第1話 『それは新たな出会い』

 それは、あの壮大な冒険から数年経った頃である。

 一人旅に出たティナは、神龍山(しんろんざん)の辺りをさまよっていた。

 神龍山……それは、リョーンとハルアンの東に位置する山脈地帯のこと。

 半島になっているテンマとプーテに地図上では繋がっているのだが、道はない。

 噂に寄れば年に一度だけ人の通ることができる道が現れるという。



 胸に携えるはミケルとアレスの形見である、風鳥の羽と水龍の鱗の飾り。

 背には剣を差し、黒髪は今や大分伸び、ポニーテールにされている。

 獣道をどんどん行っている先で、ふと不思議な印を見つけた。

 枝に結びつけられた、クリーム色のバンダナである。

 それは、等間隔に点々と続いており後ろから来る為の誰かへの道しるべにも思え。

「なんだろ?」

 気になったので、その印をたどりティナは先へ進んだ。





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 印は獣道からどんどんそれていき、しまいには普通の山道へと出てきた。

 バンダナの色はいつしか赤に変わり、それでもまだ山道の先へ続いている。

 軽い足取りでそのバンダナを追うと、小さな泉の側に出た。

 大木の根本にある泉には、動物たちが通うのか小さな足跡が点々と残されている。

 はらはらと落ちる小さな葉が水面に波紋を創った。

 風が吹き抜けるその場所はなんだかとても気持ちよさそうで、ティナは木の根本に座ると目を閉じたのだった。









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「カーテ〜? まったく、今日はどこに行ったのよ」

 響くのは、女性の声だった。

 首の後ろだけを背の中程までにのばしている、えんじ色の髪。

 ザンバラで長い前髪をかき上げたそこにはアメジスト色の双眸。

 紫のリングを耳にはめ、上半身は黒の長袖を着ており、その上にかける肩掛けは白。

 腰には茶色いベルトで小さなポシェットとクリーム色の大きな布をとめ、その下は真っ黒なズボンである。

 両手首には小さな水晶の付いた黒のリング。白の肩掛けを止めているのはおそらく水難よけの水晶であろう。

 歩き慣れた足取りで茂みをかき分けた先に、ようやく目的の物を見つけたらしい。

 彼女は目を少々つり上げた。

「カーテ。あなた、また勝手に人の人形を持ち出して……壊れたらどうしてくれるの?」

"そんなこと言わないでぇ! 面白い子を見つけたから、導いてたの!"

 返ってきた返事は小さな子供の声である。

 しかし、それは空気を振動して伝わる言葉ではない。

「面白い子……?」

 目的の物を大事そうに持ち上げると、怪訝そうに「それ」を見つめる。

 その視線が、貴方ほど面白いものはないとでも言いたげだった。

"あたしじゃないってば"

「それは分かっているわ」

 ぴしゃりと返され、「それ」はしばし黙り込んだ。

 彼女は「それ」とは違い人の心など読めるわけがない。

 言ってもらえるまで先程の答えは分からないのだ。

 ため息をつくと、「それ」を抱え上げ頭を撫でてやった。

「それで? 今日は一体何を見つけてきたの?」

"うん、あのね……前に一度話したでしょ? 大地震のあった日。ミスカル達に関係の深い者達"

「確か、亡きウェクト復活を阻止できる唯一の者達……だったかしら?」

 そのことならよく覚えている。というか、記憶に新しい。

 少し前の春になる手前に起こった大地震。それはこの地 神龍山にも被害をもたらした。

 ウェクトとの関わりは自分としてはあまり無いつもりだ。

 確かに、祖父母の代までさかのぼれば少しは関係しているが、それはそれだ。

"うん、それ! あたし達の家に招待しようと思って"

「まったく、勝手に決めるんだから……それと訂正しなさい。あれは私の家よ。
 あなたはそもそもこの世界の生き物とちょっとずれているでしょ」

"は〜い"

 忠告もさして効いてないようである。

 彼女はその導かれてきた人物の居場所を聞き出すと、急いでそちらに向かったのだった。

 それが実は、彼女の家の近くだったことは歩くうちに気付いたとか。


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