第七十五話

 月日の過ぎる物は早いもの。

 そして、私がこの物語を語ったのも、幾度目のことだろうか



「ねぇ、それで? 女の子はどうなったの?」 「ねぇねぇ!」 「話してよ、おばば〜」

 幼い子供達が数人、一人の老人を囲んでいた。

 それは晴れた、ある日の午後。

 知らぬ物語を求める子供に、話して聞かせた昔話。

「その後かえ? 少女は未開の地で暮らしたんじゃ。新たな光を見つけてな」

「「「ふ〜ん」」」









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 去りゆく子供を見送って、老人は立ち上がるとその場を後にした。

 この村の住人ではないのだが、そのことに誰も気づいてはいない。

 森にはいると、かぶっていたフードをとりさった。

 中から姿を現したのは、老婆ではなく一人の女性。

「……疲れた。まったく、語りのババというのも、疲れるものね」

"あら、ルーナ。変装は得意でしょう?"

「それとこれとは別問題よ。あなたは見てるだけでいいんでしょうけど」

 腕を伸ばすと、ルナシュアは空を見上げた。

「どうなったの? ……か。見たことしか語らない私に、それを聞くのは、ねぇ?」





 時はもうすでに蒼瑠璃1207年 朱珊瑚では151年 あの出来事から50年

 ルナシュアは50年前と変わらぬ姿で、大陸を旅していた。

 勿論、風鳥が常に見えないながらも側にいた。

 その目的はただひとつ。

 50年前にあったこと全て、自分の見た全てを物語として、語り回っているのである。





「で、フート。火馬の元にティナがいるというのは本当なの? 神龍山(シンロンザン)の中なんて、どれだけ広いんだか」

"あの子が嘘をつくことも、ないでしょう。付け加えて言えば、あそこの時間はおそろしくゆっくりだそうよ"

 その言葉に、さすがのルナシュアも、固まった。

 今、風鳥――フートはなんと言った?

「……一体どういう無茶苦茶なの?」

"さて、それは見てみないとわからないから。あの空間の住人は、時を忘れて生きているのよ"

「遠回りしたわりに、あっちもそれほど歳をとってないってこと?」

"ええ"

 見ている者はいなかったが、ルナシュアの口は開いたままふさがらなかった。

 しかし、それでも久しぶりにあえるのだから……とも思う。

 天運を変えた少女が、どうしているのか気になるから。

 決意を胸に、語り部の女性は、神龍山へと向かっていった。









 天運を絶対と思いその中で生きる者達は、その定めを変えられることを知らない。

 だが、少女のように、自らの意志で道を選び変えることもできるのである。





 人はおそらく、そんな者にあこがれを持つであろう。



 語り継がれる、物語を聞きながら。



 物語は、のちに大陸全土に知れ渡ることとなる。

 そしていつの間にか、口伝えの伝承ではなく本など形として残されてゆく。

 小さき少女の星の話と共に…





天運の中に 終


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