第2話 『回想2:5年前』

 そして、時は早く過ぎ、翌年の春の緑月となった。

 ミケルにとっては楽しみだった季節がようやくめぐってきたのである。

 父親が、魔法学校に通うための修行をしてくれると言い出したのだ。

 魔法使いの学校に通えるのは、その才能を認められた者のみである。

 逆を言えば、才能のある者は何歳でも通えるのだ。

 ミケルは、昔から魔法使いの力がある、といわれていた。

 だが、父親が通うことを断固反対した。

 理由はわからないが、10歳までは、通うな! と厳しく言われたことがあった。

 そのかわり、父親は武器を扱う術を教えてくれた。だから、色々な武術は得意なのである。

 学校の入学試験は、春の華月にある。つまり、来月だ。

 これから一ヶ月、ミケルは基本的なことを父親に教わることになっていた。


 + + +


 月の終わり頃には、その勉強も大詰めとなった。

 ミケルはほとんど家の外には出なかったが、知識は人一倍詰め込んでいた。

 そのころには、窓づたいに遊びに来るクラフに、自慢できるレベルになっていた。

「ミケル! いかがですか?」

「勉強か? けっこ〜順調だぜ」

 丁度、飽きてきた頃なのでいい気分転換になりそうだ。

 背のびをしたミケルは、窓の外に顔を向けた。

 息せき切らせて駆け寄ってきたクラフは、呼吸を整えると微笑む。

「順調ですか。それはよかった。今どの辺ですか?」

 クラフはミケルが一緒の学校に通うのを、心待ちにしていた。

 うまくいけば、同じクラスになることも夢ではない。

「今か? とりあえず、精霊の召喚ができるぞ」

 サラリと言ったミケルの言葉に、クラフは驚きの声を上げた。

「ええええ?! もう、精霊の召喚できるんですか?」

「ああ、できるぞ」

 けろっと言うミケルにクラフは念を押す。

「本当なんですね? 普通はけっこうかかるのに……」

「そう、なのか?」

 不思議そうに尋ねるミケルを見て、クラフは思った。

(まあ、ミケルですからねぇ。さすがですね)

「ええ、まぁ。そうだ! 私、杖もらえたんです」

 クラフは、伝えようとしていたことを忘れそうになったので、慌てて思い出した。

「ホントか? 良かったな。見せてくれよ!」

 魔法使いである印―杖―はミケルの憧れでもあった。

「そのつもりで来たんですよ」

 クラフは、左手にしていた腕輪を外した。

 するとそれは、外したとたんポンッ という音をたて、杖になる。

 先についている水晶は八面体。少し珍しい形だ。

「すっげぇ……本物だ」

 ミケルは、言葉を失ってしまう。

 これが、自分の目指す魔法使いの持ち物……言葉などいらなかった。

「えへへっ。今日、試験の結果発表があって、上のクラスにあがれたんです!」

「そっか、よぉ〜し。オレも頑張って、追いつくぞ!」

 ミケルはクラフに刺激されてか、俄然やる気が出た。

 そして、再び勉強に取りかかりだしたのだった。


 + + +


 そして春の華月、最初の日 つまり、試験当日となった。

「次! 25番」

「はいっ!」

 25番……ミケルの番だ。少し緊張気味の顔で、前にでる。

 勿論、他の受験生が周りにいる中なので、無理もない。

「ふむ……資料によると、精霊の召喚も出来ると。しかし、いきなり召喚がねぇ……まあ良い、見せてもらうとしよう。こちらの言う順番に呼んでもらおう。まずは、土精だ」

 試験官の指示がでると、ミケルは両手を胸の前当たりに構える。

 そして、一呼吸おくと呪文を唱えだした。

「世界の全てを支え、この大地に宿りし偉大なる力。清らかな水を吸い込み、草木を育む者達よ。今、我が元へ集い、姿を現さん事を願う。精霊 召喚!!」

 現在のミケルの使う呪文とは少し違う。

 杖のない者達が使う、長く丁寧な呼びかけの呪文である。

 ザザザッ と、地面の土がミケルの前に集まり出す。それは、球体になると弾けた。

 中から姿を現したのは、大地と同じ色の目と長いバラバラの髪。とがった獣のような耳。

 首と手首には黒く光る輪。木の幹の色に似た袖無しに、茶色の混じる緑色の長ズボン。

 腰にはズボンが隠れる布を巻いている、土精だ。

「ふむ。早い上に、丁寧……と。しかし、他はどうかな? 次は、風精だ!」

「はい! 世界の全てを駆け、その空に宿りし広大な力。大地を乾かし、炎を助ける者達よ。今、我が元へ集い、姿を現さん事を願う。精霊 召喚!!」

 柔らかな風が、辺りを吹き抜ける。その風は、先ほどと同じように球体になると弾けた。

 姿を現したのは、腰まで届く澄んだ緑の長い髪と目、右耳にオレンジ色の輪のピアス、左耳には同じ色のリボンのピアス。

 両腕には翠色の腕輪をし、白い半袖に白いロングスカート。

 スカートの上には、透き通った緑色のスカートを着ている、風精だ。

 二度目ともなると、辺りから歓声が上がる。

「すげぇ」 「何で、あんな簡単に?!」 「おぉぉ」

 勿論、ミケルの顔つきは余裕だ。試験官は、続いて火精だ! と指示を出した。

「人の力により世界に生まれ、それらを助けし巨大な力。草木を燃やし、水に消える者達よ。今、我が元へ集い、姿を現さん事を願う。精霊 召喚!!」

 ポッ ポポポッ と、ミケルの前に炎が現れ、球体となり弾けた。

 姿を現したのは、ワイン色に近い紅い髪と目。その髪は、上で二つのお団子となっている。

 それを留めているのは、ピンクの布とリボン。左耳に紅い輪のピアスをし、水兵に似た濃いピンク色の袖無しを着ている。

 スカートは膝の上ほど。そして、手首と足首には淡いピンク色のポンポンをしている、火精。

 そして、最後の指示は、残った水精だ。

「世界を巡り、全てを癒す寛大な力。火を消し、大地を潤す者達よ。今、我が元へ集い、姿を現さん事を願う。精霊 召喚!!」

 シャボン玉のように、ミケルの前に水の泡が生まれ、球体となって弾けた。

 姿を現したのは、綺麗な海の色の短い髪(もみあげの部分だけは長い)と目。額に一本の白い角。

 えらの形をした耳。白い着物に青い帯の、水精。

「ふむ。なかなかじゃな。よろしい……次っ!」

「ありがとうございますっ!」

 ミケルは、試験官に一礼すると、自分の席に戻った。



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