第4話 『ウェクトとの関係』

 蒼瑠璃1056年 朱珊瑚歴のまだできていない、夏の雨月 滅びる一ヶ月前。

 フリエラ川河口のウェクトの人々は幸せに暮らしていた。

 しかし、一部の人間だけは、ウェクトの消滅を知っていたのである。

 この栄華を、誰が絶えさせようなどと思うのだ。

 世界はウェクトのものであり、全てはウェクトの元にできている。

 国の中心人物達がそう考えていても、おかしくはない。

 そして、始められたのが"ウェクト復活計画"

 力や知識の全てを一時的に封印し、再び時がきたころに復活させ、国を再建するというものである。

 夏の赤月に入る頃には、その計画の多くの人物がそれぞれの国に移転した。

 そして、残りの数十人はフリエラ川をさかのぼり、何処の国にも属さぬその場所に村を造った。





 蒼瑠璃1056年 夏の赤月の終わりに、多くの人と建物を海は飲み込んでいった。





 フリエラ川をさかのぼった人々が造りし村は、カシレン村と呼ばれることになる。

 これが、ティナの生まれた村なのだ。



 そこまで聞くと、ティナは目を見開いた。

 己の中に失われしウェクトの血が流れているなど、思いも寄らぬことなのだ。

「驚く…わよね。ティナの育ってきた記憶ではウェクトは幻の国。そんな国の血筋だなんて」

 ルナシュアは何かを思いだしているのか、目を細めた。

「私が計画の全てを知ったのは、まだそんな計画のカケラも感じられないはずの時代だった。5歳の時よ……その力をかわれてっと、これは関係ない話ね」

 村のことを話しているにしては、合点のつかないことだらけだった。

 だからこそ、この時のルナシュアの言葉は聞き流していたのだ。

 それが、彼女を知ることのできる唯一の情報であったのに。

"まだ、続くんやろ? こないなとこで、脱線しとったら、お先真っ暗やで"

 水虎の忠告にルナシュアは、苦笑いを浮かべると続きを始めた。





 各国に散らばった者達を、カシレン村に集めることは困難を有した。

 そこで、カシレン村の中で決められた掟の中に『村長の一番上の子供を村の外で育てる』というものが加えられた。

 ウェクトの血を引く者は、不思議とひかれあう。

 たとえ本人が何も知らなくとも。

 一番上と限定されたのは、村の濃いウェクトの血を絶やさないためである。

 村長は初めての子供が産まれる者に、どんどんかえられた。

 そして、その子供は必ず旅中に同じ血の者と出会い何も知らずにカシレン村に戻ってきた。

 そのうち、国の外へ逃れていた人々の血筋を持つ大半の者達は村に集まった。





"なァ…一つ聞いていいかァ?"

 今度は風蛇が尋ねてくる。

「なに? 私のわかる範囲でなら」

"子供はァ記憶を持ったままァ外に行ったのかァ?"

「ええ。といっても、名付けたばかりの赤子の時だから、あまり記憶は関係ないわ」

 そこに、水虎が鋭く突っ込む。

"なんや、おかしいで。そうなるとティナは、記憶を消さなあかん理由があったんか?"

「それは……人が集まりすぎたことと、時が経ちすぎてしまったことにあるの」





 丁度ティナの生まれた15年前 蒼瑠璃1141年 朱珊瑚85年。

 村の大人達が集まり、会議が行われた。

 未だみつからぬ者はただ一人。計画の上で一番重要な人物だった。

 だが、その者のすむ場所が特定できていない。

 近くの国に送りたいと考えている村の者達は、ティナを村で育てるコトに決めた。

 二年後、妹 シェキができた時にもティナは村にとどまっており、姉妹共にすくすくと村で育ち、一年また一年と過ぎていった。





 蒼瑠璃1147年 朱珊瑚91年 冬の白月

 村にある情報が入った。

 残っていた可能性のある者は、クーシア国周辺に住んでいるというものだ。

 どこの情報かは分からなかったが、信憑性はあると、村長は判断を下した。

 そのために母親の意見には耳も貸さず、ティナを送ることを決定したのである。

 村のことを知った上で、送ることは危険とされている。

 この村の存在は、あくまで幻である。人に知られてはならないのだ。

 それと、もう一つ問題があった。

 ティナの中に流れる『力』。

 と言っても、これは一部の者しか知らないもの。

 その力は、絶やすことのできないもので、どんなことをしても、世界に一人存在することになっている。

 そして、いつかウェクトを滅ぼすかもしれない可能性を秘めていた。

 当然、ウェクト復活計画の際もっとも邪魔になる存在と睨まれている。

 しかし、力を持っていたとしても、本人の意志がなければ発動しないので、長老達は軽視していた。

 結局、長老達はティナをクーシア国の中心地 カルタに送り込むことを決めた。

 今までの記憶を消し去ることを条件に。



 + + +



 全ての話が終わった。

 誰も知り得なかった真実、そしてティナの全てがここに示された。

 ゆっくりと、ルナシュアは閉じていた目を開いた。

「ここまでが、全て。私がカルタにいたのは、シェイナさん……ティナのお母さんに頼まれたから。なにか、他に聞きたいこと、ある?」

 部屋はいつの間にか夕暮れの日の光に照らされ、茜色に染まっている。

 沈黙が、その場にいた全員の心境を表していた。

"ルナシュアさん。ティナの『力』というのは"

「そうね……ウェクトの者達の力を『闇』とすれば、ティナの力は『光』なの。それが、月の光となるか、太陽の光となるかは、ティナ次第なわけ」

 闇を導く月の光と、闇を消し去る太陽の光、確かに正反対の力なので同時に持つ可能性のあるものである。

"光……か。で、何で今頃こんな話しに来たんや?"

「それは……」

 ルナシュアが言いにくそうに、言いよどんだ時、鞄の中から白い置物が飛びだしてきて、魔法陣の中にとまった。

"それは、ルーナの意志ぢゃなくて、シェイの頼みだからなの"

 その白い置物から、子供の声が聞こえた。



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