第2話 『知らない人との再会』

 時の過ぎるのは早いもので、イロリアに入ってから二ヶ月が過ぎた。

 秋の暮月である。

 風が涼しいから少々肌寒くなり、木々の色が赤や黄に染まる頃だ。

 そして、アレスの誕生月でもあり、アレスは17歳となった。

 町からも山が見えだし、そろそろ国境も近いと思われる。

「へっくし……寒い」

 町を歩きつつ、ティナは腕をさすった。

「当たり前ですよ、ティナ。いい加減、長袖か上着を着て下さい」

 相変わらずティナは半袖のままでいた。

 カルタにいた頃は、長袖を着ることがなかったので、ティナは持っていなかった。

 同じ半袖でも、ミケルはマントを羽織っているので寒さは感じないらしい。

「もってない」

「だったら、どこかで買いましょう。北に向かう以上は、着なきゃダメです」

 すっかりティナの世話役が板に付いてしまったアレスである。

 ちなみにミケルは、ティナの世話から解放された喜びに浸っている、訳でもない。

 押しつけた分の仕返しは、それはそれは恐ろしかった。

「……わかった」

 アレスはティナの返事を聞きホッと胸をなで下ろした。

 旅の途中に風邪などひかれたら面倒だからだ。

 すぐに洋服を調達すると、三人は再び町の端に向かった。





 + + +





 途中、ティナは誰かに呼ばれた気がして立ち止まった。

「え?」

「……ティナ!」

 確かに女性の声でティナを呼んでいる。

 辺りを見回すと、一人の女性が抱きついてきた。

「ティナー! 元気だった?」

 オリーブグリーンの肩に届く髪。左頬に二本のエメラルドがかった傷。左右の目の色が違い、右目は水晶の色、左目は傷と同じ色。左耳には風難よけの赤い輪のピアス。

 白い半袖の下に黒の長袖。胸の前には大きめの丸水晶。

 そして、赤……というより、ワイン色の長いスカート。

 かなり目立つ容姿なのだが、ティナの記憶上こんな知り合いはいない。

 だが、相手は何故かこちらを知っているようだった。

「えっと、あの?」

 人違いでは? と言いたかったのだが、女性はそれさえも許さなかった。

「私のコト、忘れたの? 仕方ないわね」

 女性はティナから離れると、腰に下げていた鞄から茶色いローブを取りだした。

 あのローブだけは、何処かで見た覚えがある。

 かなり前の記憶なので、思いだすのは少し時間がかかりそうだった。

 頭からすっぽりとローブをかぶり、喉の調子を整えると、女性は僅かに笑う。

「こうしなくては、わからないかえ? ティナ」

 その声は確かに老人のものだった。

 カルタにいた頃には、毎日と言って良いほど聞いていた、懐かしい声。

「ば、ばあちゃん?!」

 女性はフードを取ると微笑んだ。

「ご名答。だけど、ばあちゃんはやめてよね」

 女性が認める、ということは、正真正銘本人であろう。

 だが、ティナにはどうしても信じられなかった。

「じゃぁなんて呼べば?」

「ああ、私の本当の名前、覚えていないのね。ルナシュアよ」

 ティナはルナシュアの言動に首を傾げた。

 『知らない』というならばわかるが、彼女は『覚えていない』と言った。

 どうしてだろうか。そんな疑問が、頭をよぎる。

「ティナ、お知り合いですか?」

 後ろで様子をうかがっていたアレスが、ようやく口を開いた。

「うん。カルタで水晶占いしてた人なの」

「へぇ〜初めまして、僕はアレスです」

 丁寧に礼をするアレスを見て、ルナシュアは感心した。

 そして、すぐさま初めまして、とにこやかに返す。

「オレはミケルだ」

 いきなり出てきたルナシュアを警戒してか、ミケルは睨みつけた。

 初対面の相手に、睨みつけるとはあまり良い対応ではない。

 そんな態度に対しルナシュアはミケルの顎を掴むと、さらっと言ってのけた。

「初めての人でなくても、そんなに睨むと逆に相手に警戒心を植え付けるわよ」

 顔をかなり近づけられ、ミケルは固まっている。

「こ、この目は生まれつきだ!」

 何とか返した言葉も小声だった。

 ルナシュアは楽しげにミケルから離れると、ティナの方を向いた。

「さてと、今日は話があってあなたを捜してたの」

「話?」

「そ、話。立ち話ってレベルじゃないから、とりあえず私の宿に行く?」

 どうする? と、ティナはアレスとミケルを見た。

 二人はティナの好きにしろ(好きにして下さい)と言ったので、ルナシュアについていくことにしたのだった。



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