第3話 『回想3:試験後』

 試験は順調に進み、昼には全て終わった。

 試験結果の発表は、夕方。

 ミケルは、それまで何をしようかな……などと考えつつ、試験会場である学校の中をぶらぶらと歩いていた。

「あっ! ミケル〜!」

 丁度昼休みだったクラフが、手を振りながら駆けてくる。

「ああ、クラフ。どうかしたか?」

「どうかしたか? じゃないです! 試験、どうでしたか?」

 ミケルは少し考える素振りを見せる。

「そうだなぁ……」

 そんなミケルを見て、クラフは少し心配になる。

「まぁ、どうにかなるんじゃねぇの?」

 ミケルがこういう返事をするときは、大丈夫な証拠だ。

「そうですね」

 そこへ、昼休みの終わりを告げる鐘の音が聞こえてきた。

「あっ……もう戻らなくては。じゃぁミケル、あとで一緒に発表を見に行きましょうね!」

「ああ」

 パタパタと駆けて行くクラフが見えなくなるまで見送ると、一度家に帰った。



 同日夕方。

 二人は全力で道を疾走していた。

 なんてことはない、家を出たのが発表時間ギリギリだったからである。

「……すみません。私が、帰ってくるのが遅くて」

 謝るクラフに、ミケルは振り返る。

 走りながらの受け答えで、二人とも呼吸は荒い。

「ああ? オレの所為でもあるから……別にいい!」

 ミケルが家に帰ってから、昼寝をしていた所為でもある。

 二人が学校に着くと、下のクラスの発表が始まっていた。

 基本的に学校は六年制。

 その人のレベルによって、飛び級をしたり、留年したりと色々だからだ。

 今のところ、一番卒業まで短かった人は、四年かかったそうだ。

 一番下の学年から、黒砂(こくさ)、緑羽(りょくう)、紅華(こうか)、青氷(せいひ)、紫闇(しあん)、黄光(おうらい)、と呼ばれる。

 ちなみに、クラフは今、第四学年 青氷にいる。

 今回の受験生は50人。黒砂、緑羽と続けて呼ばれたのは大体40人ほど。

「次は……紅華ですね」

「ああ」

 ミケルとしては、杖の貰える青氷になりたかった。

 なので、この紅華で呼ばれることを望んでいない。

「――以上が紅華だ」

 結局、ミケルの名が呼ばれることはなかった。

 学校の庭先に残っているのは、ミケルとクラフの二人だけ。

 そこへ、先ほどまで受験生の名前を読み上げていた人物――先生が、近づいてきた。

「え、あれ? 氷留(ひりゅう)先生?!」

「おや、クラフ君。……君の知り合いだったのかい」

「はい。あの、ミケルのクラスは?」

 心配そうに尋ねるクラフと、緊張しているミケルの前に氷留は立った。

 やわらかい微笑みが印象的なその先生は、教えてくれた。

「おめでとう。第四学年 青氷だよ。つまり、私のクラスになるんだ」

 二人は一瞬耳を疑ったが、氷留が嘘をつくハズはないサトると喜んだ。

「……っよっしゃぁ!!」

「すっごぉい。さすがは、ミケルです。一緒のクラスです」

 氷留は二人の喜ぶ姿を見て微笑んだ。

 ある意味で特殊な生徒を受け持つことになったにもかかわらず、彼は普段と変わらない。

 やっぱり、先生は凄いです。と、クラフが思っていたことは秘密にしておこう。

「さてと、ミケル君。授業は明日からだ。なので……杖を渡しておこう、ついて来てくれ」

「はい!」

 この日、杖を貰ったミケルは、夜まで嬉しそうだった。


 次の日から、二人は同じクラスでの勉強が始まった。

 勿論、ミケルの力は一目置かれる存在となった。


 + + +


 順調に三年が過ぎ、ミケルは今までで最短の時間で卒業となった。

 勿論、クラフも一緒である。

 卒業の時、スシャラ国の魔法使いである印 茶色いマントが送られた。

「嬉しいです。一緒に卒業だなんて」

「そうだな。……お前、これからどうするつもりだ?」

 学校を卒業すれば、魔法使いの資格は取れる。つまり、町の魔法術塔に登録されるのだ。

 魔法術塔――魔法使いが学校を卒業してから仕えるようになる場所だ。

 必ず、町に一つはあり、力を伸ばすことも、さらなる学力を付けることもできる。

 勿論、仕事も貰える。まぁ、魔法術塔に仕えている場合のみだけではあるが。

 登録さえされていれば、公の場で魔法を使うことをゆるされる。

 それ故、その特権を生かし他の職につく者もいた。

 ミケルがいう、どうするつもりとは、魔法術塔に仕えるか、別の道を選ぶかという事だ。

「私は、祭司になろうかと思うんです」

 祭司――神殿に仕え、普段は祈りを捧げる者。

 回復系、補助系の魔法を得意とする者達が、よく選ぶ道である。

 彼らはその力を使い、時として医者の役目を担っている。

「祭司か。なんか、お前らしいな、クラフ」

 そうですか? とクラフは首を傾げる。

 だが、ミケルは本心でそう思っていた。

 自分は祭司には向いていない。いくら魔力を持っているとは言え、その力を回復や補助にとどまらせることが苦手なのである。

 この三年間の間に、痛いほどよく分かったことだった。

「ミケルは、どうするつもりですか?」

「オレは魔法術塔に行く。でもって、国一番と呼ばれるまで上りつめてやるさっ!」

 目標は高くもて――と言うが、これほどその目標に近い者も少ないだろう。

 クラフは確かに、それだけの器をもっていると思っていた。

(やっぱり、ミケルはミケルですね)

「頑張って下さいね」

「おう」

 こうして、二人の学校生活は幕を閉じた。



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