ルナシュアと会った町をでると、国境まで森を歩くことになった。 そうなると、必然的に魔物と戦う羽目になる。 三人にとっては、今までと同じことなのだが、今は少し違った。 「ルナシュアねえさま、そういえば、戦えるの?」 「えっ?! そうねぇ……」 ルナシュアが誤魔化そうと考え込んだ時、近くの茂みで音がした。 一瞬にして、四人に緊張が走る。 「魔物、か?」 「わかんないよ」 杖を横(防御の形)に構えたミケルの横で、ティナが答える。 音はほんの一瞬で、判断材料としては物足りなすぎる。 「味方ってことは、ないと思いますけど」 「まぁ、どっちにしろ俺の敵じゃねぇな」 自信満々なミケルに、アレスは絶対零度の微笑みを向けた。 「じゃぁ、一人で倒してくれます? ミケル」 「……じょーだん。んなこと、誰がやるかよ」 相変わらず、アレスの笑顔には勝てないが、ようやく対応の仕方を覚えたようだ。 「あれ? どっか行ったみたい」 先頭で剣を構えていたティナが、振り向いた。 「はぁ?」 「ええ?」 思わず二人はマヌケな声をあげてしまう。 その反応が気に入らなかったのか、ティナは口をとがらせた。 「だから、どっか行っちゃった」 剣を鞘にしまい、つまらなそうな顔をしている。 「ホントか?」 ティナがホントだよ! と、こたえようとした時、後方(ルナシュアのいる方)に、陰が揺らめく。 身の丈が人の2・3倍もある魔物が現れた。 「後ろ?! ルナシュアねえさまっ!」 ティナは即座に剣を抜くとルナシュアと魔物の間にわって入った。 ヒュッと風が鳴る。 「ティナ、気をつけて下さい!」 「わかってる。てぇぇぇ〜い!」 ティナはでてきた魔物の腕に、斬りかかった。 「一匹…だけか?」 ようやく、状況に慣れ後ろを向いたミケルは、横のアレスに聞いた。 杖の防御の形は崩していない。すぐにでも呪文を唱えれば、完全な防御は完成する。 しかし、横のアレスも同様の構えをとっていたので、すぐにそれはやめてしまった。 「おそらくは。ただ、油断はできません。ルナシュアさん、こっちに」 「え……あ、はい」 呆然と目の前の光景を見ていたルナシュアは、いきなり現実に引き戻された。 防御はアレスに任せ、自分は得意な攻撃に回ることに決めたミケルは、クルクルと杖を回して、楽しそうに笑った。 「ティナ、よけろよ! 大地に住みし土精よ、我が力となり敵を切り裂け、土狼刃(ちろうじん)!」 周囲の地面が盛り上がり、茶色い刃を形成する。 大地を走る砂の刃は、地面を蹴ったティナの下を通り魔物に当たった。 人でないモノの、叫び声が轟く。 しばらく痛がっていた魔物は、四人を見据えると火炎を吐いた。 人の顔の大きさほどある火炎の球が、無防備に見えたのだろう、アレスの方へ向かう。 「大気中に住みし水精よ、我が助けとなりみんなを守って下さい、青海壁(せいかいへき)!」 慌てず騒がず、淡々と呪文を唱えたアレスの周囲に、透き通った蒼の壁が現れた。 火炎球は青海壁に当たると、音を立てて消えた。 「炎の魔物か」 「厄介ですね、ティナの剣でとどめを刺すのは無茶でしょう」 そう言いつつも、二人は攻撃のタイミングを計っている。 ルナシュアは戦いの中の三人を直に見るのは初めてだった。 自然と口端があがってしまう。 嬉しさと、頼もしさと……混ざり合った喜びだった。 「ったく……大気中に住みし水精よ、我が力となり敵を切り裂け、水龍刃(すいりゅうじん)!」 振り上げた杖の先で水分が凝固し、青い刃を作る。 水でできた刃は、ミケルの思い描いたまま上空から魔物の頭を襲った。 よろめいた魔物の胸をすかさずティナは斬る。 だが、深い傷をおわせることはできなかった。 「ティナ、もういいですよ。空に住みし風精よ、我が助けとなり敵を切り裂いちゃって下さい、真空刃(しんくうじん)!」 ティナはアレスの言葉を聞き、後ろに下がった。 そのすぐ後、ティナの切りつけた傷口に透明な風の刃が容赦なく当たる。 傷口に塩を塗り込むようなモノで……耐えきれなくなった魔物は、最後の声を上げて崩れ落ちた。 「よしっと」 ティナは剣を背中の鞘にしまうと、上に大きく伸びをする。 「これだけ痛めつければ、当分起きないでしょうね」 どうやら、完全に殺したわけではないらしい。 最終確認に杖の先で魔物をつついたミケルが、安堵したように声を漏らした。 「だな」 訪れたはずの平和は、そう長くは持たなかった。 「……どうでもいいコトですが、さっきの魔物、一匹だけじゃなかったみたいですよ」 どーでもいいコトじゃない! と、ティナとミケルが同時に言い放った時、足音が聞こえた。 三人を見ていたルナシュアも、少々困ったような笑みを浮かべる。 「うっそ、あんなにいっぱい!」 音で何匹かを数えたティナが、声をあげた。 「いっぱいって、せいぜい5・6匹だろ?」 うんざりとした顔で、ティナは首を横に振る。 ミケルの顔が引きつった。 「げ……マジかよ」 「さっきと同じのが、いっぱい……大体10数匹」 「……えっと、ティナ。大丈夫かしら?」 遠慮がちに、ルナシュアが口を挟む。 最悪の場合は自分も戦う覚悟を持って。 「大丈夫だよ、ルナシュア姉様。ここで待ってて。ミケル、アレス」 「仕方ねぇなぁ」 「まったく、暇ですね、魔物達も」 全員に防御魔法をはり、アレスは茂みの方を向く。 それに加え、ミケルはルナシュアの周囲に結界を施すと、そこを動くなよ、と念をおした。 「じゃぁ、さっさと終わらせちゃお」 軽い運動程度だ、と意気込むティナ。 「だな。ついでに、誰が早いか競争だ!」 愉しそうに笑うミケル。 「競争ですか? まぁ、良いですけど。じゃ、いきますよ!」 反対はせずに、どちらかというとそのゲームに乗ったことを示すアレス。 三者三様の思惑を抱えて、ルナシュアのいる場を中心に、三方向にわかれた。 back top next |
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