第6話 『最後の仲間』

 やがて日は沈み、また一日が終わろうとしていた。

「ああ、親父。明日オレ達出発するからな」

 仕事から帰り、遅い夕食をとっていたアバルにミケルは話しかけた。

「んあ?」

「いっとくが冗談じゃねぇからな。これ以上ここに留まるのは。あんまゆっくりもしてらんねぇんだよ」

「そうか」

 ヤケにあっさりと納得するアバルにミケルは驚いた。

 数日前きっぱりとここに残れと言った割に、今回は引き際がよすぎる。

 訝しげに見るミケルを鼻で笑うと、アバルはスプーンを置き、肘をついた。

「良いんじゃないのか。お前らが思うようにすれば」

「……っじゃぁ、なんで引き留めたんだよ!」

 堪えきれずミケルはテーブルを叩いた。

「休息が必要だと思ったからさ。お前もアレス君もそうだが、なにより……ティナちゃんがな」

 気付かなかったのか? と言うように、アバルはミケルを見上げた。

「もし平気そうに……いつも通りに見えていたなら、随分頑張ったんだと思うぞ、ティナちゃんはな。その辺少しは気づかってやれよ」

「んなこと……わかってる」

 しかし、どうしてもこの父親には敵わないことが分かって、不服そうな顔になってしまう。

 それに気づいてか、アバルは唇の端を少しあげた。

「じゃ、さっさと寝ろよ」

「ああ」





 そのころ上の部屋ではティナとアレスが土馬との契約を行おうとしていた。

 つい先程目を覚ましたからだ。

 だが、まだ大きさはぬいぐるみのままだった。

"名前……ラグ……いう"

 会話になれていないのか、喋り方がどこかぎこちない。

"主選ぶ……ラグ……合う者……いない"

 ティナとアレスは応対に困っていた。

 召喚獣の方から、きっぱりとあう者がいないと言われてしまったのである。

 しかし、ここで諦めてはいけない。

 ラグの近くに座っていたアレスが候補者として名乗り出た。

「僕じゃ、ダメですか? えっと……ラグ」

 アレスは手袋を外し、聖なる珠(ホルオーブ)の埋まる右手を差し出した。

 ラグはしばしの間何かを確かめるような素振りを見せる。

 ややあって、頷くような動作が見受けられた。

"ラグ……主なれる……水……匂い……する"

「それはカイです。僕のもう一人の召喚獣、水狼。平気ならば、ラグ。契約の紋をいただけますか?」

"承知……外……だす"

 ラグは頷くと窓を指した。

「外? なんで?」

 不思議そうにティナが尋ね返した。

"姿……戻す……紋……呼ぶ"

「分かりました。姿を戻さないと紋は頂けないんですね。ティナ、外に行きましょう」

「うん!」

 ティナがラグを抱え、二人は下に降りた。

 丁度アバルと話を終えたミケルと、階段の下で会うことになった。

「どうかしたのか?」

「ラグが……えと、土馬が、元に戻らないと紋を呼べないと言うので外へ」

 それだけアレスが言うと、ミケルは納得したらしい。

 そして、表ではなくラグのことを考え土の多い裏庭を教えてくれた。

 アレスにランプを渡すと、「先に寝るぞ」とだけ言い残し、上にあがっていった。

 この時、ミケルは何故かティナの頭を2・3度撫でていった







 裏庭につくと、ティナはすぐにラグを降ろした。

"もう一つ……頼み……ある"

「なんですか?」

 ランプをティナに渡し、アレスはラグの方を向いた。

"土精……ここ……喚ぶ"

「分かりました」

 あらかじめ予想はしていたのか、アレスは杖を持ってきていた。

 深呼吸をし、心を落ち着かせると、すぐさま土精を召喚し始めた。

「大地に住みし土精よ、我が助けとなり姿を現して下さい……召喚!」

 闇の中、アレスの杖についた水晶が一瞬淡く光った。

 ボコボコという音が聞こえると、土が盛り上がり、それを突き破って土精が現れた。

 大地と同じ色の目と長いバラバラの髪。とがった獣のような耳。首と手首には黒く光る輪。木の幹の色に似た袖無しに、茶色の混じる緑色の長ズボン。腰にはズボンが隠れる布を巻いている。

 そして、いつも通り手のひらにのるサイズである。

"お呼びかい?"

 土精は周りを見渡すと、すぐにラグを見つけた。

"おや、随分力を封印した召喚獣じゃないか。大丈夫か?"

 同系だからか、心配そうに覗き込む。

 その姿を確認すると、ほっとしたようにラグは目を細めた。

"土精……ラグ……封印……解く……力……貸す……頼む"

"ああ、成る程。それで喚んだのか。それぐらいおやすいご用さ"

 土精は手をラグの額に向け、何かを呟いた。

 次第に土精霊を介し、土の力がラグに集まっていく。

 十分にそれがたまると、ラグ自信から光が零れ始めた。

 封印を解き、さらに無くなっていた大地の力を吸収したラグは、見る見るうちににとんするとき込んだので外へ…すが…資金不足です?大きくなっていった。

 そして、本来の大きさ――成長した立派な馬の姿がそこにあった。

 全身は淡い土色で、ところどころ焦げ茶の亀裂に見える模様が走っている。鼻の頭も焦げ茶色で、額には土系を現す五角形が刻まれ、瞳とたてがみは琥珀色だ。

 見る者を感嘆させる容姿だった。

"面目ない。土精の手を煩わせることになるとは"

 立ち上がったラグから漏れた声は、辿々しいものではなく、かなり落ち着いたものだった。

 卵から生まれ、大分経っているといった店主の言い分は正しかった。

"かまわないよ。用はこれだけみたいだな。また何かあったら喚んでくれよ"

 元気になったラグに一安心し、土精は砂球となり、消えていった。

 ラグは二人に歩み寄ると、首を下げた。

"先程はとんだ無礼を。小生、一生の不覚であった"

「いいえ、誰にでも失敗はありますよ。それよりもラグ、今度こそ紋を頂けますか?」

 ラグの変貌ぶりに驚くことなく、アレスは微笑んだ。

 ティナはというと……まぁ、当然のごとく戸惑っている。

"そうであった。右手を出していただけるか?"

「はい。どうぞ」

 袖をめくり、手袋を外したままの右手を差し出した。

"では参る……土紋来闇(どもんらいおん)!"

 咆吼に似た呪文と共に、ラグの額にあった五角形が茶色い光を放った。

 ふわりと浮かび上がる紋様。

 それはアレスの右手にゆっくりと吸い込まれていき、五角形の上に稲妻の走る形をした紋が浮き上がった。

"これで、アレス殿は確かに小生の主となったわけだ。ふつつか者ではあるが、以後よしなに"

「よろしくお願いします」

 そのまま二・三言葉を交わし、アレスは明日出立する旨をつたえた。

 明日出発なら、一晩外で力を蓄えたいというラグを裏庭に残し、二人は家に入ることになった。

 ティナは中に入ってから、「小さいときの方が可愛かった気がする」と、アレスに文句を言った。

 その時アレスは、苦笑いを浮かべるだけで、何も答えなかった。





 翌日、朝方に三人は家を出発した。

 食料をラグにのせ、カモフラージュのため町中を行く間、轡(くつわ)をつけて貰った。

 轡(くつわ)をつけていれば、土系であるため外見は普通の馬そっくりだったからである。

 昼前には国境の門を抜け、スシャラ国に別れを告げた。







 + + +







『さあ〜って、そろそろ計画も大詰めだね』

 かの地では、ミスカルがスシャラ国を出る三人を見て、楽しげに笑っていた。



  最後の星は、ようやく己の真実を見つけた

 巨大な闇が傍で見え隠れしだしていることを知らずに

 休息の日は星達に最後の癒しをあたえた



 これからの決戦に向け、また星達は流れて行く



 明るい未来を信じて


第8章 終わり



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