置物は、長耳兎にコウモリ型の翼が生えた形をしていた。 真っ白な体に真っ黒な翼がよく映える。 "おやァ……その声ぇ、その気配ィ。風兎かァ?" 同じ属性である風蛇は気配でそれを感じたらしい。 風を取り巻くその置物から、ルナシュアと同じ傷を左頬に持つ、黒髪(前の中央だけクリーム色)の子供が現れた。 頭には白く長い耳、髪は左右に結んであり、ほわほわの毛が先についた、濃い緑のマントに身を包んでいる。 "やっほぅ、風蛇。ルーナ、言っちゃいなよ" 姿からすれば、長身の水虎と風蛇に加え、母親のような火龍に囲まれれば、まるっきり子供である。 だが、守護としての歳は三人と大して変わらないはず……だ。 とまどっていたルナシュアが、風兎に促され、しぶしぶと言った感じに口を開いた。 「……村の人々は、ティナが最後の一人を見つけたことを知っている。もう、復活の儀式は始まっているの」 「私が……見つけた?」 ティナはルナシュアを見てから、ミケルとアレスを見た。 "そうだよ。ティナは旅立って、一週間でね。誰も、そんな早くにとは予想しなかった" 喋りにくそうにしているルナシュアの代わりに、風兎が答える。 "だから試された、それが本物かどう……か" 風兎は、言ってから、しまったという顔をする。 喋るはずのないことまで、口からでてしまったのだ。 真っ白な耳が、反省を示すように、下向きに垂れた。 「……試し、ですか」 何かを言いたくて、けど言葉にはならなくて……アレスは胸元を握りしめた右手に左手を重ねた。 この右手にあるものの所為で、利用されて、けどこれを持っていたからこその出会いもあって、今の自分がここにある。 アレスはカロン島の時と同じく、これが右手にあってよかった……と思った。 「てことはだ、オレがウェクトの血を引いてる……と?」 未だ混乱しているミケルが、自信なさげに尋ねた。 ティナが旅立って一週間経った日、出会ったのは自分だけ。 「結論としてはそうね。……ちょっとまって、知らなかったわけ?」 言い切ってから、ルナシュアはおや? と考えたのである。 「知るも何も、初耳だぜ、オレは。大体親父はそんなことひとっことも……」 と言いつつ、ミケルはまた自分の発言に疑問を感じた。 父親は本当に知らなかったのか、わざと隠していたのではないのかと。 考えてみれば、旅に出ると言い出した時から、何かを隠しているようなところがあったのだ。 「……そう」 (あの人は言っていたとおりにしたのね。やはり、かなわないわ) 考え込むミケルに、ルナシュアはそれ以上尋ねなかった。 "ルーナ。シェイの頼みの内容、言ったの?" 風兎は飛び跳ねて、ルナシュアを見上げた。 「あ、忘れてた。肝心なコト言うの」 このルナシュアの一言に、その場の全員は一気に気が抜けた。 「ルナシュアねえさま〜」 今までの雰囲気をぶち壊したにもかかわらず、当の本人は笑っている。 「ごめん、ごめん。今こんな話をした理由を言い忘れるとこだった」 そもそも、わざと消した記憶をティナに語る必要はないはずだ。 村全体の意志がそうである以上は。 だが、ルナシュアはここにいて、全てを話してくれた。 「シェイナさんの頼みはね『全てを知り、その上で自分の進むべき道を見つけて欲しい』てコトなの。 だから、ウェクトのことも村のことも、全部話したのよ。もう、時間がないの。いつ、最後の使者がくるとも限らない」 「……」 ティナは少し考える時間が欲しかった。それは、後の二人にも言えるのだが。 いきなり与えられた情報はあまりに多くて、けれども今決断を迫られている。 「村に戻り、自らの『力』の真実を見るか、復活に携わるか……」 残された時間は、わずか。 そして、指し示された選択肢は、世界の運命を握っている。 ウェクトは復活すれば、再び世界の全権を握るだろう。 かつての美しき都はよみがえる。 しかし、他国は? もし、ウェクトが全てを握ろうと動き出した時、太刀打ちできる国があるだろうか? 「私は……」 ティナは、一度言葉を句切った。 望んでいたのは、昔の記憶。 返ったわけではないが、それでも知りたかったことは得られた。 では、その先にあるものは? 「よく、分からないよ、ルナシュアねえさま。 けどね、私は知りたい……自分がどんな力を持っているのか。それを知ってからでも、遅くはないでしょ?」 後ろで話を聞いている、二人に同意を求めずに、ティナは言い切った。 元々、目標があるようで無い旅なのだから、目的地ができたところで問題はない。 異論はなかった。 「じゃぁ、決まりね。明日のお昼に出発しましょ。それまで、ゆっくり休むと良いわ」 「は〜い」 「おう」 「ありがとうございます」 魔法陣はそのままにしておくから、と言い残しルナシュアは風兎の置物を持つと、部屋をでていった。 ティナとミケルはそのまま火龍と水虎との会話に没頭してしまい、周りは見えていない。 それを確認して、アレスはお守りを手首に巻き付けると、部屋を後にした。 + + + 向かったのは、ルナシュアの泊まる部屋。 声をかけて扉を開けると、案の定驚いた顔をしているルナシュアがそこにいた。 「どうしたの?」 「いえ、色々とお聞きしたいことがあるんです。それと、風蛇が不可思議なことを言うので」 「不可思議なこと?」 「あなたの守護は風兎じゃない、とね」 お互いに探り合い、と言ったところ。 沈黙が場を支配していた。 「……それともう一つ。 僕は多分、必要以上のことを風蛇から聞いているから、聞く権利はありますよね? あの二人に喋ることはないし、それに僕は――」 アレスが紡いだその事実に、ルナシュアは驚いていなかった。 おや? とアレスは首を傾げる。 「知っていらしたんですか?」 「まぁ、ね。確かに私の守護は風兎ではないわ。同族である風蛇だからこそ、気づいたのね」 ため息をつくと、ルナシュアは机の上の置物に目を向けた。 先ほど、風兎が宿っていたはずのモノだ。しかし、今はそんな気配は見られない。 迷ったようなルナシュアに、穏やかな女性の声が降り注いだ。 "ルーナ、それは貴方の判断に任せるわ" 「フート……わかったわ。アレス君になら話しましょう」 「ありがとうございます」 「立ち話も何だし、中へどうぞ。二人には……」 「大丈夫ですよ。心配なら、一度戻って断りを入れてきます、今夜は遅くなると」 そして、二人の姿は扉の向こうへ消えた。 次の日ルナシュアの加わった四人は、カシレン村に向かうため、まずは国境のある来たに向かって歩き出した。 星は運命を指し示してくれた大いなる流れに、再び巡り会った そして、少女の星は己の失われし光のコトを知った 残る星もまた、少なからず己の生まれについて、真実を教わったのである 三つの星は、その大いなる流れと共に、星の生まれし場所に向かったのである 第6章 終わり back top next |
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