月日の過ぎる物は早いもの。 そして、私がこの物語を語ったのも、幾度目のことだろうか 「ねぇ、それで? 女の子はどうなったの?」 「ねぇねぇ!」 「話してよ、おばば〜」 幼い子供達が数人、一人の老人を囲んでいた。 それは晴れた、ある日の午後。 知らぬ物語を求める子供に、話して聞かせた昔話。 「その後かえ? 少女は未開の地で暮らしたんじゃ。新たな光を見つけてな」 「「「ふ〜ん」」」 + + + 去りゆく子供を見送って、老人は立ち上がるとその場を後にした。 この村の住人ではないのだが、そのことに誰も気づいてはいない。 森にはいると、かぶっていたフードをとりさった。 中から姿を現したのは、老婆ではなく一人の女性。 「……疲れた。まったく、語りのババというのも、疲れるものね」 "あら、ルーナ。変装は得意でしょう?" 「それとこれとは別問題よ。あなたは見てるだけでいいんでしょうけど」 腕を伸ばすと、ルナシュアは空を見上げた。 「どうなったの? ……か。見たことしか語らない私に、それを聞くのは、ねぇ?」 時はもうすでに蒼瑠璃1207年 朱珊瑚では151年 あの出来事から50年 ルナシュアは50年前と変わらぬ姿で、大陸を旅していた。 勿論、風鳥が常に見えないながらも側にいた。 その目的はただひとつ。 50年前にあったこと全て、自分の見た全てを物語として、語り回っているのである。 「で、フート。火馬の元にティナがいるというのは本当なの? 神龍山(シンロンザン)の中なんて、どれだけ広いんだか」 "あの子が嘘をつくことも、ないでしょう。付け加えて言えば、あそこの時間はおそろしくゆっくりだそうよ" その言葉に、さすがのルナシュアも、固まった。 今、風鳥――フートはなんと言った? 「……一体どういう無茶苦茶なの?」 "さて、それは見てみないとわからないから。あの空間の住人は、時を忘れて生きているのよ" 「遠回りしたわりに、あっちもそれほど歳をとってないってこと?」 "ええ" 見ている者はいなかったが、ルナシュアの口は開いたままふさがらなかった。 しかし、それでも久しぶりにあえるのだから……とも思う。 天運を変えた少女が、どうしているのか気になるから。 決意を胸に、語り部の女性は、神龍山へと向かっていった。 天運を絶対と思いその中で生きる者達は、その定めを変えられることを知らない。 だが、少女のように、自らの意志で道を選び変えることもできるのである。 人はおそらく、そんな者にあこがれを持つであろう。 語り継がれる、物語を聞きながら。 物語は、のちに大陸全土に知れ渡ることとなる。 そしていつの間にか、口伝えの伝承ではなく本など形として残されてゆく。 小さき少女の星の話と共に… 天運の中に 終 back top next |
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