第7話 『そして出発』

 数分後、目を覚ましたミケルが怒ったのは言うまでもない。

 文句を言いつつ、ちゃっかり魔法で服を乾かしていた。

 当然の事ながら、誰にも反省の様子は見られなかった。

 スクリのお茶で一息ついている頃、カーチェがようやく戻ってきた。

『おかえりなさ〜い。カーチェ様』

「ただいま。スクリ……何かありました?」

『え? 何もないと思いますけど?』

 ミケルが服を乾かし終わった後戻ってきたスクリは、先程のことを知らない。

 だが、カーチェは三人の雰囲気に何かを感じたらしい。

 この場合は、流石と言うべきか。

「特にはねぇよ。アレスが人をずぶ濡れにした以外はな」

「ですが、あれはミケルが起きないのがいけないかと」

「そーだよ!」

 三人が言い争いを始めると、カーチェはその様子を見て微笑んだ。

 ウェクトに関わるかもしれないと感じただけ、少し心配ではあったのだ。

 けれども、この様子では大丈夫そうである。

「クスッ……面白い方達ですね」

『そーですね』

 なんやかんやでお茶の時間を終えると、三人は席を立った。

「カーチェさん。僕達はそろそろおいとまします」

「そうですか」

 カーチェは少し残念そうに目を伏せた……元より細い目なので、本当に伏せていたのかはわかりにくいのだが。

 しかし、すぐに何かを思い立ったように席を立つ。

「スクリ、鍵を持っていますね?」

『え、はい』

「では行きましょう。あなた方に渡しておきたい物がありますから」

 三人はお互い首を傾げた。

 入ってきた時と同じ、淡く光る道をたどり扉の外にでると、カーチェは例の魔法道具(マジックアイテム)の部屋を開けた。

 アレスの話していた、色々な装飾品で飾られた部屋がそこにあった。

「入って下さい。えっと……」

 カーチェは部屋に入ると、棚や引き出しを開けはじめた。

「なんだろ?」

「さぁ、何でしょうね?」

 扉の前で捜し物をするカーチェを、不思議そうに三人は見ていた。

「ありました。これです」

 手を、と言われ三人が手を差し出すと、一つずつカーチェは何かを乗せていった。

 ティナは白いツノ、ミケルは透き通った青のひし形、アレスは翠色の羽根である。

 それぞれにリボンや紐がついているので、どうやらお守りのようだった。

「これは?」

「ティナさんのは火馬のツノ、ミケルさんのは水龍の鱗、アレスさんのは風鳥の羽根をそれぞれかたどった物です」

 火馬は火系の守護で、水龍は水系の守護で、風鳥は風系の守護で、一番の力を持っているとされている。

 ちなみに土系の土狼を加えて、四大守護と呼ばれていた。

 驚いたのは勿論三人である。

 自分達の守護を言った覚えはなかった。

「ど、どうして?!」

「出会えた記念とでも思ってください。これがあれば、必要な時に夢の中でなくても守護と会話ができるようになります。それ以外にも……」

「え?!」 「何ぃ?!」 「ホントですか?!」

「ええ、あくまで必要な時に……ですが。役に立つと嬉しいのですが」

「ありがとう、カーチェさん」

 ティナは右手首に結びつけた。

「サンキュ」 「ありがとうございます」

 ミケルは風難よけの腕輪に、アレスは左手首に結びつけた。

「カーチェさんは、どうするんですか?」

 遺跡の出口に向かうとき、ティナは尋ねた。

 ずっと考えていたのだ。本当に住んでいたウェクトはもうない。だから、この先どうするのか、と。

「ワタクシはこのまま死ぬまでここいます。それが、ワタクシの使命ですから」

 彼から返ってきた言葉は、ゆっくりとしたものだった。

「……っ」

 ティナは何かを言おうとしたが、後ろのミケルに止められた。

 この人は、全て分かっているのだから、自分達には口出しできない、と。

 出口である階段の上まで来ると、カーチェは立ち止まった。

「それでは、太陽神サンテット様と月の女神ルナーイ様……そして、双子の星の神、タリア様とスウル様の御加護があらんことを」

『三人とも、元気でね』

 神の加護を祈ってくれたカーチェと、元気に手を振るスクリにお礼を言うと、三人は森へ向かった。

 大して時間が経っていないはずと思ったが、既に小雨もやみ、空は雲一つない良い天気だ。

 先程までの天気がまるで嘘のようだった。

 まるであの神殿での時間が、幻だったかのように。

 けれど、そうではないことを、三人の手首に揺れるお守りが示していた。

「これからどうするの?」

「そうですね。とりあえず、大陸に戻りましょうか」

「っつーか、そうしねぇと進めねぇだろ」

 そこには、いつもの日常が戻ってきていた。







 + + +







 カロン島 神殿。

『カーチェ様、あれ渡しちゃって良かったんですか?』

 再び神殿に戻った時、スクリが尋ねた。

 あれは、ただのお守りなどではない。

 ウェクトでもそう簡単に手に入らないような代物である。

「良いんですよ。あれが少しでも、彼らの助けとなるならば」

『どういうことですか?』

 スクリは、あまり理解ができずに首を傾げる。

 カーチェは微笑むと、説明を加えた。

「彼らは、おそらく『ウェクトに関わる者』。そして、その天運は……酷く残酷過ぎる。祈りの間で、また影が動きました」

『影って……あれですか?』

 聖なる神殿であるこの場所に、影などもってのほかだ。

 だが、確実に影はこの神殿に浸透しつつある。

 これは、ウェクトにかかわる事態しかありえないのだ。


「ええ。彼らの情報のおかげで納得がいきました……当時、といってもワタクシ達には一年前のできごとですが、国の中枢部でなんらかの計画があったのは確かです。あれだけの力を保持していたのだから、崩壊の危機を察し、何らかの準備をしてもおかしくはない」

 スクリは返す言葉がない。

「となれば、守護の力も必要です。それに万が一の時、守護の力を現実につなぎ止めてくれるのもあのお守りの力」

『……つまり、最悪そういう事態がおとずれる……と』

 守護の力をつなぎ止める必要がある、ということは……宿る者の危機が迫る時。

 彼らにそんな事態が起こるのか、とスクリは顔を曇らせた。

「まだ、分かりませんけどね。真実も伝えました。あとは……」

(あとは、彼らが己達の本当のことを知った時、どうするかです)

 神殿の空は、今日も晴れている。

 時の流れの違うこの場所にも、静かな予兆は届いていた。



 三つの星は、空気の違う星に出会った 一つの星は、己の真実を知った

 そしてそれぞれ小さな光を貰う のちに何かの力になるはず……と

 星は流れる……天運の流れに乗って


第5章 終わり



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