第1話 『我ら北へ進軍中』

 ルナシュアと会った町をでると、国境まで森を歩くことになった。

 そうなると、必然的に魔物と戦う羽目になる。

 三人にとっては、今までと同じことなのだが、今は少し違った。

「ルナシュアねえさま、そういえば、戦えるの?」

「えっ?! そうねぇ……」

 ルナシュアが誤魔化そうと考え込んだ時、近くの茂みで音がした。

 一瞬にして、四人に緊張が走る。

「魔物、か?」

「わかんないよ」

 杖を横(防御の形)に構えたミケルの横で、ティナが答える。

 音はほんの一瞬で、判断材料としては物足りなすぎる。

「味方ってことは、ないと思いますけど」

「まぁ、どっちにしろ俺の敵じゃねぇな」

 自信満々なミケルに、アレスは絶対零度の微笑みを向けた。

「じゃぁ、一人で倒してくれます? ミケル」

「……じょーだん。んなこと、誰がやるかよ」

 相変わらず、アレスの笑顔には勝てないが、ようやく対応の仕方を覚えたようだ。

「あれ? どっか行ったみたい」

 先頭で剣を構えていたティナが、振り向いた。

「はぁ?」 「ええ?」

 思わず二人はマヌケな声をあげてしまう。

 その反応が気に入らなかったのか、ティナは口をとがらせた。

「だから、どっか行っちゃった」

 剣を鞘にしまい、つまらなそうな顔をしている。

「ホントか?」

 ティナがホントだよ! と、こたえようとした時、後方(ルナシュアのいる方)に、陰が揺らめく。

 身の丈が人の2・3倍もある魔物が現れた。

「後ろ?! ルナシュアねえさまっ!」

 ティナは即座に剣を抜くとルナシュアと魔物の間にわって入った。

 ヒュッと風が鳴る。

「ティナ、気をつけて下さい!」

「わかってる。てぇぇぇ〜い!」

 ティナはでてきた魔物の腕に、斬りかかった。

「一匹…だけか?」

 ようやく、状況に慣れ後ろを向いたミケルは、横のアレスに聞いた。

 杖の防御の形は崩していない。すぐにでも呪文を唱えれば、完全な防御は完成する。

 しかし、横のアレスも同様の構えをとっていたので、すぐにそれはやめてしまった。

「おそらくは。ただ、油断はできません。ルナシュアさん、こっちに」

「え……あ、はい」

 呆然と目の前の光景を見ていたルナシュアは、いきなり現実に引き戻された。

 防御はアレスに任せ、自分は得意な攻撃に回ることに決めたミケルは、クルクルと杖を回して、楽しそうに笑った。

「ティナ、よけろよ! 大地に住みし土精よ、我が力となり敵を切り裂け、土狼刃(ちろうじん)!」

 周囲の地面が盛り上がり、茶色い刃を形成する。

 大地を走る砂の刃は、地面を蹴ったティナの下を通り魔物に当たった。

 人でないモノの、叫び声が轟く。

 しばらく痛がっていた魔物は、四人を見据えると火炎を吐いた。

 人の顔の大きさほどある火炎の球が、無防備に見えたのだろう、アレスの方へ向かう。

「大気中に住みし水精よ、我が助けとなりみんなを守って下さい、青海壁(せいかいへき)!」

 慌てず騒がず、淡々と呪文を唱えたアレスの周囲に、透き通った蒼の壁が現れた。

 火炎球は青海壁に当たると、音を立てて消えた。

「炎の魔物か」

「厄介ですね、ティナの剣でとどめを刺すのは無茶でしょう」

 そう言いつつも、二人は攻撃のタイミングを計っている。

 ルナシュアは戦いの中の三人を直に見るのは初めてだった。

 自然と口端があがってしまう。

 嬉しさと、頼もしさと……混ざり合った喜びだった。

「ったく……大気中に住みし水精よ、我が力となり敵を切り裂け、水龍刃(すいりゅうじん)!」

 振り上げた杖の先で水分が凝固し、青い刃を作る。

 水でできた刃は、ミケルの思い描いたまま上空から魔物の頭を襲った。

 よろめいた魔物の胸をすかさずティナは斬る。

 だが、深い傷をおわせることはできなかった。

「ティナ、もういいですよ。空に住みし風精よ、我が助けとなり敵を切り裂いちゃって下さい、真空刃(しんくうじん)!」

 ティナはアレスの言葉を聞き、後ろに下がった。

 そのすぐ後、ティナの切りつけた傷口に透明な風の刃が容赦なく当たる。

 傷口に塩を塗り込むようなモノで……耐えきれなくなった魔物は、最後の声を上げて崩れ落ちた。

「よしっと」

 ティナは剣を背中の鞘にしまうと、上に大きく伸びをする。

「これだけ痛めつければ、当分起きないでしょうね」

 どうやら、完全に殺したわけではないらしい。

 最終確認に杖の先で魔物をつついたミケルが、安堵したように声を漏らした。

「だな」

 訪れたはずの平和は、そう長くは持たなかった。

「……どうでもいいコトですが、さっきの魔物、一匹だけじゃなかったみたいですよ」

 どーでもいいコトじゃない! と、ティナとミケルが同時に言い放った時、足音が聞こえた。

 三人を見ていたルナシュアも、少々困ったような笑みを浮かべる。

「うっそ、あんなにいっぱい!」

 音で何匹かを数えたティナが、声をあげた。

「いっぱいって、せいぜい5・6匹だろ?」

 うんざりとした顔で、ティナは首を横に振る。

 ミケルの顔が引きつった。

「げ……マジかよ」

「さっきと同じのが、いっぱい……大体10数匹」

「……えっと、ティナ。大丈夫かしら?」

 遠慮がちに、ルナシュアが口を挟む。

 最悪の場合は自分も戦う覚悟を持って。

「大丈夫だよ、ルナシュア姉様。ここで待ってて。ミケル、アレス」

「仕方ねぇなぁ」 「まったく、暇ですね、魔物達も」

 全員に防御魔法をはり、アレスは茂みの方を向く。

 それに加え、ミケルはルナシュアの周囲に結界を施すと、そこを動くなよ、と念をおした。

「じゃぁ、さっさと終わらせちゃお」

 軽い運動程度だ、と意気込むティナ。

「だな。ついでに、誰が早いか競争だ!」

 愉しそうに笑うミケル。

「競争ですか? まぁ、良いですけど。じゃ、いきますよ!」

 反対はせずに、どちらかというとそのゲームに乗ったことを示すアレス。

 三者三様の思惑を抱えて、ルナシュアのいる場を中心に、三方向にわかれた。



back top next

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送