翌朝。 朝食を作りに来たクラフが驚いた顔をしていた。 居間に顔を出した三人はそろいもそろって、寝不足の顔をしていたからである。 昨夜は早々に家へ戻ったというのに、どういうことなのだろうか? 「ね、寝てないんですか? 三人とも」 眠たそうに目を擦りつつ、ティナは「うん」と答えた。 ミケルはあからさまに不機嫌な顔をして、これでさとれ! と、クラフを睨むだけにとどまる。 アレスなど器用なことに、片目だけを開けた状態で寝ていた。 クラフが確認し納得した様子を見た時、三人は顔を合わせた。 「二人も寝てないの?!」 「そう言うお前だって、寝てないのか?!」 「偶然にしては珍しいですね」 いつの間にやら現れたアバルは一部始終見届けてから、呆れていた。 加えて、朝から不機嫌そうな顔を見て、げんなりしている。 「お前らなぁ……そこまで悩むか? 普通」 「そこまでって……オイ、親父! 問題ふっかけといて、他人事のように流すんじゃねぇ!」 「ほぉ。お前がそこまでデリケートとは知らなかったぜ?」 「いったな、このヤロー!」 どこからどう見ても親子喧嘩にしか見えない喧嘩を繰り広げるアバルとミケルを見て、クラフは微笑んだ。 このまま変わらず、ミケルがずっといてくれることを願いつつ。 また、その願いが叶わないとも分かっていつつ。 クラフの作った冬野菜のスープとこんがり焼けたパンを頬張りつつ、ティナは何かを捜していた。 食事をとりつつ、というのがあまりに行儀よくはなく、ミケルは口の中身が無くなると、口を開いた。 「どうかしたか? ティナ」 「ん〜……ひろふろへほは」 「ちゃんと、食ってから言えよ」 「んぐっ……昨日の猫が、いないな〜と思っ……んっ」 いきなり飲み込んだ所為で、言ってからティナはむせてしまった。 慌ててスープを喉に流し込む。 熱々でなくて助かったと思ったのは、それを飲み込んでからだった。 「そういえばいませんねぇ」 「ああ、猫なら今朝方、どっかに行ったぞ」 アバルが今思い出した風を装って、言った。 『空を飛んで』などとは口が裂けても言えないだろうが。 「そっかぁ、もういないのか」 ティナはとても残念そうに、ため息をついた。 おそらく、猫が自分になついてくれたと思っているだろう。 だが、実際はどうだろうか? ミスカルが猫に化けた上でただ単に居心地が良かっただけなのかもしれない。 もしくは、油断したところを狙っていたと言う可能性もあるわけである。 「っと、いけねぇ。そろそろ行かねぇと」 アバルはバタバタと出掛ける用意をしだした。 「親父、どっか行くのか?」 「仕事に決まってんだろ!」 遊びに行くのか? と言いかけたミケルの頭を叩き、アバルは玄関まで行くと振り返った。 「お前らすぐに旅に出るとか考えてんだろ。せめてもう2・3日此処にいろ。いいな!」 「「「ええっ?!」」」 三人の納得のいかない返事もろくに聞かず、アバルは扉を開けた。 「んじゃ、行ってくる。クラフちゃん、あとよろしくな!」 「はい。わかりました」 何がよろしくなのはともかく、いつも通りの対処でクラフは、アバルを外まで見送った。 しんと静まり返った居間で、三人は顔を寄せ合う。 あの言い方では、勝手にでていったところで追いかけてきそうな予感がした。 「どうするの?」 「どーするもこーするも……まさか、親父がああ言うとは思ってなかったからな」 「いっそ、休息日。いや、休息週間にしちゃいます?」 「何じゃそりゃ。オイ、アレス……ふざけている場合か?」 「ふざけてませんよ。かなり本気です」 アレスが久々に語尾にハートをつけた……と、ティナは思った。 あの笑顔は久々だ。自分に火の粉がかかるのは嫌だなぁと、ちょっぴり考える。 話は二人が進めそうだからと、ほぼ空になった食器を、重ねて台所に移動させた。 「たち悪いって。相変わらず」 「思うに、ここから先休める所がないじゃないですか」 ミケルの発言をさらりと流し、アレスは荷物から地図を取り出すとテーブルの上に広げた。 そして、行く予定の道を指し示す。 慌てて戻ってきたティナは、二人の正面に回りのぞき込んだ。 次の行く方向は決まっていた。 おそらく敵がいるのはウェクトに近い辺りのハズ。 となると、南東に向かうのが打倒だった。 ここ、ケティアから南東というと、スシャラ国内を通らずケトラ砂漠を通ることとなる。 大陸に一つだけある砂漠はスシャラ国の南側にそって東西に長く存在していた。 噂によるとケトラ砂漠の中心にはオアシスがあり、そこまで木々の生い茂る一本道があるという。 砂漠の中心にも関わらず、木は枯れず花も咲き誇っているという。 そして、そのオアシスから流れる川が、フリエラ川と合流していることも、わかっている。 オアシスから川を辿り、その後フリエラ川を辿るつもりだった。 「あ、そう言えばそうだね。この道の中に村があるとも思えないなぁ」 「……確かに言えるな」 「それと」 アレスは荷物の中から、革袋をとりだした。 「現実問題、町もないところを行くので、食料を多めに調達したいんですが、資金不足です」 「「は?」」 ティナとミケルが驚いた顔をしている。 アレスはにこにこしながら、嘘だったらどんなに良いことか……と呟いた。 金銭管理はアレスの役目だったので、関心を持ってなったのも事実である。 ついこの前の村で、かなりのお礼金を貰ったので平気だと考えていたのもあった。 「ということで、休息週間中に最低でも1000……いや、1500フィル集めましょう。食料のついでに、それを運ぶ生き物も欲しいですから」 1500フィルと言ったらかなりの大金である。 宿屋に一晩三人で泊まるのがおよそ30〜50フィルだ。 そのおよそ30倍。単純計算からしても、どうやってそれだけを稼げと言うのだろうか。 それに、気になることはもう一つ。 「運ぶ生き物って馬を買うの?」 「それもいいですが、戦力に欲しいので、召喚獣系にしようかと考えているんです」 「アレス……召喚獣の卵を買う気か?」 あれは、普通の馬より高かったハズと、ミケルは言いたいらしい。 「卵じゃ、間に合いませんよ。だから、もう生まれているのならと」 「んな都合よくいるかよ」 このミケルの言葉が撤回されるのも、時間の問題だった。 + + + 数日後、アレスの言った通りの金額がたまると、三人は町に出掛けた。 何をどうしたかは覚えていないのだが、とにかく目標金額までたまったのである。 しかし、同時に疲労も少々蓄積されたのだが、許容範囲内ではあった。 魔法道具(マジックアイテム)を売る店の中で一際大きい店にミケルは案内してくれた。 店の端の方にいた、眠っている小さな仔馬を見つけたのはティナだった。 大きめのぬいぐるみほどで、ティナが楽々抱ける大きさだ。 店主によるとその仔馬は本来の大きさではないと言う。 大地の力を持つ土馬の一匹らしい。 どういう訳か相性の良い者が現れず、売れ残っているということだった。 属性的に言えば土系が良いと考えていた、ミケルとアレスはその仔馬にすると結論を出した。 ミケルがこの町の魔法使いだったこともあり、店主は快く割り引いて、150フィルで売ってくれた。 残る問題は誰が土馬の主となることだったが、これは仔馬が目を覚まさない限りどうにもならなかった。 しかも、下手して急げば、土馬が三人の中で誰かの召喚獣となることを、拒絶する心配もあった。 ひとまず土馬をティナが抱え、他の買い物を済ますことにしたのである。 果実屋では長持ちをしそうな実を沢山、肉屋では干し肉を、魚屋では干物をそして、お菓子を食料袋とは別の袋一杯に買った。 最後に塩や砂糖などの調味料をそろえ、帰路についたのだった。 back top next |
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