数分後、目を覚ましたミケルが怒ったのは言うまでもない。 文句を言いつつ、ちゃっかり魔法で服を乾かしていた。 当然の事ながら、誰にも反省の様子は見られなかった。 スクリのお茶で一息ついている頃、カーチェがようやく戻ってきた。 『おかえりなさ〜い。カーチェ様』 「ただいま。スクリ……何かありました?」 『え? 何もないと思いますけど?』 ミケルが服を乾かし終わった後戻ってきたスクリは、先程のことを知らない。 だが、カーチェは三人の雰囲気に何かを感じたらしい。 この場合は、流石と言うべきか。 「特にはねぇよ。アレスが人をずぶ濡れにした以外はな」 「ですが、あれはミケルが起きないのがいけないかと」 「そーだよ!」 三人が言い争いを始めると、カーチェはその様子を見て微笑んだ。 ウェクトに関わるかもしれないと感じただけ、少し心配ではあったのだ。 けれども、この様子では大丈夫そうである。 「クスッ……面白い方達ですね」 『そーですね』 なんやかんやでお茶の時間を終えると、三人は席を立った。 「カーチェさん。僕達はそろそろおいとまします」 「そうですか」 カーチェは少し残念そうに目を伏せた……元より細い目なので、本当に伏せていたのかはわかりにくいのだが。 しかし、すぐに何かを思い立ったように席を立つ。 「スクリ、鍵を持っていますね?」 『え、はい』 「では行きましょう。あなた方に渡しておきたい物がありますから」 三人はお互い首を傾げた。 入ってきた時と同じ、淡く光る道をたどり扉の外にでると、カーチェは例の魔法道具(マジックアイテム)の部屋を開けた。 アレスの話していた、色々な装飾品で飾られた部屋がそこにあった。 「入って下さい。えっと……」 カーチェは部屋に入ると、棚や引き出しを開けはじめた。 「なんだろ?」 「さぁ、何でしょうね?」 扉の前で捜し物をするカーチェを、不思議そうに三人は見ていた。 「ありました。これです」 手を、と言われ三人が手を差し出すと、一つずつカーチェは何かを乗せていった。 ティナは白いツノ、ミケルは透き通った青のひし形、アレスは翠色の羽根である。 それぞれにリボンや紐がついているので、どうやらお守りのようだった。 「これは?」 「ティナさんのは火馬のツノ、ミケルさんのは水龍の鱗、アレスさんのは風鳥の羽根をそれぞれかたどった物です」 火馬は火系の守護で、水龍は水系の守護で、風鳥は風系の守護で、一番の力を持っているとされている。 ちなみに土系の土狼を加えて、四大守護と呼ばれていた。 驚いたのは勿論三人である。 自分達の守護を言った覚えはなかった。 「ど、どうして?!」 「出会えた記念とでも思ってください。これがあれば、必要な時に夢の中でなくても守護と会話ができるようになります。それ以外にも……」 「え?!」 「何ぃ?!」 「ホントですか?!」 「ええ、あくまで必要な時に……ですが。役に立つと嬉しいのですが」 「ありがとう、カーチェさん」 ティナは右手首に結びつけた。 「サンキュ」 「ありがとうございます」 ミケルは風難よけの腕輪に、アレスは左手首に結びつけた。 「カーチェさんは、どうするんですか?」 遺跡の出口に向かうとき、ティナは尋ねた。 ずっと考えていたのだ。本当に住んでいたウェクトはもうない。だから、この先どうするのか、と。 「ワタクシはこのまま死ぬまでここいます。それが、ワタクシの使命ですから」 彼から返ってきた言葉は、ゆっくりとしたものだった。 「……っ」 ティナは何かを言おうとしたが、後ろのミケルに止められた。 この人は、全て分かっているのだから、自分達には口出しできない、と。 出口である階段の上まで来ると、カーチェは立ち止まった。 「それでは、太陽神サンテット様と月の女神ルナーイ様……そして、双子の星の神、タリア様とスウル様の御加護があらんことを」 『三人とも、元気でね』 神の加護を祈ってくれたカーチェと、元気に手を振るスクリにお礼を言うと、三人は森へ向かった。 大して時間が経っていないはずと思ったが、既に小雨もやみ、空は雲一つない良い天気だ。 先程までの天気がまるで嘘のようだった。 まるであの神殿での時間が、幻だったかのように。 けれど、そうではないことを、三人の手首に揺れるお守りが示していた。 「これからどうするの?」 「そうですね。とりあえず、大陸に戻りましょうか」 「っつーか、そうしねぇと進めねぇだろ」 そこには、いつもの日常が戻ってきていた。 + + + カロン島 神殿。 『カーチェ様、あれ渡しちゃって良かったんですか?』 再び神殿に戻った時、スクリが尋ねた。 あれは、ただのお守りなどではない。 ウェクトでもそう簡単に手に入らないような代物である。 「良いんですよ。あれが少しでも、彼らの助けとなるならば」 『どういうことですか?』 スクリは、あまり理解ができずに首を傾げる。 カーチェは微笑むと、説明を加えた。 「彼らは、おそらく『ウェクトに関わる者』。そして、その天運は……酷く残酷過ぎる。祈りの間で、また影が動きました」 『影って……あれですか?』 聖なる神殿であるこの場所に、影などもってのほかだ。 だが、確実に影はこの神殿に浸透しつつある。 これは、ウェクトにかかわる事態しかありえないのだ。 「ええ。彼らの情報のおかげで納得がいきました……当時、といってもワタクシ達には一年前のできごとですが、国の中枢部でなんらかの計画があったのは確かです。あれだけの力を保持していたのだから、崩壊の危機を察し、何らかの準備をしてもおかしくはない」 スクリは返す言葉がない。 「となれば、守護の力も必要です。それに万が一の時、守護の力を現実につなぎ止めてくれるのもあのお守りの力」 『……つまり、最悪そういう事態がおとずれる……と』 守護の力をつなぎ止める必要がある、ということは……宿る者の危機が迫る時。 彼らにそんな事態が起こるのか、とスクリは顔を曇らせた。 「まだ、分かりませんけどね。真実も伝えました。あとは……」 (あとは、彼らが己達の本当のことを知った時、どうするかです) 神殿の空は、今日も晴れている。 時の流れの違うこの場所にも、静かな予兆は届いていた。 三つの星は、空気の違う星に出会った 一つの星は、己の真実を知った そしてそれぞれ小さな光を貰う のちに何かの力になるはず……と 星は流れる……天運の流れに乗って 第5章 終わり back top next |
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