第1話 『道すがらの戦い』

 召喚獣とはいえ、攻撃が得意なものもいれば、防御がとくいなものもいる。

 それは魔法使いの性質にもよるが、やはり召喚獣個々の能力が鍵だった。

"小生はここにて、荷物を死守いたす"

 数度戦闘を経験していれば、ラグの能力が何に秀でているかも当然分かってきていた。

 彼は攻守共に力強いが、土属性ということもあってか防御力はかなりたかい。

 魔法使いよりも強固な結界を創り出すこともできた。

「助かります。お願いしますね。それから、気をつけて下さい!」

"承知。アレス殿も、気をつけて下され!"

 アレスは頷くと、急いでティナとミケルの元に走っていった。





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 『オアシスに続く道』に入り数日。

 敵は進む先――ウェクトの方からやってきた。

 おそらく力を持つ者が、送り込んできているのだろう。

 魔法の使える獣やら、人に近く言葉を話す泥人形やら……こちらがあきれるほどのバリエーションも用意されていた。

 あまりの敵の多さに、さすがのラグも不審に思ったらしく、結果的にウェクトとの関わりを話すことになった。

 世界を見たことがないとはいえ、召喚獣の端くれ。精霊にでも話を聞いたのか、大陸の大まかな歴史は詳しかった。

 だからこそ驚いてもいたし、また三人の力を目の当たりにして、一人何か納得したようだった。





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 今は昼時、人にとっては動きやすい時間である。

 空腹だった場合は少々ピンチなのだが、今のところティナのお腹には若干の余裕があった。

 剣を構え助走をとると、自分の身長よりも大きい獣へ飛びかかった。

「てぇぇぇい!」

 いつもならば腕を切り落とすティナの剣は、強固な体に阻まれた。

 手がビリビリとしびれる。

 体は毛に覆われていたが、その下に鱗でもあるのだろうか。

「……嘘っ!」 

 腕を蹴ってなんとか獣から離れたティナは、初めいた位置よりも五歩後ろに下がった。

 剣は傷んでないようだが、あまり斬りつけていると刃こぼれをしてしまいそうな気がする。

 ちらりと、横のミケルに視線を送った。

「頑丈だよ、こいつ。どうするっ?」

「そっちで、どうにかしろよ。こっちだって手いっぱ……水槍撃(すいそうげき)!」

 ティナの正面の大きな獣ではなく、脇を飛ぶ赤い鳥型の獣を狙っていた。

 先ほど火炎を吐いたあの鳥は、どうにか落としてしまいたい、そう思ったからである。

 無数の水の槍が、鳥の翼を貫いた。

 「ギャァ」という声を上げた鳥は、すぐに飛行能力を失い、地面に落下していった。

 やはり、翼は炎でできていたらしく、水系の攻撃によって消し去れたらしい。

 ミケルは、頭上を飛び交う邪魔者がいなくなったことに、満足そうだった。

 完全に囲まれているわけではないが、敵の方が数は俄然多い。

 獣に囲まれるようなことは、以前の旅の途中でもあったことなのだが、問題は魔物の強さの方だった。

 『力を持つ者』の創り出した獣は、通常野生にいるそれよりも数倍強いのである。

 ミケルが呪文を省略しているのも、その所為だった。

「真風弾(しんふうだん)!」

 その時、獣の一角が切り崩された。

 影がそこを飛び越えて、二人のそばに着地する。

「すみません、遅くなりました。このままでは、らちがあきませんね」

 ようやくアレスが攻撃に加わった。

「そうだね〜。なんか、日ごとに時間かかるようになってる気がする〜」

 剣に炎を纏わせながら、ティナは文句を吐いた。

 言いたいことはたくさんあるのだが、あまりそんなことに時間を割いている場合でもないのだ。

「んなの、わかってる! そういやぁ」

 ミケルはふと、あるコトに気がついた。

「アレス、確か召喚獣がいるとか言ってたよな」

「ええ。カイが……こちらの戦闘員を増やす、ということですか?」

 のんきに話をしている二人だったが、獣の攻撃が襲いかかれば、ひょいと避ける。

 相手が人間ならば、ヤジの一つや二つ飛びそうな所だが、相手は魔物。

 悔しそうに唸り、さらに攻撃をしてくるだけだった。

「ティナ、敵を引きつけられるか? オレが援護はする」

「わかった。で、アレスは?」

「その間にカイを喚びます。ティナ、お願いします」

「了解! せぇぇぇいっ!」 「砂走刃(さそうじん)!」

 ティナは余裕の笑みを浮かべ、再び剣を構えると、魔物の集団に向かっていった。

 周囲から襲い来る相手をどかすため、ミケルが攻撃魔法を放つ。

 大地を走る茶色い刃は、目くらましの代わりだった。

「……我が左手に水紋を預けし水狼 その名をカイ。今我が助けとなるべく、姿を現して下さい! 召喚!」

 ずいぶんと久々に、召喚獣の召喚魔法を使ったような気がする。

 アレスはしっかりと、目の前の地面に現れる左手にある水紋と同じ模様を見据えた。

 そこから水が湧き出、その中から狼の姿が現れる。

 青いたてがみ、銀の牙、額には藍玉、水晶のような薄い蒼の目、足には鋭い爪、長い尾もある。そして、体全体が水に濡れていた。

 水狼 カイはアレスを見上げると、目を細め微かに笑った。

"久しぶりだな、アレス"

「ええ、お久しぶりです、カイ。急ですみませんが、戦っていただけますか?」

"それ以外に、我を喚ぶ理由があるのか?"

 アレスは、それもそうですね……と言いたげな顔をする。

 そのまま簡単にことのあらましを説明すると、カイは僅かに頷いた。

"そういうことか。ヌシの頼み、聞き届けよう"

 カイは獣達の相手をする、ティナの足元へ駆けていった。





「……っはぁ……はぁっ」

 獣の山も築けてはいたが、さすがのティナも、息を切らし始めていた。

"少々、下がっておれ"

 リンと響く声に待ってましたと、ティナは剣をひいた。

 さすがの魔物達も、勢いに負けてか少々慎重になっている。

 ティナを追おうとはしなかった。

"水剣の龍(ウォルソードラゴン)!"

 カイは言葉を発した後、前足を地面にたたきつけた。

 声に導かれるかのように、カイの足元から七つの龍型の水流が現れる。

 それぞれ光の反射で色が若干違う風に見えるのだが、まぁ今はそんなこと関係がない。

 その水は、意志を持つ剣のごとく獣達を襲い始めた。

 水龍の行方を追い、カイも自らの牙を振るい始める。

 獣と獣同士の戦いだ……また何か違う戦闘の形が成り立とうとしていた。

「ティナ、大丈夫ですか?」

「うん、へーき。ちょっと疲れたくらい」

「じゃ、ラストスパート行くぞ!」

 カイの登場は、三人にとってかなり優位な状況を作り上げていた。

 ちょっとした休憩の後、攻撃を再開したのである。



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