第2話 『戦闘は……終わったよね?』

 朝から曇り空だった、カロン島。

 そこに、とうとう静かな雨が降り始めた。

「あ、雨だ」

「濡れるな」

 この辺に三人が入れそうな、洞穴も大木もない。

 木陰にいるとは言え、濡れるのも時間の問題だ。

「滅多にあいませんよね、カロン島の雨って」

(僕が見たのは、あの日以来でしょうか)

 気候条件からして、このカロン島での雨は珍しい。

 アレスが僅かに目を細めたことに、二人は気づかなかった。

「経験済みなのか? カロン島の雨」

「ええ、まぁ。ただ……」

「「ただ?」」

「カロン島の雨って、魔物を呼んだり生み出したりするとか」

「何ぃぃぃ?!」 「ホント?!」

 アレスが話し途中にもかかわらず、二人は声を合わせた。

 そんな話は聞いたことがない。

 それに、その話が本当だとすれば……

「ホントですよ」

(何せ、それで僕の姉様は死んだんですから)

 顔は笑っているが、アレスは何かを押さえているようだった。

「ちょっと待て。そうなると、じっとしていれば」

「二人とも、向こうから音がっ!」

 ミケルの予想通り、一番耳の良いティナが反応した。

「においを嗅ぎつけて、来ますね」

「あ゛――――! ふざけんなぁぁぁぁぁっ!」

 本日二度目の追いかけっこに、完全にキレてしまったミケルの声が、森中に響き渡ったのだった。





 数十分後。

 三人の周りには、大量の魔物達の残骸だけが残った。

 結局、先程のように眠らせるだけではこちらの対応が追いつかず、やむを得ない状況となったのである。

「最南の島どころか、災難の島じゃねぇか!」

「あはは…隠された意味かもしれませんよ」

(あの時、これだけの力があれば)

 笑っているアレスは、時折同じようで違う物をその目でみていた。

 その異変に、ミケルはようやく気づいたようで、口を開きかける。

「アレス、お前……」

「ねぇ、進もうよ!」

 二人と離れた場所にいたティナが、戻ってきた。

 多分、彼女の歩いてきた方向にも、大量の魔物の死体が転がっているだろう。

 アレスは、何か? と聞いてきたが、ミケルは、何でもねぇとだけ返した。

 今は、尋ねる時ではない……と思ったのだろう。

「それにしてもっ……てぇぇい! これだけ多いと……たぁぁっ! やになってくるね」

 小雨の降る中、一番前を小走りに行くティナは、敵を倒して道をつくる。

「そうですね……地鎖(ちぐさり)! あまり使いすぎるのも、緑真壁(りょくしんへき)! 問題ですし」

 土の鎖が獣を縛り、風の壁が獣の足を止める。

 続くアレスが、得意の風魔法と、地魔法を使いつつティナのつくった道を通る。

「なんかっ……水龍刃(すいりゅうじん)! 逃げ込める場所とか……火紅炎(かこうえん)! ねぇのかよっ」

 水の刃が獣を切り裂き、紅い炎が獣を襲う。

 アレスと同じく短縮魔法を唱えながら、ミケルがしんがりをつとめていた。

「……あっ! 遺跡がある!」

 一番前のティナが、前方に煉瓦造りの建物を見つけた。

 まだ大分小さいが逃げ込める建物ならば、申し分ない。

「ホントか?! 噂は、まんざら嘘じゃなかったな」

「どうにかなりそうですね」

(遺跡。ということは、まさか……)

 いい加減飽きてきていたミケルと、少し疲れだしていたアレスは喜んだように見えた。

 けど、それは錯覚だったのかもしれない。

「一番のりぃ〜!」

 ティナは森を抜けたとたん煉瓦の建物に向け走った。

 そして、スキップをしながら階段を上っていく。

「あっティナ! 後の事任せやがって!」

 未だ森の出口で、魔物達の相手をしているミケルが怒鳴った。

 後ろを見る余裕があるのならば、別にいいのではないか……とも思えるのだが。

「任せて、いいんですね?」

 いつもの笑顔をつくり、アレスは横を通り過ぎようとしている。

 そのマントを空いている左手でつかんだ。

「待て。オレ一人でやれってか?」

「勿論。だって、任されたのでしょう?」

 有言実行です、とアレスは笑っていた。

 ……二対一で反論は却下されたようだった。

「ちっ なんで、オレ様が」

 ブツブツと文句をいいながら、杖をくるくるともてあそぶ。

 動かない相手など、楽勝と言わんばかりに、残りの獣たちがミケルに襲いかかった。

「少しは、大人しくしていやがれっ! 地水火風全てを司り、その力を持つ光の精霊よ、我が力となり遺跡の周りに壁を作れ、光透壁(こうとうへき)!」

 ミケルの杖の先についている水晶が光りだすと、透明なカーテンのようなものが辺りを包んだ。

 四大魔法ではない。

 その上を行く、光の魔法である。

 獣達はそのカーテンに阻まれ、中にはいってくることはできなかった。

「ふん」

「流石です」

 むくれ顔で階段を上ってくるミケルに、アレスは手を叩きながら近づく。

「お前なぁ」

「二人とも! 中入れそうだよ」

 入口を調べていたティナが、呼んでいる。

「ほら、行きましょう」

「ああ」

 ふてくされていたミケルも、新しい発見に期待をかけたのか、それ以降文句を言うことはなかった。


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