しばしの沈黙が訪れた。 否、全員がその事実に驚き、何も言えなかったのである。 「なっ……」 「何を突然」と言いかけて、ミケルは言葉を飲み込んだ。 父が嘘を語るはずがない。全てを話すと言ったのだから。 たとえ、信じられずとも今は聞くしかないのだ。 「続けるぞ……俺自身もウェクトの血は引いている。と言っても、2代目だがな」 ウェクトで生まれた子供を1代目とし、国から逃げた後生まれた、もしくは混血だと、アバルは言いたいのだろう。 「俺の見る限り、君は……ティナちゃんは、3代目だな? 少々、外の気が混じって、影響が出てる。だから血が薄れだしていると見える」 先程見ただけで、そこまで分かるのかという疑問を抱いたが、ティナは頷いた。 自分が3代目であることは、村で母 シェイナから聞いていたのだ。 歳から考えても、頷けることだった。 「だがミケル。お前は違うんだ……お前は1代目なんだよ。しかも、かなり強い力を持つ、巫女の血筋のな」 ティナとアレスは思わずミケルの方を向いた。 二人もだが、ミケル自身驚きを隠せない。 ウェクトの血を引いている……しかも、純粋な1代目。 この事実に、混乱するのも無理はない。 だが、一つだけそれが分かったことで納得のいく事柄があった。 カロン島の神殿で鍵の文字を読むことができたのは、ミケルだけだった。 同じ条件のティナが読めなかった理由が、1代目と3代目の違いにあったのだ。 「いいか、今言ったのが、ある意味でお前達の質問への回答だ。だが、こいつは漠然とした答えでしかない」 息を切らしたアバルは、お茶を一口飲んだ。 「どうしてこうなったかを全て話す。それを聞いてどうするかは、お前達次第だ」 三人はそれぞれ頷く。 「あと話が終わったら、今何が起きているかを説明してもらうぞ。一応俺も関係者だろ?」 確かにウェクトの者となれば今回のことは関係者である。 ティナはとっさに首を縦に振った。 アバルはにわかに微笑むと話を始めた。 + + + それはまず蒼瑠璃1056年の春の華月までさかのぼる。 ウェクト復活計画の準備が裏で順調に進んでいる頃である。 まず、沈んだウェクトに力を注ぎ復活させる者というのが造られた。 その者は、ウェクトを復活させるだけでなくそれ以外のこともできるよう造られていた。 全ての魔法を操ることもでき、また人を操る術を持つ……そんな万物の神のような生物である。 それは、人の形をとってはいたが、決して人と呼べる者ではなかった。 造られた者はその後目覚める前に厳重にフリエラ川に封印された。 封印するまでは良かったのだが、ここで一つ問題が起きた。 力を注ぐ者がいたとて、ウェクト浮上は困難である。 そのため、主謀者達は国を囲う塀を利用し、簡単な仕掛けを作った。 塀に強力な魔法をかけ、ある一ヶ所に力を注げば国が浮き上がるようにしたのである。 その一ヶ所にあたるものを「鍵」と呼んだ。 この「鍵」は物でも魔法でもなかった。 復活のその日までに壊れたり消えてしまっては意味がないからである。 だからこそ、一番確実な人を使うことに定めた。 鍵である人……それは志願者を募るわけにはいかなかった。 なぜならば、迷いや本人の意志が鍵となる際に生じてしまうからだ。 だから、生まれて半年に満たないまだ自我の芽生えていない赤ん坊が適役だった。 さらに、それなりの血筋もしくは力を持った者という限定がなされた。 ウェクトを浮上させるだけの力を注ぎ込まれるのだ、簡単に壊れてしまうような凡人ではいけない。 そこで、この計画で一番重要な役の白羽の矢が立ったのが、巫女の一族に生まれたばかりのミケルだった。 ミケルの母であるミルファーレは巫女の中でも最高位である、神の中の神に使える ミスティカルであった。 また父は、占いや魔力の高いと言われる血筋の者だった。 最高位の巫女の血筋、父親もまた強き者。 誰も文句は言えなかった。 続いて持ち上がったのは、鍵としての能力をその身に宿したミケルを計画実行までどうするか……という課題。 だが、それをクリアすることは簡単だったのである。 ウェクトには時間移動の技術があった。ただし、守護の……しかも強力な守護の加護が必要だった。 ある程度の力を持っていない守護では、時空の歪みに潰されてしまうのだ。 幸い、ミルファーレの守護は水系守護の最上位 水龍。 だから、親子共々未来へ送られることが決定した。 だが時間移動を行うだけではいけなかった。きちんと、ウェクト復活の時期に間に合うような時間へとゆかなければならない。 それには、先読みのできる占い師が必要だった。 守護は問わぬと言われ、選ばれたのが当時一番力のあるとされた占い師……ルナシュア。 ミルファーレの友であった彼女は、すぐにそれを承諾した。 全ての準備が整うと、時間移動の魔法は実行に移された。 そして……ルナシュアとミルファーレ、そして鍵であるミケルは、この時代のケティアにやってきたのである。 back top next |
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