技だった。

 どうやら、少しはやられる側の気持ちをわかれ! という意味が込められているらしい。

 ミケルは少しの間をおいて、反応した。

 ティナのように叫ぶことはなかったが、ものすごく不機嫌そうな顔である。

「〜っ冷てぇ!」

「あっ、起きた!」

「大丈夫ですか? 島に着きましたよ」

 アレスは何食わぬ顔で……むしろ、笑いかけながら言い放った。

「テメェ……アレス! 普通に起こせっ!」

 ティナとアレスは顔を合わせてから、ミケルの方を向いた。

「起こしたよ、私が普通に」

「この方法で前ティナを起こしたのは、ミケルだそうじゃないですか」

 ミケルはアレスの言葉に返答できなかった。

「それに、起きない方が悪いんです」

「悪かったな」

 半分ふてくされながら、ミケルは立ち上がった。

 三人はそれぞれの荷物を持つと、船を下りた。

 港の傍はすぐ町となっている。

 カロン島は昔から大陸と交流があったわけではない。

 朱珊瑚で50年ほど前――蒼瑠璃で言う1106年頃に発見された場所だ。

 交流がなかったためか、一番南の島というためか、独自の文化が発展しており、勉学のため訪れる者も多い。

 噂では島の中央に遺跡があるとか。

 港の傍にある町以外、人の住んでいる場所はない。つまり、島の大半は森となっている。

 森はあっても、山がないので、魔法水晶(マジッククリスタル)はとることはできない。

 つまり、交流が無かった頃は杖を使わない魔法があったことになる。

 その謎は、今はまだ解かれていない。なんせ、島の人々はそのことについて尋ねると、口を閉ざしてしまうのだ。

「ねぇ、とりあえず宿を探そ」

「そうですね、この時間だともう」

「魔法術塔は、閉まってるな」

 三人はすぐ近くの宿に入った。

 今の時期は夏真っ盛り。暑いので客は少なく、一人一部屋取れたのだった。


 + + +


 その夜、三人はそれぞれの守護に夢の中であった

 ティナは火龍とアレスは風蛇と他愛のない会話をしていた

 一方、ミケルはというと……

"水虎! 今日こそは出てきやがれぇ!"

 いつも通り、水虎を捜し白い世界を歩いていた

"す・い・こ・おぉぉ!!"

"なんや? そないに切羽詰まって呼ばんでも"

 水虎はめんどくさそうに、いきなりミケルの後から現れた

"うおっ?! どっから出てくんだよ、いっつも"

"まぁ……お前の影とかからな"

 水虎が長い尾を振っているので、半分は嘘なんだな……とミケルは思った

"そうだ、お前あれ以来出てこなかっただろ"

"あれ以来? いつのことや"

 とぼけているのか、本気で忘れているのか今の様子ではわからない

"オレを無理矢理寝かせた日以来だよ!"

"そうやったか?"

"そうだ ったく、毎回報告しろって言ったのはお前だろうが!"

"んな事ゆーたって……儂かて、色々やる事あるんやで!"

 怒ったつもりが、逆に言い返されてしまった

 半分困ったようにも見えたので、ミケルはこれ以上言う気になれなかった

"まぁ、問題解決したのは、見えてたんだろ?"

"勿論や 新しいやつ風蛇やろ? この前おうたで"

 見えているのならば、報告する必要もないのでは……と思ったが、口にはしなかった

"ふ〜ん って、お前ら会うことできるのか?!"

 守護は人の中にしか存在できないと思っていたミケルは、驚いた

"当たり前やろ 儂らはいつもここに居るわけやない、別空間に守護の住処があるんや"

 守護だけが存在する空間 そんな物が存在することを、知っている者は少ない

 守護達に教える気がないのでもっともなことなのだが

"ふ〜ん"

 ミケルも大して興味があるわけではない。なので、深くは聞かなかった

"せやけど……誰の守護っちゅーのを捜すんは、大変なんやで!"

"へいへい あと土系の守護がいりゃぁ完璧だよな"

 ティナは火、ミケルは水、アレスは風、と魔法のバランスなら土が欠けている事となる

"あーどうやろ 魔法とちごぅて、風・火・水でバランスとれてるわけやし それに……"

"それに、なんだ?"

 ミケルは水虎が何か言いかけたので、尋ね返した

"何でもない。気にせんといてや"

 長い尾を振って答える水虎が、これ以上口を割るはずはない

 ミケルは、諦めるしかなかった

 そして、疲れたのかその場にしゃがんだ

"あれ、何だったんだ?"

"あれ? あれっちゅーと例のピアスか?"

"ああ 何か気になってな"

 実際気になっていたのは少しだけであり、嫌な予感がミケルの中に渦巻いていた

"せやな……儂も先のことは言えへんし"

"どぉいう事だよ、水虎!"

 水虎は、しまったという顔をしている

"まだ、よーわからん だが、関わりがあるかもしれへん"

(分かってても……ホントのことは、まだお前には言えへんよ)

 ミケルは水虎の言葉に固まった

"何にせよ、運命――天運はそう簡単に変えられへんし、儂らも少し先を見る事ぐらいしかできへんのや"

"そっか めんどくせぇのは、勘弁願いてぇんだが"

 ミケルは大きく伸びをすると、立ち上がった

"なんや? もう行くんか?"

"ああ、お前に会って報告するだけが目的だったしな"

 水虎が残念そうに見えるのは、気のせいだろうか

"そうか まぁ、なんかあったらまた呼んでや"

"おう でも、すぐ出てこいよ!"

"ああ、わかっとる"

 水虎の返事を確認すると、ミケルは深い眠りに落ちた


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