第弐話 『学園の伝説』

 風が収まり、本当の開かずの間が開けているのが見えた。中は至って普通の教室と、なんらかわりはない。ただ、違うとすれば中にあるものであった。

 古びた机に、沢山の箱。そして、不思議な古文書のような本……

 開け放たれた扉は内側に開くものだった。

「一体、何が……痛っ」

「まだ動くな。おそらく、全てが還ったのだ」

「でも……」

 訳が分からないと言う顔をすると、睦月は無月を抱えたまま、立ち上がった。

「全て話す。生徒会室にゆくぞ……卯月、開かずの間の扉を閉めてきてくれ。我らと、無月にしか開かぬように」

「わかりましたわ」

 卯月の返事を確認すると、睦月は初音と共にそのまま二階へ上がった。

 去ってしまった3人は知らない、その部屋にはいる時、卯月の背後に微かな影があったことを。



 + + +



 生徒会室には、副会長と会計兼書記の二人がいたが、睦月が帰宅令を出すと渋々帰っていった。

 無月をソファーにおろし、濡れたタオルを手渡すと、即座に制服からツツジ色の着物と紺の袴へ着替える。

 卯月が生徒会室にやってくると、睦月は業務用の大きな椅子に座り込んだ。

「どこから話すか? いやその前に……卯月。初音とは初対面だったな」

「そう、でしたわね。初めまして、ワタクシ桜木 卯月(さくらぎうづき)と申しますわ。今は1年5組に在籍ですの」

 ぺこりと頭を下げると、卯月は二人の対面に座った。

 三人より一つ下……と言うことになるのだが、態度とその口調から一つ上のようにも見える。

「こっちは霜月初音。我と無月と同じクラスで、喋らないのは元からだ」

 一瞬ホントは事情があるのかもしれないと思ったのだが、今はそんなこと関係ない。

「……(礼)」

「では、初めて良いか? 三人とも」

 机の上でひじをつくと、睦月は手を組んだ。

 ハッキリとした、聞きやすく落ち着いた声にトーンが下がる。

「聞きたいことを聞くより、全て話した方が早いな。卯月、それでよいか?」

「構いませんわ。後ほど補足でしたら致します」

 扇を開き閉じしていた動作を止め、卯月は足を組んだ。

「では話そう……そもそもの大元は、この学園の伝説にある」

 睦月が淡々と語りだしたのは刻ノ宮学園にまつわる10の伝説だった。

 それが真実かどうかは、誰も知らないとされた学園の不思議 10の伝説である。



高等部にある伝説は学園敷地内それぞれにある場に関する物が殆どだ

しかし 一つだけ違うモノがあった

それが伝説の一つ目 十二の月人とそれらを纏める一人の長

長にあたえられし力でそれを守る月人

その力を守りきったのは 睦月と卯月祖先の二人だけ

それ以外の者達は 戦いに敗れ 散っていった

残った二人の祖先は 自分から消えない力を見て 長の生まれ変わりを信じた

いつかまた 再来の時が訪れるだろうと……

その再来を待つべく 力を持って生まれた子に 睦月と卯月の名を与え 時を過ごしてきたのだ

そして 鍵となるのが伝説の二つ目 開かずの間

先程、無月の開け放ったあの部屋である

あの部屋を開けられる者こそ 月人の長たる何よりの証拠

解き放たれた光玉が 奪われた残りの月人達の力

その光に認められたと言うことは 初音もまた月人の一人であるといえる




 残る月人達――それを、速急に集めなければならない……と、睦月はここでいったん言葉を句切った。

 まだよく理解しきれてない無月は、そんな顔をしながらも初音の膝を枕にし寝ころんだ体制で頷いた。

「無月、手の甲に六芒星が浮かんでいるだろう」

「え? ……あ、ホントだ」

 無月の両手の甲にはうっすらと線で描かれた六芒星があった。

「それが印だ。そして、ここにいる者達の力だが、我は刀……この常に持つ正元鬼(しょうがんき)を媒介に、剣技を使う。
 卯月は扇と呪符を媒介にした除霊系の力だ。そして、おそらく初音のは言霊だ」

「言霊?」

「そうだ。言霊は魂の宿りし言葉(ことのは)を言う。初音の言葉には、言ったことを現実化させる力がある。しかし初音、何故散れなどと?」

「……(汗)」

 初音は膝に頭を乗せている無月にボソボソと何か言った。

「……無月?」

「いけなかった? って」

 返答に詰まる睦月を卯月は助けるかのように口を開いた。

 昔から、無月にお願いするかのような目で見られるのには、弱いのだ。

「いけなくはありませんわ。ただ、どうしてその発想が出たのかを、知りたいんですの」

「……」

「初音ちゃんは、その方がいいと思ったんだって。よいしょっと」

 黙り込んでしまった初音を見て、無月は体を起こすと、横に座り直した。

 まだ少々クラクラするが、いつまでも初音に膝枕をしてもらっていては、と思ったのである。

「押しとどめるよりも、行きたいところに行かせなきゃいけない気がしたんだってさ」

 一瞬、驚いたような表情を見せたが、睦月はすぐに口元をほころばせた。

「まぁよいだろう。月人となった証は力ともう一つ。体のいずれかにある紋様だ」

 確かに、初音は力を受け取った時、両頬に雫に似た形の赤いダイヤの痣が浮き上がった。

「ワタクシのはここですわ」

 卯月の指し示すのは左側の鎖骨の上当たり。三枚の桜の花びらをかたどった痣だ。

「普段はあまり目立たぬがな。我のはここだ」

 三人の側までくると、睦月は額の長いはちまきを取った。

 薄く浮かび上がる円とその横につく底辺のない三角。太陽をモチーフにしたような痣である。

「これは力を取り戻してからでなくては現れぬ。あまり、当てにはならんな。それと、力を開放する時にしか浮かばぬ」

 睦月の言うとおり、3人の痣はすぐに薄れていった。

「ともかくですわ。残りの9人を集めなくては……それでなければ」

 卯月の中には一つの物が思い浮かんでいた。だが、まだそれを口にすることはできない。

 あの光玉は月人の力だ、集めずとも、自然と集まってくるかもしれない。

「そう……だな。無月、今日はもう帰れ、送ってゆきたいところだが、まだ仕事が残っていてな。くれぐれも、今日のことは師走には話すなよ」

「どうして?」

「どうしてもだ」

 当然、心配性の奴に話せば、とんでもないことになりかねん、などと考えている睦月は即答した。

 何故ここで双子の兄が出てくるのか、無月には理解が出来なかった。



 + + +



 その日、家に帰ると無月はすぐに床についた。

 これから始まるひと味違う、学園生活を夢に見ながら……



刻は来たり とうとう巡り合わせてしまった

決着は やはりつけなければならない

今はただ 全ての者達がそろう刻を 待つとしよう

審判はそれからでも まだ間に合う

今度こそは 間違った方へは進まぬように……


back top next

(2004/03/29訂正)

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送