朝から曇り空だった、カロン島。 そこに、とうとう静かな雨が降り始めた。 「あ、雨だ」 「濡れるな」 この辺に三人が入れそうな、洞穴も大木もない。 木陰にいるとは言え、濡れるのも時間の問題だ。 「滅多にあいませんよね、カロン島の雨って」 (僕が見たのは、あの日以来でしょうか) 気候条件からして、このカロン島での雨は珍しい。 アレスが僅かに目を細めたことに、二人は気づかなかった。 「経験済みなのか? カロン島の雨」 「ええ、まぁ。ただ……」 「「ただ?」」 「カロン島の雨って、魔物を呼んだり生み出したりするとか」 「何ぃぃぃ?!」 「ホント?!」 アレスが話し途中にもかかわらず、二人は声を合わせた。 そんな話は聞いたことがない。 それに、その話が本当だとすれば…… 「ホントですよ」 (何せ、それで僕の姉様は死んだんですから) 顔は笑っているが、アレスは何かを押さえているようだった。 「ちょっと待て。そうなると、じっとしていれば」 「二人とも、向こうから音がっ!」 ミケルの予想通り、一番耳の良いティナが反応した。 「においを嗅ぎつけて、来ますね」 「あ゛――――! ふざけんなぁぁぁぁぁっ!」 本日二度目の追いかけっこに、完全にキレてしまったミケルの声が、森中に響き渡ったのだった。 数十分後。 三人の周りには、大量の魔物達の残骸だけが残った。 結局、先程のように眠らせるだけではこちらの対応が追いつかず、やむを得ない状況となったのである。 「最南の島どころか、災難の島じゃねぇか!」 「あはは…隠された意味かもしれませんよ」 (あの時、これだけの力があれば) 笑っているアレスは、時折同じようで違う物をその目でみていた。 その異変に、ミケルはようやく気づいたようで、口を開きかける。 「アレス、お前……」 「ねぇ、進もうよ!」 二人と離れた場所にいたティナが、戻ってきた。 多分、彼女の歩いてきた方向にも、大量の魔物の死体が転がっているだろう。 アレスは、何か? と聞いてきたが、ミケルは、何でもねぇとだけ返した。 今は、尋ねる時ではない……と思ったのだろう。 「それにしてもっ……てぇぇい! これだけ多いと……たぁぁっ! やになってくるね」 小雨の降る中、一番前を小走りに行くティナは、敵を倒して道をつくる。 「そうですね……地鎖(ちぐさり)! あまり使いすぎるのも、緑真壁(りょくしんへき)! 問題ですし」 土の鎖が獣を縛り、風の壁が獣の足を止める。 続くアレスが、得意の風魔法と、地魔法を使いつつティナのつくった道を通る。 「なんかっ……水龍刃(すいりゅうじん)! 逃げ込める場所とか……火紅炎(かこうえん)! ねぇのかよっ」 水の刃が獣を切り裂き、紅い炎が獣を襲う。 アレスと同じく短縮魔法を唱えながら、ミケルがしんがりをつとめていた。 「……あっ! 遺跡がある!」 一番前のティナが、前方に煉瓦造りの建物を見つけた。 まだ大分小さいが逃げ込める建物ならば、申し分ない。 「ホントか?! 噂は、まんざら嘘じゃなかったな」 「どうにかなりそうですね」 (遺跡。ということは、まさか……) いい加減飽きてきていたミケルと、少し疲れだしていたアレスは喜んだように見えた。 けど、それは錯覚だったのかもしれない。 「一番のりぃ〜!」 ティナは森を抜けたとたん煉瓦の建物に向け走った。 そして、スキップをしながら階段を上っていく。 「あっティナ! 後の事任せやがって!」 未だ森の出口で、魔物達の相手をしているミケルが怒鳴った。 後ろを見る余裕があるのならば、別にいいのではないか……とも思えるのだが。 「任せて、いいんですね?」 いつもの笑顔をつくり、アレスは横を通り過ぎようとしている。 そのマントを空いている左手でつかんだ。 「待て。オレ一人でやれってか?」 「勿論。だって、任されたのでしょう?」 有言実行です、とアレスは笑っていた。 ……二対一で反論は却下されたようだった。 「ちっ なんで、オレ様が」 ブツブツと文句をいいながら、杖をくるくるともてあそぶ。 動かない相手など、楽勝と言わんばかりに、残りの獣たちがミケルに襲いかかった。 「少しは、大人しくしていやがれっ! 地水火風全てを司り、その力を持つ光の精霊よ、我が力となり遺跡の周りに壁を作れ、光透壁(こうとうへき)!」 ミケルの杖の先についている水晶が光りだすと、透明なカーテンのようなものが辺りを包んだ。 四大魔法ではない。 その上を行く、光の魔法である。 獣達はそのカーテンに阻まれ、中にはいってくることはできなかった。 「ふん」 「流石です」 むくれ顔で階段を上ってくるミケルに、アレスは手を叩きながら近づく。 「お前なぁ」 「二人とも! 中入れそうだよ」 入口を調べていたティナが、呼んでいる。 「ほら、行きましょう」 「ああ」 ふてくされていたミケルも、新しい発見に期待をかけたのか、それ以降文句を言うことはなかった。 back top next |
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